映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アイガー北壁

2010年06月05日 | 映画(あ行)
人間の命は小さくはかないけれど、何かを成し遂げようとする心は偉大



               * * * * * * * *

1936年、ナチス政権下のドイツ。
国家の優越性を世界に誇示するために、
アルプスのアイガー北壁初登頂に、
ドイツ人のトニー・クルツとアンディ・ヒンターシュトイサーが挑んだ実話の映画化です。
その前にも多くのチームがこの北壁に挑んだのですが、いずれも失敗に終わっていました。
まさに直立する、とてつもなく高い壁です。
どこの国のチームが一番乗りとなるか。
マスコミでも大きく取り上げ、登山がイデオロギーに利用された、そんな時期なのです。

このドイツ青年2人とちょうど時を同じくして、オーストリアの2名も登り始めます。
結局この2組が競うことになってしまったのが、
失敗の原因のように思えるのですが・・・。


映画の色調に何となくレトロっぽさがアリ、当時の時代を思わせます。
しかし、カメラは、私たちも一緒に岩をのぼっているかのような
臨場感と迫力を描き出しています。
なんだかこちらまで寒くて固まってしまいそうでした・・・。



このアイガー北壁のすぐふもとに、シャイデックホテルというリゾートホテルがあり、
そこのテラスから望遠鏡で北壁を登る者の姿を一望できてしまうのです。
また、そこを通るユングフラウ鉄道は、
トンネルを抜けてアイガーヴァント駅では
なんと北壁の中腹にぽっかり空いた穴から、はるか眼下を見下ろすことができる。
高所恐怖症気味の私は想像しただけで足がすくみます。

いやはや、しかし、すごい観光に懸ける熱意ですね。
でも、やはり行ってみたくなります。
そしてぜひ、この鉄道に乗ってみたい!!

実はこの光景、そっくりそのまま、少し前に他の作品で見たのです。
1975年、クリント・イーストウッド監督・主演作品の「アイガー・サンクション」。
ストーリー自体は何じゃこりゃ、というものですが、
何しろ絶壁を登るのがクリント・イーストウッドなので、これはやはり見応えがある。
こちらも最後はイーストウッドがアイガーヴァント駅に近い坑道の穴を利用するのです。
考えてみたら、その「アイガー・サンクション」が、
この1936年の実話を参考にした、ということなのでしょうね。



当時の登山の装備が、何とも心許なく、いかにも寒そうで、まさに極限状態の極み。
それでも挑戦者が後を絶たず、そして成功した人が居る、というのには感動してしまいますね。
この二人は、アイゼンを自分たちで成形してましたし、
お金がないのでこの山までは自転車で300キロ漕いできていたんですよ・・・。
今は、装備は軽く、保温もかなりいいのですよね。
だから楽だとは言いませんが・・・。

巨大な壁、大自然の猛威。
そんな中で人間はいかにもちっぽけなのですが、
何かを成し遂げようとする“心”は、偉大です。
ただ、それでもなおかつ、自然の力が勝ってしまうことも多々あるということなのでしょう。
こんな荒々しい雰囲気の作中で、
トニーとルイーゼの心の絆が、また、光っています。
印象に深く残る作品となりそうです。



2008年/ドイツ・オーストリア・スイス/127分
監督:フィリップ・シュテルツェル
出演:ベンノ・フュルマン、ヨハンナ・ボカレク、フロリアン・ルーカス、ウルリッヒ・トゥクール