★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

榾火はとっぷりと

2015-04-29 12:36:59 | 文学


 松三はこう言いながら、自分の美しかった若い妻が、菊枝の母親が、いかに惨めな半生を送ったかを、農村の女達がいかに虐げられるかを思った。
 太陽はだいぶ西に傾いて、淡い陽脚を斜めに投げだしていた。緑の新芽は思い思いの希望を抱き、榾火はとっぷりと白い灰の中に埋もれていた。

――佐佐木俊郎「緑の芽」