★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

百日紅

2023-06-18 23:10:39 | 文学


 ふと百日紅の赤いのが眼について、はつとして気が附く。一緒に歩いて来た筈の友達はずツと後になつてゐる。
 待つてゐる。大きな木の蔭で、
『もう、腹が減つたね、何時だえ。』
『もう一時だ。』
『ぢや腹も減る訳だ。』友は私の傍に来て、『何処か凉しい処はないかな。』
『此町では、とても、さういふ処はありさうもないね。』
 荒川のだといふ……大きな生の好い鮎の塩焼。


――田山録弥「百日紅」