本日もヴォーカルものでメル・トーメを取り上げたいと思います。フランク・シナトラやトニー・ベネットとともに白人男性ヴォーカリストの代表的存在ですが、声質は中性的なハイテナーで一聴したところではドスを効かせた女性歌手に聞こえなくもないです。若い頃は俳優として映画にも結構出ていたようですが、シナトラと違って映画スターにはなれず、60年代以降は歌手に専念しています。本ブログでもベツレヘム盤を中心に何度か取り上げましたが、今日取り上げる作品は1960年にヴァーヴ・レコードに吹き込まれたものです。タイトルにあるシューバート・アレイとはニューヨークのブロードウェイにある通りの名前で、ミュージカルシアターが軒を連ねているところとのこと。そのことから想起されるように、全12曲ミュージカルナンバーで構成されています。
西海岸録音で伴奏を務めるのはマーティ・ぺイチ率いるウェストコーストのオールスターメンバーです。トーメは50年代後半のベツレヘム時代からマーティ・ペイチとたびたび共演しており(「ウィズ・ザ・マーティ・ペイチ・デクテット」「アット・ザ・クレッシェンド」)、本作でも質の高い演奏を聴かせてくれます。メンバーは合計11人おり、アート・ペッパー(アルト)、ビル・パーキンス(テナー)、ステュ・ウィリアムソン(トランペット)、フランク・ロソリーノ(トロンボーン)らソロプレイヤーとしても活躍する面々が加わっています。彼らは随所で短いながらもソロを取り、演奏に彩りを加えています。
全12曲、全てを紹介するのは大変なのでおススメの曲だけ解説します。まずはオープニングの"Too Close For Comfort"。スタン・ゲッツやアート・ペッパーも演奏した名曲ですが、ヴォーカルではトーメのバージョンが決定的と言って良いでしょう。冒頭のヴァースに続く歌い出しの低音部の声の伸びが思わずゾクッと来ますね。後半で聴けるアート・ペッパーのソロも素晴らしい。ソロと言っても20秒ぐらいしかないのですが、その短い間に輝かしいフレーズを散りばめています。3曲目"A Sleepin' Bee"はクインシー・ジョーンズやビル・エヴァンスも取り上げた曲で、ビル・パーキンスのソロを挟んでしっとり歌い上げます。4曲目"On The Street Where You Live"は「マイ・フェア・レディ」からの1曲。ペッパーやステュ・ウィリアムソンの短いソロを挟んで、最後にトーメが見事なスキャットを披露します。7曲目"Hello, Young Lovers"はJ・J・ジョンソン、8曲目は"The Surrey With The Fringe On Top"はマイルス・デイヴィスのバージョンがそれぞれ有名なので、それらと聴き比べるのも楽しいです。10曲目"Whatever Lola Wants"と11曲目"Too Darn Hot"はアート・ペッパーに加え、西海岸No.1のトロンボーン奏者フランク・ロソリーノのパワフルなソロも聴けます。ラストはレナード・バーンスタインのバラード"Lonely Town"をじっくり歌い上げて締めくくります。ここに挙げた曲以外も全て水準以上の出来で、まさに歌良し・伴奏良しの理想的なヴォーカル名盤です。