この報告が、事件簿に分類されなかったことを祝します。
しかしながら、慎重さに欠ける家族であることの証明は、いたるところで確認された。
相撲に詳しくなく、スポーツ観戦もあまりしないわたしは、単に両親を喜ばせんがためと付いて来たはずだが、一度に虜になってしまった。
少なくとも、今場所は相撲のニュースを心待ちにするだろう。
土曜の朝10時14分のしらさぎに乗るため、両親は早めに来るだろうからと、こちらも30分前に温泉駅に到着したら、あにはからんや、すでに待合室にいた。
9時15分に来ていたらしい。
家にいても暑いので駅の待合室に早めに来たと言い訳していたが、何日も前から眠れない夜を過ごしていたに違いない。
もう遠出は出来ないとふたりとも諦めていたのだから。
電車では向かい合って、すぐにビールと昼用に買った柿の葉寿司や鯛のいなりを肴にした。
特急お見送り事件や、過去の失敗を肴にもした。
そうこうしているうちに到着。
弟はホームに出ていてくれたのに、わたしたちは杖でやっと歩いている父をエレベーターに乗せることばかり考えて、さっさと改札を通り過ぎてしまった。
「桜通り口」で、しばしすれ違う。おまけに雑踏で電話の鳴っていることに気づかず、ロスタイム10分。
両親と弟と、わたしたち夫婦は別々にタクシーに乗った。
弟曰く「電車の中で姉ちゃんしゃべりっぱなしやったって・・」と、
あんなにはしゃいでしゃべっていた父が弟に言ったらしい。
先手を取られた。絶対向こうのほうがうるさかったって。
相撲はすでに始まっているが、席はまばらである。
十両の土俵入りあたりからぽつぽつ増えていくようだ。
母が無類の相撲好きなことを、長いこと知らなかった。
自己主張もしない静かな母なので分からなかったのである。
この日も「ひいきの力士は?」と聞くと、間髪を入れず
「栃乃洋!!」当然、石川出身の力士である。
初めての観戦は感動だった。
とにかく力士の名を呼ぶ。
母は声が通らないので掛け声をかけたいが残念だという。
父も弟も代わりに声をかける。でじまー
姪も中入り頃に到着。「とちのなだぁ」と、叫ぶとなかなかいい感じ。
これは、観客がいかに力士を盛り上げるかと言うことなのだと思う。
天井にまっすぐに足が伸びるしこを踏む片山に、観客がどよめく。
高見盛りは、やはりパフォーマンスをしてくれる。
勝てば会場はどよめく。
栃乃洋は負けたものの粘った相撲を取ってくれた。
若の鵬は、飛び跳ねて会場を沸かす。後ろにいた小学生が詳しくて
「八艘跳びや」と、叫んでいた。
おまけに「初白星や」と、言うので星取り表を見ると確かに八連敗だ。
子供の声を出すお爺かと思った。ふりむいたら可愛い小学生だ。
外人力士の多いこと、その中で日本の期待の星「琴光喜」登場。
愛知岡崎出身。掛け声もあたこちから飛んでくる。子供から女性から、野太い声。
そのうち拍手が手拍子と変わり「ことみつき」「ことみつき」との連呼と共に、会場内は大盛り上がり。鳥肌が立つ。
全員の手拍子が立会いと共に声援となり、負けたとたん悲鳴と落胆のため息。
だんなは、あまり人前で盛り上がったり、声援をかけたりしないタイプでいつも、わたしを冷ややかに見ているが、この日は違った。
やたら声を掛け、高見盛の時にスポンサーの賞金がついて、
CMの「永谷園のお茶漬け」の幕が土俵を回っている最中も
大声で「ながたにえーん」と、叫んでいた。
四股名もおもしろくて、メモしているうちに、父の四股名がひらめいた。
「尻響」(しりひびき)である。後で伝えるとしよう。