人生の終焉と萌芽のコントラスト
* * * * * * * *
北海道、増毛(ましけ)。
かつてニシン漁で栄えたその町は、今ではすっかり寂れた小さな町です。
その地名は、全国の薄毛に悩む方のあこがれで、
その駅のキップがよく売れたとか売れないとか・・・。
まあ、それはどうでもいいのですが、
その寂れた海岸の家・・・というよりは小屋という雰囲気のところから、
1人の老人が飛び出してきます。
引き続いて若い女の子。
必死に、お爺さんを止めようとしているのですが・・・。
これがこの作品のオープニング。
老人は、この町でずっとニシン漁をしていた忠男(仲代達矢)。
ニシンがすっかり採れなくなっても、しぶとく漁師を続けていた、頑固者。
若い頃ニシン漁にあこがれて宮城県から移り住んできたのです。
若い女の子の方は、孫娘の春(徳永えり)。
この2人きりで暮らしていたのです。
春はこの町で仕事がなくなってしまい、いっそ東京にでも行こうかというところですが、
体の不自由なお爺さんを一人置いてはいけない。
・・・ということで、忠男の兄弟のところに置いてもらえないだろうかと、
親戚巡りの旅をすることになったのです。
いえ、そのように忠男は決めてしまったのですが、
春は、そんなことを言ったのをすっかり後悔して、
お爺さんを止めようとしているところだったわけです。
しかし、この頑固じいさんは止められない。
強引に始まった兄弟巡りの旅。
彼ら兄弟の故郷は、宮城なんですね。
今も、皆はほとんどそちらに住んでいる。
変わり者の忠男が勝手に家を飛び出して北海道なんぞへ行ってしまった、
と、こういう構図です。
羽振りのいい者、悪い者、刑務所に服役中の者(!)。
・・・羽振りがいいと行っても、それはかつての話。
よくよく実情を見れば、それぞれに生活はカツカツだ。
兄弟仲は・・・よろしくないですね。
顔をあわせただけでもう、憎まれ口が飛び出す、そんな風。
一緒に住もうなんて、とんでもないですよ。
行く前から結果は見えています。
しかも、威張って「オレを養ってくれ!」ですもんね。
どこへ行っても、疎まれ追い返されてしまう。
しかし、憎まれ口をたたきながらも、どこかほんのりと底の方に親しみがある。
これが兄弟ならではなんですねえ。
なにしろ、大御所、名優揃い。その辺の呼吸はもう、すばらしいです。
ただ兄弟間を巡るうちに見えてくる部分はあるのです。
忠男は体が不自由ではありますが、杖なしでも、結構歩き回ってます。
この旅をやり遂げたくらいですから・・・。
1人では住めないなんて、甘えですよね。
いみじくも、兄弟の1人がいいます。
「右足が不自由なら、切ってしまえ。
左足もだめになったらそっちも切ってしまえばいい。
そうして困ったら、いよいよ頼ってくればいいんだ。
何をあまえてるんだ」と。
非常に厳しい言葉ですが、一理あるとも思えます。
忠男は言うんです。
「妻も死んだし、春の母親も・・・。
おまけに体は悪くなるし。
何で俺のところにだけ、こんなに悪いことが起こるのかなあ・・・。」
いや、それは違う。
誰のところにも、そういうことは起きているのです。
もうすっかり分別があっていいはずのこの爺さん、結局世の中が見えていない。
しかし、この旅でようやく見えてくるものがある・・・ということなんです。
そうして、この旅をふりかえってみると、
もしこの旅が忠男1人だったら、かなり悲惨ですね。
それを救うのが春の若さです。
生命の芽生える春。
その季節と同じ名前を持つ、春。
そのエネルギーが、まあ、何とかなるんじゃない、という気持ちを引き出してくれる。
彼女が着ていた赤いジャケットが、その元気の象徴のようでしたね。
彼らがみな子供で一つ家にいた頃って、どんなだったのでしょうね。
そう思うと、かなり懐かしく切ないです。
時の流れの無常を感じます。
でもこの兄弟は、日本のあらゆる家庭の兄弟、
実はどこにでもある家族の風景なのだろうなあ。
しかし、今少子化が進む中、こういう関係は変化してきているのでしょうね。
かくいう私も、兄が一人いるだけなので。
さみしいもんです。
2010年/日本/134分
監督・原作・脚本:小林政弘広
出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、柄本明、香川照之
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北海道、増毛(ましけ)。
かつてニシン漁で栄えたその町は、今ではすっかり寂れた小さな町です。
その地名は、全国の薄毛に悩む方のあこがれで、
その駅のキップがよく売れたとか売れないとか・・・。
まあ、それはどうでもいいのですが、
その寂れた海岸の家・・・というよりは小屋という雰囲気のところから、
1人の老人が飛び出してきます。
引き続いて若い女の子。
必死に、お爺さんを止めようとしているのですが・・・。
これがこの作品のオープニング。
老人は、この町でずっとニシン漁をしていた忠男(仲代達矢)。
ニシンがすっかり採れなくなっても、しぶとく漁師を続けていた、頑固者。
若い頃ニシン漁にあこがれて宮城県から移り住んできたのです。
若い女の子の方は、孫娘の春(徳永えり)。
この2人きりで暮らしていたのです。
春はこの町で仕事がなくなってしまい、いっそ東京にでも行こうかというところですが、
体の不自由なお爺さんを一人置いてはいけない。
・・・ということで、忠男の兄弟のところに置いてもらえないだろうかと、
親戚巡りの旅をすることになったのです。
いえ、そのように忠男は決めてしまったのですが、
春は、そんなことを言ったのをすっかり後悔して、
お爺さんを止めようとしているところだったわけです。
しかし、この頑固じいさんは止められない。
強引に始まった兄弟巡りの旅。
彼ら兄弟の故郷は、宮城なんですね。
今も、皆はほとんどそちらに住んでいる。
変わり者の忠男が勝手に家を飛び出して北海道なんぞへ行ってしまった、
と、こういう構図です。
羽振りのいい者、悪い者、刑務所に服役中の者(!)。
・・・羽振りがいいと行っても、それはかつての話。
よくよく実情を見れば、それぞれに生活はカツカツだ。
兄弟仲は・・・よろしくないですね。
顔をあわせただけでもう、憎まれ口が飛び出す、そんな風。
一緒に住もうなんて、とんでもないですよ。
行く前から結果は見えています。
しかも、威張って「オレを養ってくれ!」ですもんね。
どこへ行っても、疎まれ追い返されてしまう。
しかし、憎まれ口をたたきながらも、どこかほんのりと底の方に親しみがある。
これが兄弟ならではなんですねえ。
なにしろ、大御所、名優揃い。その辺の呼吸はもう、すばらしいです。
ただ兄弟間を巡るうちに見えてくる部分はあるのです。
忠男は体が不自由ではありますが、杖なしでも、結構歩き回ってます。
この旅をやり遂げたくらいですから・・・。
1人では住めないなんて、甘えですよね。
いみじくも、兄弟の1人がいいます。
「右足が不自由なら、切ってしまえ。
左足もだめになったらそっちも切ってしまえばいい。
そうして困ったら、いよいよ頼ってくればいいんだ。
何をあまえてるんだ」と。
非常に厳しい言葉ですが、一理あるとも思えます。
忠男は言うんです。
「妻も死んだし、春の母親も・・・。
おまけに体は悪くなるし。
何で俺のところにだけ、こんなに悪いことが起こるのかなあ・・・。」
いや、それは違う。
誰のところにも、そういうことは起きているのです。
もうすっかり分別があっていいはずのこの爺さん、結局世の中が見えていない。
しかし、この旅でようやく見えてくるものがある・・・ということなんです。
そうして、この旅をふりかえってみると、
もしこの旅が忠男1人だったら、かなり悲惨ですね。
それを救うのが春の若さです。
生命の芽生える春。
その季節と同じ名前を持つ、春。
そのエネルギーが、まあ、何とかなるんじゃない、という気持ちを引き出してくれる。
彼女が着ていた赤いジャケットが、その元気の象徴のようでしたね。
彼らがみな子供で一つ家にいた頃って、どんなだったのでしょうね。
そう思うと、かなり懐かしく切ないです。
時の流れの無常を感じます。
でもこの兄弟は、日本のあらゆる家庭の兄弟、
実はどこにでもある家族の風景なのだろうなあ。
しかし、今少子化が進む中、こういう関係は変化してきているのでしょうね。
かくいう私も、兄が一人いるだけなので。
さみしいもんです。
2010年/日本/134分
監督・原作・脚本:小林政弘広
出演:仲代達矢、徳永えり、大滝秀治、柄本明、香川照之