映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「1950年のバックトス」 北村薫

2010年06月20日 | 本(その他)
宝石箱みたいな短編集

1950年のバックトス (新潮文庫)
北村 薫
新潮社


       * * * * * * * *

北村薫氏の短編集。
そうボリュームのある本ではないのに23篇が収められている・・・ということで、
かなりのショートストーリー。
しかも、どれも上質。
うーん、贅沢。贅沢。


始めの方は、会談めいています。

いきなり「百物語」。
酔った女友達をやむなく自分の部屋に連れてきた彼。
彼女は絶対に寝たくないので朝まで付き合ってという。
時間つぶしに、百物語をしようということで、交代で怖い話をし始める。
彼女が最後に語った話は・・・。
寝ているときの自分は、自分では見られない。
実はどんなことが起こっているのかもわからない・・・。
そういう怖さをよく表していますね。

そんな話がいくつか続いて、これは怪談集だったのか・・・?と思ったのですが、
途中からはそうではなくなりました。


私が気に入ったのは「百合子姫・怪奇毒吐き女」
生徒会の副会長を務める先輩は、物静かで楚々とした美人。
彼女にあこがれ、密かに「百合子姫」と呼んでいる道夫。
ところがある日、彼女がパンク系の店で髑髏のイラスト入りTシャツを買っているのを目撃。
全然彼女のイメージではないけれど・・・男物だし・・・。
気になってしまい、ほとんど無意識で彼女の弟である級友に電話してしまうが――――。
ショートストーリー2話連作。
続きは彼女の弟が姉を語りますが、その実態は道夫があこがれていた女性像とは大違い。
というところが何ともユーモラスで、思わずクスリと笑ってしまう作品です。
私は、この毒吐き女であるオネーサンの方が好きですけどね。
活き活きしてます。


表題の「1950年のバックトス」
さすがに、この作品群の中では、最も光っています。
孫の野球の試合を見に来たお婆さんの秘密。
日本にもほんの一時、女子プロ野球の球団があったんですね。
1人のお婆さんの、遠い昔。
私たちは彼女の若く瑞々しい青春の一ページをかいま見ます。
その鮮烈さ、そして時の流れの永遠であり、また一瞬でもある不思議。
実に魅力的なストーリーでした。


また、ラストの「ほたてステーキと鰻」は、
これがとても男性が書いたとは思えない、女性の静かな日常の思いが綴られています。
巻末で桜庭一樹さんが、
「私の知っているあの子たちが元気に年をとって壮年に、老年になったみたいだ」
と言っていますね。
さすがプロの作家はうまいことを言います。
確かに、あの「私」が年をとればこんな感じ。


まさに宝石箱みたいな短編集でした!
あ、えーと、宝石箱といっても
お金持ちのマダムのダイヤの入った宝石箱じゃありませんよ。
子供の頃、もらったオルゴール付きの宝石箱。
自分だけの宝物をしまっていました。
この本の表紙みたいに、きれいなビー玉とかおはじき。
グリコのおまけ。
お祭りの屋台で買ったペンダント。

そんな懐かしい私の宝石箱です。


満足度★★★★★