90歳になったうちの爺さんは、最近めっきりしゃべらなくなり、TVをつけることが日課になっている。
今の家を建ててから、11年経ったが、この家になってから爺さんは自分の空間も時間も、神様に預けたみたいになっている。天気が良い日は、ウッドデッキの椅子に腰掛けて、外の空気と同化している。
普通に会話は出来るが、めったにしゃべらない。そのかわり、爺さんの作品が多くを語っているような気がする。
我が家は、正面玄関より小屋のほうの玄関を通用口にしているので、その横にずらっと並んだ爺さんの過去の作品が、家とともに味わい深くなってきた。車を降りて木の間から見えると、それらに「ただ今」と言いたくなる。
そういえば、茶の間でTVを観ている爺さんに「ただ今」と、言ってもにゃっと笑ってうなづくだけだ。
爺さんの作品に似ている。