この状態が現在も続いている。24年7月ころから民間在庫は対前年同月比で40万トン程度少なくなっている。

【図表】各月民間在庫の前年差の推移
図版=筆者提供

消えたのではなくコメがないから、集荷競争が激化し農協の集荷量が減っているのだ。

沖縄返還交渉の際の日米密約や森友文書など、役所があるものをないと言ったことはある。これは難しいことではない。役所が持っているので隠せばよいからだ。しかし、ないものをあると言ったことは寡聞にして知らない。ないのにあると証明しなければならないからだ。これは不可能である。

立証責任は農水省にある。ないのに消えたと強弁した農水省の幹部や同省の言うままに記事を書いた記者は、今頃不安にさいなまれているのではないだろうか?

許せない卸売業者悪玉論

今回の一連の不手際で私が許せないのは、卸売業者をとにかく悪玉にしようとする農水省の姿勢である。

コメの卸売業者は農政、減反政策の犠牲者である。コメの市場は1960年代の1300万トンから、減反政策によって現在では650万トンまで半分に減少した。

農家や農協は政治力を使って権益を確保した。減反はその手段だった。しかし、政治力のない中小のコメの卸売業者は、コメ市場が縮小させられることに対して抵抗するすべもなく店をたたんで消えていった。コメの卸売業者数は1982年の279から2021年には142に半減している。

農政の犠牲者をさらに鞭打つようなことは行うべきではない。