映画と本の『たんぽぽ館』

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「アリアドネの弾丸 上・下」 海堂尊

2012年08月28日 | 本(ミステリ)
高階氏が殺人犯?! そんなバカな!!

アリアドネの弾丸(上) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
海堂 尊
宝島社


アリアドネの弾丸(下) (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
海堂 尊
宝島社


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おなじみの「チーム・バチスタ」シリーズです。
このシリーズは医療ミステリとは言うものの
次第にそのミステリ性が薄れてきているように思っていました。
だからつまらないというのではなく、
医療エンターテイメントとしての面白みが増して、
それはそれで好きなわけですが。
けれど今作はまたミステリ性の濃いものとなっています。


まずは、東城大学病院内の新型MRIの中で、
MRI技術者の友野が亡くなっているのが発見される。
死因は不明。
また更にその後、同じMRIの中で目から血を流す男の死体。
その傍らには、拳銃を握った高階病院長が倒れており、
その手からは硝煙反応が確認された。
警察は高階病院長を殺人の現行犯逮捕。


そんなバカな!!! 
これまでこのシリーズや、または他の海堂ワールドを読んできた人なら必ずそう思うはず。
あの高階氏が殺人など万が一にもあり得ません。
いつものコンビ、田口・白鳥にしても同じ思いに駆られ、
この犯罪トリックに挑むのです。
タイムリミットは72時間。
いちいち発言がむかつく白鳥氏ですが、
今回は頼りになります。
この人の頭脳だけが頼り。
この事件には高階氏の名誉だけではなく、
この東城大学病院の存続すらもかかっているのです。


まさに、真っ向からの本格ミステリでありまして、
なんと文庫の帯には、かの島田荘司氏の言葉が。
曰く
「本格ジャンルの先行諸作合流させてみても、見劣りのない一級品であることがわかる。」
この文庫の解説が島田氏で、
「海棠氏とは先日、大晦日から新年への年越しを某所で歓談して過ごし、意気投合していた」
などともあり、双方のファンとしては喜ばしい限りです。


今作はそういったミステリ性を満足させつつ、
海堂氏のいつもの主張、エーアイ(死後画像診断)の必要性を説くというところでも
大きな意義を持っています。
なにしろ、東城大学病院にエーアイセンターが開設されることになり、
センター長に田口氏が任命されてしまうという、
ものすごい展開を見せているわけで・・・。
この田口&白鳥シリーズは、
今夏発売された「ケルベロスの肖像」で完結だそうですが、
にわかに気になってきてしまいました。
文庫化まで待てるかな・・・?

「アリアドネの弾丸 上・下」海堂尊 宝島社文庫
満足度★★★★☆