映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ザ・ウォーカー

2010年06月23日 | 映画(さ行)
西の果てにあるものは・・・


             * * * * * * * *

文明が崩壊した近未来の地球。
イーライと名乗る男が一人、世界でたった一冊残るというある本を運び、
ひたすら西へと向かって旅をしている。

光景はひたすら荒れ果てた荒野。
モノクロ作品かと思うほどの色彩のなさ。
しかしセピア色を基調に微妙に様々な色調が現れます。
この極彩色を避けた色調は、むろん荒廃した地球を表しているのですが、
別の意味もあるようですね。


そこでは生活環境の荒廃というだけでなく、人々の心も荒れ果てている。
生き延びるためとはいえ、平気で人を傷つけ、奪い合う。
こんな世界でも町はあって、ある町ではカーネギーという男が独裁者となり君臨している。
彼はこの世界では大変貴重な汚染されていない水脈を独占して権力を得ていたのです。
そしてさらなる権力を得るために、ある「本」を探していた。




この本の正体は、まあ、予告編見ただけでも想像がついていましたが、
永遠のベストセラー、ホテルの部屋などにも常備されているアレです。
そんなわけで、このストーリーはなんだか神話めいてもいる。
「アイ・アム・レジェンド」よりよほど伝説っぽいです。
ところがこの本の秘密はそれだけには留まらなくて・・・。
うそー!!と思わずつぶやいてしまう結末が待っております。

で、あとでよーく考えてみたら、
いろいろと突っ込みたくなってしまう部分も多いのですが・・・
デンゼル・ワシントンの終始むっつりした表情が何ともいえない雰囲気を醸しています。
短剣を用いた戦闘シーンはまるで時代劇の殺陣のシーンを思わせます。
それも座頭市のような・・・。
切れのいいアクションとスタイリッシュかつシックな映像で
ひと味違うSFものとなっています。



それにしても、核戦争がもたらす文明破壊。
その後の人間社会。
そういう世界を描く作品は多いですが、どうも皆さん悲観的ですね。
自然も人の心もすさみきっている。
まあ、確かに一時はそんなこともありましょうが・・・、
もっと人々は慎ましく力を合わせて暮らしていくのではないかなあ
・・・なんて、甘すぎますかね?

西へ西へと旅したイーライがたどり着いたのは西海岸で、
そこのある都市の沖にはある島があります。
アクション映画にも時々登場するその島。
なので私は見ただけですぐわかっちゃいましたが。
非常に興味深い設定となっています。
しかし、西へ西へと旅して行き着くのは西方浄土ではなかったのか・・・。
もしくは、聖地まで行ってしまうのかと思っていました。
(それなら東へ行った方が早い?)
結局アメリカの国内なのがちょっと拍子抜けですけれど・・・。

このストーリーの原題は“The Book of Eli”
Eliすなわちイーライと読むわけですか、これを見てなるほどと思いました。

「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」
キリストが十字架にかけられ息を引き取る寸前の言葉ですね。
神よ、神よ、何故私を見捨てたもうたのです・・・

つまり、この神への呼びかけの言葉が彼の名前の由来なのでしょう。
たぶんこのストーリーは、キリスト教にさほど馴染みのない私たちよりも
欧米の方々のほうが、なにか感ずるものがありそうです。


2010年/アメリカ/118分
監督:アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ
出演:デンゼル・ワシントン、ゲイリー・オールドマン、ミラ・クニス、トム・ウェイツ