2014年6月27日 (金)
外務省の有識者懇談会が、約11年ぶりの
ODA大綱の見直しを議論しています。
その中でODAで軍隊を支援できるよう、
大綱を見直すことが提言されています。
従来は非軍事であっても軍隊への支援は、
ODAの対象としていませんでした。
安倍政権の「積極的平和主義」の流れで、
こういった他国軍との連携強化のために、
ODA資金を使いたいのでしょう。
軍隊への支援といっても災害対策だとか、
沿岸警備隊(軍隊扱いの国も多い)とか、
そういう用途ならいい、という説明です。
こういった「ODAの軍事化」に対しては、
次の4つの理由で私は反対です。
1)教育や貧困対策等の他のODAが減る。
2)相手国の軍事力強化につながる。
3)第三国が見たら軍事援助と同じ。
4)軍による災害援助や復興援助は高コスト。
第一にそもそもODA資金は減る傾向です。
少ないパイを軍隊への援助に回してしまうと、
ユニセフへの拠出金とか教育や貧困対策とか、
他の支出に回すお金が減ってしまいます。
2012年の日本のODA実績(支出純額)を見ると、
米国、英国、ドイツ、フランスに次ぐ5位です。
英国やフランスは人口と経済規模で日本の半分です。
日本の半分の国力の国より、ODAは少ないです。
日本はODAにGDPの0.17%しか支出せず、
国民所得に占めるODAの割合も低い方です。
北欧諸国はGDPの0.9%くらいです。
国際目標はGDPの0.7%とされます。
英国で0.56%、ドイツで0.38%です。
日本よりケチなのは、韓国、ギリシャ等。
自国経済がたいへんなのはわかります。
しかし「積極的平和主義」と言っているわりに、
ケチで消極的なのは、とても残念です。
いっそのこと積極的平和主義の看板を下ろし、
あんまりODA出せませんと正直に言う方が、
誠実な印象を与えるのかもしれません。
第二に非軍事援助でも、軍事力強化になります。
単純に日本からODAで援助してもらった分は、
そのお金が浮くので、他の用途に使えます。
また、軍の航空機による海洋の人命救助なども、
単なる人道的な理由だけではありません。
戦争に勝つために力を入れているだけです。
戦闘中に撃墜された戦闘機のパイロットなどの
よく訓練された戦闘員を救い出すことが、
戦闘力と士気を維持するのに役立つからこそ、
軍隊が人命救助に熱心に取り組むのです。
工兵隊(自衛隊では施設科)の災害復旧能力は、
戦闘で壊れた施設を復旧する能力と同じです。
軍の工兵隊の災害援助の能力を強化することは、
戦闘能力を強化することと同義だと思います。
非軍事の軍隊へのODAは許されるというのは、
以上のような配慮を欠くものです。
第三に非軍事援助であっても、他国から見れば、
前述の理由で軍事援助とちがいがわかりません。
フィリピンの沿岸警備隊に巡視艇を供与しても、
中国のマスコミは「日本による軍事援助だ」と
クレームをつけます。
沿岸警備隊への援助は、私も必要だと思います。
中国の誤解なので、反論するか無視すべきです。
しかし、そういうふうに受け取られる可能性は、
事前に十分に承知しておくべきです。
沿岸警備隊への援助であっても批判されるのなら、
軍隊への直接的な援助はもっと批判されます。
世界の平和に貢献するはずの日本のODAが、
結果的にあらぬ誤解を招くのは損です。
まして軍事的緊張を高めるなら目的に反します。
第四に軍による災害援助や復旧は高くつきます。
自衛隊で災害援助とか医療援助とかをやるのは、
政治家や国民にも受けます。
自衛隊が、日本国内で災害援助や復旧をやるのは、
ロジ的にも費用対効果は十分に高いでしょう。
あるいは在日米軍が日本の被災地で支援するのは、
十分にコスト的にも政治的にも割に合います。
しかし、海外に自衛隊を派遣すると割高です。
えらく費用対効果の低い災害援助になります。
インドやパキスタンで自衛隊の災害援助を見たし、
アフガニスタンや東チモールで各国PKO部隊や
多国籍軍の復旧援助を見たことがあります。
軍隊にはコスト意識がほとんどありません。
自衛隊員の人件費や危険手当の額を考えると、
現地の労働力を活用する方が安上がりです。
紛争国などでは日給10ドルで人が雇えます。
もっと安い国も多いことでしょう。
しかも現地の雇用創出に役立ちます。
自衛隊員を海外に100人送る費用があったら、
おそらく現地労働力を5千人くらい雇用でき、
インフラ復旧事業に使った方が効果的です。
日本に限らず、PKOによるインフラ工事は、
あまり平均点が高くない印象を受けます。
援助の世界は「軍から民へ」の流れが必要です。
そもそも自衛隊は予算要求の時期になると、
いつも人が足りないと主張しています。
足りない人員を海外に送ってもいいのか、
私は大いに疑問を持っています。
軍隊組織にしかできない国際援助もあります。
それは停戦監視であったり、地雷除去です。
もっとも地雷除去はNGOでもやってますが、
軍隊組織でやるのも効果的な分野です。
日本の自衛隊が、力を入れるべき分野としては、
停戦監視のように直接平和に役立つ分野です。
あるいは、ソマリア沖の海賊対策のように、
民間では逆立ちしてもできない分野です。
援助機関や国連機関、NGOでもできる仕事は、
自衛隊は手を出す必要はありません。
この時期に「積極的平和主義」の美名のもとで、
ODAの軍事化が進まないことを願っています。
引用元http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog/cat6166620/index.htm