
こないだの關東の大震災のときには、淺草の觀音のお堂の裏のいてふの木は片側半分は火に燒けても、他の半分の枝葉のために火がお堂に燃えうつるのを防ぎました。ひとりいてふに限らず、しひのきやかしのき等、家のまはりや公園の垣根沿ひに植ゑてある木は、平常は木蔭や風よけになるばかりでなく、火事の時には防火樹として非常に役に立ち家も燒かずに濟み、時には人の命すら救はれることがあることも忘れてはなりません。
こんなに樹木でもお互にとつていろいろな役に立つことをお知りになつたら、みなさんも道ばたに遊んでる子供がなみ木の皮を剥いたり、枝を打つたりしてゐるのを見られたらすぐに言ひ聞かせて、とめて下さらなければこまります。それはとりもなほさず樹木を愛し、引いては山をも愛することになつて、國家の安榮をつくることになるからです。
――本田静六「心理と樹木と動物」