映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

THE GREY 凍える太陽

2012年08月25日 | 映画(さ行)
生き方も死に方も、それぞれの道



                         * * * * * * * * * 

石油掘削現場で働く屈強な男たちを乗せた飛行機が、
酷寒のアラスカ荒野に墜落。
その時点で生き残ったのは7名。
襲い来る冷気、そして狼の群れ。
狼の縄張りを荒らしているらしいこの場を離れ、生き残るために、
彼らは南へ向かって歩き始めます。
しかし一人、また一人と 犠牲者が・・・。



うう・・・想像するだけでも恐ろしい。
寒さはみごとに人の気力を奪います・・・。
私ならいっそ飛行機事故で一気に死んだほうがマシだな、と思いながら見ていました。
こんな状況では運・不運は裏表。
最後の方まで生き残って余計につらい思いを味わうくらいなら・・・ということもありますよね。



リーアム・ニーソン演じるオットウェイは、狼を専門とするハンター。
だから狼の生態には詳しいのですが、
飛行機事故でライフルを失い、はじめから狼と戦う手段を奪われてしまっているのです。
しかも彼自身、最愛の人を失い生きる希望を見失っていた。
その彼が、生き残った男たちを率い、サバイバルの先頭に立たなければならないという運命の皮肉。
しかし、その極限の状況で彼の本能的な生への執着が呼び覚まされていくわけです。



物語は狼との戦いというよりは、
いかに生き残りに向けての精神力を持ち続けられるか、
ということがテーマとなっていると思います。
まあ、ちょっと穿ち過ぎかも知れませんが、
この酷寒のサバイバルは、いってみれば私達の人生そのもの。
私たちは実は否応なしに、己の最後の瞬間へ向けての長いサバイバルを生きている。
単に運命としか呼びようのない元々の寿命もあるでしょう。
全く予期せぬ不条理とも思える事故もある。
またはガンなどにかかった時に、あえて延命治療を避け潔く死に向かおうとするものも・・・。
長さも、順番も、立ち向かい方もまちまち、
でもそれぞれがその人の人生だ。
だから、今作では犠牲者一人ひとりの財布(身分証明や家族の写真が入ったもの)を、
その人の証として、生き残ったものが大事に持ち運んでいくのです。
通常のこの手の作品のようにわかりやすいハッピーエンドとなっていないのも、
実はちょっと拍子抜けというか物足りない気がしたのですが、
でも、こうして見るとそれでいいと思えてきました。
オットウェイは最後の最後まで戦い抜いて生きようとした。
それが彼の答えであり、結果はそう重要ではないのかも知れません。



あ、でもエンドロールの最後の最後にワンシーンだけありますので、
これから見る方はお見逃しなく。

ザ・グレイ [DVD]
リーアム・ニーソン,フランク・グリロ,ダーモット・マローニー,ダラス・ロバーツ,ジョー・アンダーソン
ジェネオン・ユニバーサル


「THE GREY 凍える太陽」
2012年/アメリカ/117分
監督:ジョー・カーナハン
原作:イアン・マッケンジー・ジェファーズ
撮影:マサノブ・タカヤナギ
出演:リーアム・ニーソン、フランク・グリロ、ダーモット・マローニー、ダラス・ロバーツ、ジョー・アンダーソン