映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ダンテ・クラブ 上・下」 マシュー・パール

2007年05月23日 | 本(ミステリ)

「ダンテ・クラブ」上・下 マシュー・パール  鈴木恵訳 新潮文庫

この本の帯『「ダヴィンチ・コード」著者ダン・ブラウン絶賛!!』の言葉につられて買いました。歴史スリラーということで・・・。
しかしそもそも私は翻訳ものは大変苦手なのです。
特にあの日本語離れした、こなれない日本語にはイライラさせられるし、カタカナ名前は覚えられないし・・・、
でもまあ、一昔から見ると最近の本はずいぶん読みやすくなっているとは思います。

ところが、この本の読み始めから、早速行き詰ってしまった・・・。
問題はこのダンテですね・・・。
ダンテの「神曲」。
遠い昔に歴史の授業で名前だけ聞いた覚えはある・・・。
しかし、そんなもの、読んだことがあるわけない!! 

この本の舞台は、アメリカ、1865年。南北戦争が終わった頃。
アメリカの有名な詩人ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローが、同じく詩人ジェイムズ・ラッセル・ローウェル、ウェンデル・ホームズなどの協力を得て、アメリカ初のダンテ『神曲』の全訳を完成させようとしている。
これらの人々の集まりが「ダンテ・クラブ」。
この時点でもう誰が誰やらわからないのですが、全て実在の人物で、ダンテ・クラブも史実です。
そもそも、このダンテの「神曲」自体が難解。
もちろん、このストーリーはダンテを読んだことがなくても(読んだことある人のほうがめずらしいよっ)十分解るようになっていますが、
なにしろ、これらの状況把握までに、いやになって、途中で投げ出そうかと思ってしまった・・・。
そこをこらえたのは、やはり、この異様な猟奇殺人の状況・・・。
それが気になって、途中では止められません。
まあ、こんな調子で、始めは戸惑うのですが、ある程度まで行くと登場人物にも親しみがわき、そして、事件・犯人が気になるので、途中からはノンストップでした。

始めに、体中に蛆がたかり、食い破られた死体が発見されます。
普通見られるハエは、死んだ組織にしか卵を産まないので、この人物は死後、ハエがたかったとおもわれるのですが、発見者のメイドは、彼女の腕の中で、彼の断末魔のうめき声を聞いたという・・・。
このような、体中蛆が食い尽くしている状況で生きながらえていたというのか・・・・、相当おぞましい状況です。
第二の死体は、穴にさかさまに埋められ、足だけ地面に突き出て死んでいた人物。しかし、その足だけ、黒焦げに焼き尽くされていた。
状況を見ると、生きたまま足だけ焼かれたようだ・・・。
これもまた、生々しくは想像したくない状況。

ダンテ・クラブの面々はこれらの事件が、ダンテの「神曲」をなぞっていることに気がつきます。
この「神曲」というのは、ダンテが地獄を旅する物語なのです。
地獄では罪を犯したものが、際限ない苦しみの罰を受けている。
その中の地獄の描写とそっくり同じ状況の事件が連続して起こっているのです。
下手をすると、自分たちが犯人だと思われかねない状況の中、彼らの真犯人探しが始まります。

もう一人、準主役的な人物がいて、それは、白人と黒人の混血という設定のニコラス・レイ巡査。
何しろ、奴隷解放直後という時代ですから、偏見、差別が露骨です。
警察の制服をきることすらも許されていない。
しかし、彼はそれを淡々と受け止めつつ、頭脳の冴えをみせる。
なかなか、いい感じの役どころとなっています。
終盤はダンテ・クラブと共同で事件解決に向かいます。

この作品は、マシュー・パールの処女作で2003年出版とともにベストセラー。
この年の話題作の一つ。
最大の話題作といえないのは、同じ年に「ダヴィンチ・コード」が出たから、ということです。
結果としては大変読み応えのある、ミステリ好きも満足の作品でした!!