
「彼はドスンドスンと地響をたてて追ってくるから、彼の位置が手にとるように分るのだ。また速力もちゃんと分る。だから要心して大きく離す必要はない。胸の厚さだけ前へでて軽くあしらっているのだ」
誰しも必要以上にホラを吹きたがるものであるから、ホラだけなら光也は腹も立てなかったのである。「ドスンドスンと地響をたてて」という甚だ好ましからぬ表現に彼は立腹したのである。
それは事実そうであった。それだから光也はやりきれない。自分の耳にもドスンドスンという地響がきこえるのだ。人々が自分を牛とよぶのはモットモだと考える。自分の走る地響が、自分の耳にも牛のようにきこえるのだった。
No1は跫音もたてないような痩せた優男であった。女学生に人気があった。そのために、女学生は負けた彼をからかった。
「足跡をならしておきなよ」
そんなひどいことを云う女学生があった。決勝点の附近の柵に腰かけて、足を宙にブラブラふり柿やパンをかじりながらワイワイ云ってる女学生どもであった。
「ズシンズシンと負けちゃッたわね」
と云って彼の方にわざと拍手を送る奴もあった。
――坂口安吾「牛」
ウルトラマンと牛のような怪獣の決闘は見応えがあった。上の怪獣は富士山の頂上にいて、しかもたしか蜃気楼であった。