本日はリー・モーガンのデビュー盤をご紹介します。モーガンについては以前にサヴォイ盤「イントロデューシング・リー・モーガン」を取り上げましたが、その録音が1956年11月5日。本作「リー・モーガン・インディード!」はその前日の11月4日にブルーノートに吹き込まれたものです。おそらくですが、フィラデルフィアからやって来た天才トランぺッターのことは当時のニューヨークのジャズシーンでは話題になっていたのでしょうね。その中でいの一番にレコーディングの機会を用意したのが、若い才能の発掘に定評のあったブルーノート社長アルフレッド・ライオンでした。ブルーノートの本気度はこのセッションのために用意したサイドメンからも伺えます。リズムセクションはホレス・シルヴァー(ピアノ)、ウィルバー・ウェア(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)の3人。ジャズ・メッセンジャーズで成功を収め自身のコンボを率い始めたばかりのシルヴァーにマイルス・デイヴィス・クインテットの伝説のマラソン・セッションを前月に終えたフィリー・ジョーが18歳になったばかりのモーガンを囲むという構図です。もう1人クラレンス・シャープという謎のアルト奏者が加わっていますが、モーガンとはフィラデルフィア時代の盟友のようです。
全6曲、スタンダードは1曲もなく全てジャズ・オリジナルです。1曲目”Roccus"はホレス・シルヴァーの自作曲。ややエキゾチックなイントロからシルヴァーらしい歌心あるテーマに移ります。モーガンのソロは実に堂々としたもので、大物揃いのリズムセクションをバックに緩急自在のプレイを見せつけます。3曲目”Little T"はドナルド・バードの曲で、バード自身もケニー・ドリュー「ジス・イズ・ニュー」で演奏していますが、録音自体は本作の方が先です。どういう経緯でモーガンが先に録音したのか謎ですが、ライバル的存在でもあったバードの曲をカバーするあたりモーガンの貪欲な姿勢が伺えます。演奏自体は痛快そのもののハードバップです。
それ以外はモーガンと同じフィラデルフィア出身のジャズマンの曲がそれぞれ2曲ずつ。1人はテナー奏者兼作編曲家として有名なベニー・ゴルソンで2曲目”Reggie Of Chester"とラストの”Stand By"を提供しています。ゴルソンの数ある名曲の中では有名ではありませんが、どちらも切れ味鋭いハードバップ。とりわけ”Stand By"はアルバムのラストを飾るにふさわしい名曲・名演と思います。シルヴァー→シャープと軽快なソロをリレーした後、満を持して華々しいソロを繰り広げるモーガンが圧巻です。もう1人のオーウェン・マーシャルはゴルソンと比べるとマイナーな存在ですが、モーガンとは仲が良かったのか次作「リー・モーガン・セクステット」にも”D's Fink"等2曲を提供しています。本作では3曲目のバラード”The Lady"が素晴らしいですね。まるでスタンダード曲かと思うような美しいメロディで、モーガンが18歳とは思えない匂い立つような色気たっぷりのバラードプレイを聴かせてくれます。5曲目”Gaza Strip"は今何かと国際紛争で話題になっているパレスチナのガザ地区のこと。マーシャルがどういう意図でこのタイトルを付けたのか不明ですが、本作収録時の1956年の時点でパレスチナ難民の集まる場所として国際問題になっていたようです。曲自体はマイナーキーのバップです。この後、生涯を通じてブルーノートに26枚ものリーダー作を吹き込むモーガンですが、本作はその第一弾にふさわしい完成度の高い名盤だと思います。