
就職問題で始終頭を悩ますと同時に、卒業試験が可なり気になる。これでお仕舞いだからといって、教授連中は斟酌してくれない。出来ないものを卒業させると学校の信用に関するから、進級試験よりも寧ろ厳重だ。うっかりしていると、就職が及第で学校が落第のこともある。素より卒業が条件で採用されるのだから、これは当然取消になる。そこで学問と社会の両方面へ心を配らなければならない。教室と掲示板に等分の注意を払うことが必要となる。
学校の掲示板も、
「何教授今明両日休講」
なぞというのを楽しみにしている中が花だ。昨今の掲示は学生の運命を決定するから恐ろしい。
「駄目だよ」
と口には言っても、会見をして来たものには皆多少自惚がある。自分のことだから然う悪くばかりは考えない。殊に多少縁故もあるし、馬鹿に調子が好かったと思って九分通り大丈夫の積りでいる男が、
安田関係諸会社に就職確定したる諸君左の如し
の次に他の名前ばかり立派に並んでいるのを見て顔色忽ち蒼白となる。
――佐々木邦「恩師」
大学は雨のため休講