映画と本の『たんぽぽ館』

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「つるかめ助産院」 小川糸

2012年08月04日 | 本(その他)
南の島で考える、命の物語。

つるかめ助産院 (集英社文庫)
小川 糸
集英社


                   * * * * * * * * * 
 
夫の突然の失踪のため、
何のあてもなく、以前夫と訪れた南の島にやってきてしまったまりあ。
その島で、助産院を開いている鶴田亀子と出会い、本人も気づいていなかった妊娠を告げられます。
家族の愛を知らずに育ったまりあは、
思わぬ妊娠に戸惑いますが、この島のこの助産院での出産を決意。
院長や共に働くベトナム人のパクチー嬢、産婆のエミリー、旅人のサミー。
個性豊かな仲間と美しい海に囲まれ、
孤独な彼女の心がほぐれていきます。


この助産院というのは、できるだけ自然に任せたお産をしようとするもので、
島の人達だけでなく、本土からわざわざここに来て出産をする人たちもいるのです。
出産に関してだけではなくて、そこでの生活も、いわゆるスローライフ。
美しい南の島で、古来の人々がそうして来たように自然とともに生きる。
憧れはあります。
でも多分自分なら一週間もしたら音を上げるのかも。


けれどまりあのように人生に行き詰って落ち込んでいるときに、
すっと自分を受け入れてくれる、こういう場所があったら素敵ですよね。
少しずつ少しずつ、お腹の赤ちゃんが大きくなるに連れ、
まりあはこれまでの自分を見つめ直していきます。
確かに不幸な生い立ちではある。
でも、多くの人が自分に関わってくれたからこそ今の自分がある・・・。
誰に諭されたわけでもないのに、彼女は自分で気づいていくのです。
これは命の物語ですね。
人はみなこのようにして、光に包まれて生まれてくる。
・・・そうではないのかもしれないけれど、そう信じたい。
そう信じられる気がしてきます。


小川糸さんの物語の中で、やはりどの食べ物も美味しそうです。
シンプルで、素材の味が生きていて。
土地の生命力を分けてもらえそうな。
作品中は「南の島」とあるだけなのですが、モデルは沖縄のようです。
あったかくてどっしりしていて、とても頼りになる院長は、
あの石垣島で有名なラー油を作っている方のイメージなのだそうですよ。
なるほど・・・、納得です。
ラストのエピソードは出来過ぎな気がしなくもないですが、
ここまで成長したまりあへのご褒美ということで、いいんじゃないでしょうか。


巻末には、著者と宮沢りえさんの特別対談あり。
ちょっと、お得です。

「つるかめ助産院」小川糸 集英社文庫
満足度★★★★☆