映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海洋天堂

2012年08月01日 | 映画(か行)
相手を理解しようと思ったら、まず自分の“普通”を破壊しなければならない



                 * * * * * * * * * 

水族館で働くワン・シンチョンは、
妻との死別後、自閉症の息子ターフーを男手一つで育ててきました。
しかし、彼はガンで余命宣告を受けてしまいます。
自分亡き後、息子はどうなるのか・・・!?
それが気がかりで自分の療養など眼中にありません。
息子の生活の場を確保するのがまず非常に困難だったのですが、
その後も、彼は息子に伝えられることを精一杯伝え、残そうと努めるのでした・・・。



今作は、冒頭シーンでまずドッキリさせられます。
久石譲の明るく落ち着いた音楽の中、
足に重りをくくりつけた二人が、ボートから海に飛び込むのです。
もしかしてこれは最後に来るべきシーンなのか???と思ったのですが、
そうではありませんでした。
余命宣告を受けた父親は、息子の将来を悲観して心中を図ったのです。
まさにそのとおりでしたが、ターフーは実は泳ぎが大の得意なのです。
心中に失敗し、やはり今後息子が生きていくための具体策を練らなければならない。
父親がそういう覚悟を決めたところから物語が始まるわけです。



舞台がこの水族館という設定がとてもいいですね。
ターフーはいつも父親の仕事についてここに来ています。
そして水槽の中を魚と共に自在に泳ぎまわる。
彼はこちらの陸中では非常に不器用で生きにくそうですが、
水の中こそが本来のすみかであるかのように活き活きと泳ぎまわります。
ガラス越しの薄暗い水底の映像に、なんだか癒される感じがします。


父親は自分一人だけが息子を支えていると思っているのですが、
実は周りの人々も温かく二人を受け入れ、見守っている
・・・そういうところも良かったですね。



ただし、今作でたまたま見つかった施設の様なところが、なかなかないというのは、
日本も多分事情は変わらないのだろうと思います。
今作、WOWOWの録画で見ましたが、
「W座」の解説の中でこんなことを言っていました。

「相手を理解しようと思ったら、
まず自分の“普通”を破壊しなければならない」

誰もが自分の中では“普通”なんですよね。
でもその“普通”は人によって随分違う。
父が息子を施設に預けて帰るときに
「息子は寂しそうな顔もしていなかった」
と虚しく感じます。
けれどもその夜、ターフーはパニック状態に。
寂しさや悲しみを表現するすべを彼は知らなかったのですが、
本能的に、今までいつも一緒だった父を欲したのでしょう。
言葉では現さなくてもしっかりとそこにある絆。
とても重いテーマでありながら、なぜか癒されてしまう。
是非どなたにも一度は見ていただきたい作品と思います。
アクション俳優ジェット・リーがアクション無しの好演です。



海洋天堂
2010年/中国・香港/98分
監督・脚本:シュエ・シャオルー
出演:ジェット・リー、ウェン・ジャン、グイ・ルンメイ、ジュー・ユアンユアン、カオ・ユアンユアン