映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

こわれゆく世界の中で

2007年05月14日 | 映画(か行)

アンソニー・ミンゲラ。「リプリー」、「コールド・マウンテン」でジュード・ロウとは相性のいい監督です。
人生・愛、そのありようを深く静かに描き出す監督ですが、今回はロンドンが舞台。

キング・クロス地区。
大規模な再開発のプロジェクトにかかわる建築家のウィル。
長年一緒に暮らしている恋人リヴとは、何かしっくり行かないものを感じ始めている。
「最近見つめあったことがない・・・」というモノローグから、この映画は始まります。
もう、ずいぶん長く一緒に暮らしているのに、結婚はしていない2人。
リヴには、心の病をもつ娘がいる。
その娘を守ろうとするあまりに、彼女自身心を閉ざしているようにも思える。
その2人の輪から、阻害されているような気がして、踏み込めないでいるウィル。
そんな閉塞感は、実は長く暮らしている夫婦なら普通にあることかもしれません。
最近見つめあったことがない・・・?
わが身について言えば,ご同様かな・・・残念ながら。

でも、ドラマでは、事件がおこります。
ある日、ウィルは事務所に泥棒に入った少年を尾行し、その母リヴに心惹かれます。
彼女は服の仕立てをしていて、わざとに用事を作って近づいていくウィル。
リヴは、ボスニアの戦火を逃れて移民してきた未亡人。
愛を求め、満たされない2人が次第に心を寄せ合っていくのですが、ようやく心が触れ合ったと思ったその瞬間から悲劇が始まります。
ウィルは、窃盗をした少年ミロをどうしようとも思っていなかった。
でも、リブは、息子の窃盗を黙っている見返りに、自分の体を求められたと誤解してしまうのです。
これは救いようのないすれ違いです。
一瞬でも、心がつながったと思えた後だからこそ、見ているほうも、切なさ、残酷さに、胸がふさがるようでした・・・。
最後には、ウィルがある決断を迫られます。
それは辛く、また、人をも傷つけてしまう事なのですが、その自らの殻を破ったときに、本当の愛が生まれるということなんですね。
切なくも感動のラストでした。

欧米では、常に夫が妻に向かって「愛してるよ」とささやきますね。
日本ではあまりないなあ・・・。
そんなこと、言わなくても解るだろう、ということなのか。
単に、気恥ずかしいだけなのか。
大切なことは、そう簡単に口にすべきでないという文化なのか。
けれど、やはり、気持ちは言葉にしないと伝わらないのですよ!!
それを怠るから、夫が退職したとたんに妻から離婚を突きつけられる。
でも、それって妻にも問題ありますね。
そこまで我慢してないで、普段から言いたいことを言ってみればいい。
と、えらそうに言ってみても、やはりうちも、最近見つめあうことがない夫婦なんだなあ・・・。
こんな夫婦の倦怠は、やはり洋の東西を問わないということか。
すみません、映画から外れてしまった。


さて、この、リヴの息子役、ラフィ・ガヴロンは、オーディションで選ばれた新人だそうですが、この、バネ・敏捷さ、すばらしいですねっ!
その身の軽さに見とれてしまいました。
絶対、また別の作品で見たいです!!

それから、この作中でユニークだったのは、あの、娼婦役。
彼女が絡むシーンはとてもユーモラスで、勝手に人の車に乗り込んできて、誘惑。
その香水の残り香がリヴに浮気と誤解されそうになったので、リヴと同じ香水をプレゼントし、これを付けろというウィルも、なんだかおかしい。
また、彼女はちゃっかり車を盗んでしまったはずなのに、結局そのまま返して、しかもCDとキツネの襟巻き付、っていうのもおかしい。
深刻なシーンの多い中で、ここはつい、クスリと笑ってしまうシーンです。

この映画を観た後では、あの「ホリデイ」ではジュード・ロウがかなりのオーバーアクションであったことがよくわかりました。
ここではかなり抑え目で、自然な演技です。
ふと伏目がちの、憂いを帯びた表情・・・も~、たまりませんねえ。

2006年/イギリス/119分 原題 Breaking & Entering
監督 アンソニー・ミンゲラ
出演 ジュード・ロウ、ジュリエット・ビノシュ、ロビン・ライト・ペン、ラフィ・ガヴロン

こわれゆく世界の中で
こわれゆく世界の中で [DVD]
ジュード・ロウ.ジュリエット・ビノシュ.ロビン・ライト・ペン.マーティン・フリーマン.レイ・ウィンストン.ヴェラ・ファーミガ.ラフィ・ガヴロン.ポピー・ロジャース.ジュリエット・スティーヴンソン
ウォルトディズニースタジオホームエンターテイメント