ハードバピッシュ&アレグロな日々

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ウィナーズ・サークル

2024-06-10 20:54:01 | ジャズ(その他)

本日はベツレヘム・レコードの企画盤「ウィナーズ・サークル」を取り上げたいと思います。権威あるジャズ専門誌ダウン・ビートの1957年度読者投票の各楽器の若手部門・ベテラン部門の受賞者(=ウィナー)達を集めたセッションで、合計13名ものジャズマンが顔を揃えています。セッションは1957年9月と10月の2回に分けて行われており、9月のセッションがアート・ファーマー(トランペット)、ロルフ・キューン(クラリネット)、エディ・コスタ(ピアノ&ヴァイブ)、ケニー・バレル(ギター)、オスカー・ペティフォード(ベース)、エド・シグペン(ドラム)の6人。10月のセッションがドナルド・バード(トランペット)、ジョン・コルトレーン(テナー)、ジーン・クイル(アルト)、アル・コーン(バリトン)、フランク・リハック(トロンボーン)、フレディ・グリーン(ギター)、コスタ(ピアノ)、ペティフォード(ベース)、シグペンまたはフィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラム)から成るノネット(9人編成)です。全曲に参加しているのはエディ・コスタとオスカー・ペティフォードの2人で、おそらくビバップ期から活躍するベテランのペティフォードが実質的なリーダーではないかと推察します。

ジャズファン的にはコルトレーンやドナルド・バード、アート・ファーマーらハードバップの俊英達がどんなプレイを繰り広げるか期待に胸が膨らみますが、あくまで大勢いるメンバーの一員でソロを取るにしても短時間です。一部のCDでは帯などで本作をコルトレーン作品のように紹介しているものもありますが、実際は半分の曲しか登場しないので要注意です。サウンド的にもハードバップと言うよりやや室内楽的な要素の入った小型ビッグバンドと言った感じで、ハリー・タブスと言う人がアレンジャーを務めています。他では聞かない名前ですがいったい何者なんでしょうか?

全8曲。奇数曲が9月のセッション、偶数曲が10月のセッションです。比較すると9月のセッションがより室内楽的な雰囲気が強く、ロルフ・キューンのクラリネットとエディ・コスタのMJQを思わせるヴァイブが独特の雰囲気を醸し出しています。アート・ファーマーやケニー・バレルも普段の熱きハードバッパーぶりを封印して、室内楽的な演奏に徹していますね。オープニングの幻想的なスローバラード"Lazy Afternoon"、曲名通り涼やかな雰囲気の3曲目”Seabreeze"、愛らしいスイングジャズ風の5曲目"She Didn't Say Yes"、ほのぼのしたブルースの7曲目"At Home With The Blues"とそれぞれ質の高い演奏揃いです。

10月のセッションはコルトレーンやドナルド・バードも加わった分厚い5管編成で、いくぶんダイナミズムが増しているような気がします。バードが高らかに奏でるテーマが印象的な2曲目"Not So Sleepy"、コルトレーンの飛翔するソロを皮切りにホーン陣が軽快にソロをリレーする4曲目"Love And The Weather"、リラックスした雰囲気のラストトラック"Turtle Walk"とどれも水準以上の出来ですが、私のイチ押しは6曲目"If I'm Lucky I'll Be The One"。カーメン・マクレエの1955年のベツレヘム盤に収録されていたバラード曲で、フランク・リハックの美しいトロンボーンソロで始まり、バードのテーマ演奏→クイルのアルト→コスタのピアノソロを経て、コルトレーンがため息の出るような美しいソロを聴かせてくれます。後を受けるバードの輝かしいトランペット、コーンのバリトンも素晴らしく、まさに珠玉の名演です。先ほど本作をコルトレーン目当てで買うのは要注意と言いましたが、限られた出番ながらコルトレーンのプレイはやはり際立っており、彼のソロをビッグバンド的アレンジの中で楽しめる貴重な作品となっています。それ以外のメンバーの演奏も一級品ですし、洗練された編曲と相まって文句なしの傑作に仕上がっています。

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