はかないけれども鮮烈な、人の「生」を見守ってきたくすの木
* * * * * * * *
ある地方都市の外れ、小高い丘のうえにあるくすの木。
物語はまず一つのエピソードから始まります。
時は平安時代。
東下りの国司が襲われ、妻子を連れ山中を逃げ回っている。
体の自由がきかず、食べるものも飲むものも何もない。
まずは妻がこと切れ、次に夫が。
残された幼子は落ちていたくすの実を口に含んだまま命をとじる。
その口からこぼれた種が芽吹き成長したものなのか・・・。
千年を経てむしろ禍々しいほどの巨木となったくすの木が、
これまでに見たであろう様々な"人"のドラマを綴っています。
まずはこのプロローグのすさまじさに、息を呑んでしまいます。
1000年前といえば平安時代、ということなんですね。
京の都の貴族はさぞや優雅に暮らしていたかもしれませんが、
一般の人々の生活は貧しく、また当たり前に争いが絶えなかったであろう過去。
1000年の間にどれだけの人の生と死を目撃してきたのでしょうか。
ほとんどそれは神の視点に近く、人一人の生など全く短くてはかなく映るでしょうね。
物語は時代を自由に行き来しながら、語られてゆきます。
そのくすの木の根元で起こった出来事の数々。
いじめにあって首をつろうとした中学生。
空襲を逃れて、火に包まれた町をみおろす少年。
貧しさのために女郎として売られた娘。
つまらぬことで切腹に追い込まれた侍。
・・・・・・・
それぞれに必死に生きてはいるのですが、
1000年を生きるくすの木の視点から見ると現実は無常。
私たちの目前に現れたつかの間の主人公たちは、はかなく命を落としたりもする。
しかし、一瞬現れたその生は、鮮烈です。
このくすの木には、ちいさな男の子が住んでいるようです。
ぼろぼろの衣服をつけ、時々ヒト前に姿を現す。
何も悪いことをしたりしません。
まるで座敷童のよう。
それは一番始めに登場した、くすの実を食べたあの子かもしれませんね。
でも、いかに長寿の樹木であっても、いつかは終わりが来るものなんですね。
その終章には、1000年の終わりのことが書かれています。
何度か物語に登場した雅也は、
市役所の「あれこれ相談課」の係長になっています。
・・・つまり苦情処理係ですが、自分とも関わりの深いこの木の最後を見届けます。
この物語は、この木が命の終わりに近づいて、
思い起こした記憶の数々だったのかもしれませんね。
なんだか切なくなってしまいますが、
最後に、次の1000年への希望がほんのちょっぴり語られます。
命はつながっていくものでもありました。
多くの人間たちがそうしてきたように。
満足度★★★★★
千年樹 (集英社文庫) | |
荻原 浩 | |
集英社 |
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ある地方都市の外れ、小高い丘のうえにあるくすの木。
物語はまず一つのエピソードから始まります。
時は平安時代。
東下りの国司が襲われ、妻子を連れ山中を逃げ回っている。
体の自由がきかず、食べるものも飲むものも何もない。
まずは妻がこと切れ、次に夫が。
残された幼子は落ちていたくすの実を口に含んだまま命をとじる。
その口からこぼれた種が芽吹き成長したものなのか・・・。
千年を経てむしろ禍々しいほどの巨木となったくすの木が、
これまでに見たであろう様々な"人"のドラマを綴っています。
まずはこのプロローグのすさまじさに、息を呑んでしまいます。
1000年前といえば平安時代、ということなんですね。
京の都の貴族はさぞや優雅に暮らしていたかもしれませんが、
一般の人々の生活は貧しく、また当たり前に争いが絶えなかったであろう過去。
1000年の間にどれだけの人の生と死を目撃してきたのでしょうか。
ほとんどそれは神の視点に近く、人一人の生など全く短くてはかなく映るでしょうね。
物語は時代を自由に行き来しながら、語られてゆきます。
そのくすの木の根元で起こった出来事の数々。
いじめにあって首をつろうとした中学生。
空襲を逃れて、火に包まれた町をみおろす少年。
貧しさのために女郎として売られた娘。
つまらぬことで切腹に追い込まれた侍。
・・・・・・・
それぞれに必死に生きてはいるのですが、
1000年を生きるくすの木の視点から見ると現実は無常。
私たちの目前に現れたつかの間の主人公たちは、はかなく命を落としたりもする。
しかし、一瞬現れたその生は、鮮烈です。
このくすの木には、ちいさな男の子が住んでいるようです。
ぼろぼろの衣服をつけ、時々ヒト前に姿を現す。
何も悪いことをしたりしません。
まるで座敷童のよう。
それは一番始めに登場した、くすの実を食べたあの子かもしれませんね。
でも、いかに長寿の樹木であっても、いつかは終わりが来るものなんですね。
その終章には、1000年の終わりのことが書かれています。
何度か物語に登場した雅也は、
市役所の「あれこれ相談課」の係長になっています。
・・・つまり苦情処理係ですが、自分とも関わりの深いこの木の最後を見届けます。
この物語は、この木が命の終わりに近づいて、
思い起こした記憶の数々だったのかもしれませんね。
なんだか切なくなってしまいますが、
最後に、次の1000年への希望がほんのちょっぴり語られます。
命はつながっていくものでもありました。
多くの人間たちがそうしてきたように。
満足度★★★★★