映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ブラザー・サン シスター・ムーン

2012年08月09日 | 映画(は行)
本当の富は天上にあり

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先日恩田陸さんの「ブラザー・サン、シスター・ムーン」を読んで、
妙にこの作品を見たくなってしまったのでした。
公開当時に見てはいなかったのですが、
このテーマソングにははっきり記憶がありました。
ドノヴァンの甘く優しい歌声。
当時結構ヒットしたのではないでしょうか。


今作はフランチェスコ会の創立者、聖フランチェスコの半生を描く物語。
1200年代イタリア、アッシジが舞台です。
裕福な商人の息子フランチェスコは、焦燥しきって戦争から帰ってきます。
しかしそののち呆けたように、野原でぼーっとしたり、小鳥を追いかけたり。
彼はある時、貧しい人々の苦しい生活を見て、天啓を受けるのです。
富など蓄えても何もならない。
人はみな平等で自由だ。
小鳥のように何も持たず清潔で自由に生きたい。
彼は家の宝物を窓からほおり投げ皆に分け与え、家を出ます。


それから彼は、山間に打ち捨てられた教会の修復をはじめますが、
そこへ彼の思想に同調した友人や若者たち、人々が集まり始めます。


これは宗教物語でありながら、私はその時代性を感じないでいられません。
いえ、中世のではなく、作品が作られた1970年代初めの頃。
全共闘による東大の安田講堂事件があったのが1969年。
今作の72年というのは、学生運動は挫折したとはいえ、
まだその熱気は心に残っているというくらいの時期でしょうか。
若者たちが純粋な理想にかられて、集まり、世に訴えかける。
富を分け与えよ。
我らはみな自由だ。
しかし、これは有力者にとっては危険な思想なのです。
自分たちの享受している富や地位が危険にさらされるから。
従って彼らは弾圧を受けることになります。
多分公開時にこの作品を見た人は、こうした図式を思い出さずには居られなかったでしょうし、
今、私もくっきりとそれを思います。
「出来上がった体制に反対するのは反逆だ」
いみじくも、登場人物がそう言っていました。


まあ、それはさておき、素朴で優しい歌声をバックに、
風に揺れる麦の穂、赤いけしの花。
丘に広がる花畑の映像が、なんと私達の心を穏やかにさせること。
こんな風景の中で、毎日を質素に暮らせたら、確かにそれが最上の幸せと思えます。
本当の富は天上にあり。

ブラザー・サン シスター・ムーン [DVD]
グラハム・フォークナー,リー・ローソン
パラマウント・ホーム・エンタテインメント・ジャパン


「ブラザー・サン シスター・ムーン」
1972年/イタリア・イギリス/121分
監督:フランコ・セフィレッリ
出演:グラハム・フォークナー、ジュディ・ボウカー、リー・ローソン、ケネス・クランハム