映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ビッグ・アイズ

2015年02月03日 | 映画(は行)
ブラックユーモアを込めたデフォルメ



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1960年代、アメリカポップアート界で人気を博した
「ビッグ・アイズ」シリーズをめぐり、
実在の画家マーガレット&ウォルター・キーン夫妻にあった実話を元にしています。
確かに、この大きな目の絵は、インパクトがありますが
実話を元にしているということで、
地味で辛気臭い話なのでは・・・と、実は思っていたのですね。
でもまてよ、なんと監督がティム・バートン。
「アリス・イン・ワンダーランド」とか、「ナイトメア」とかの。
一体どんな作品なんだ?と俄然興味がわきました。



このビッグ・アイズの絵は当時大ブームとなり、
その作者ウォルター(クリストフ・ヴァルツ)も
美術界の寵児として脚光を浴びたのですが、
実はこれは妻マーガレット(エイミー・アダムス)が描いていたのものだったのです。
つまりはウォルターはゴースト・ペインター。





マーガレットは絵のサインを自分の名前ではなくて
苗字「キーン」として入れていたのです。
ウォルターも一応「画家」ではあったので、
周囲の人が始めウォルターが描いたのだと思った。
それを修正しそこねただけなのですが・・・。
すぐに訂正すればすむことです。
しかし、このウォルターというのが異常に自己顕示欲が強かった。
自分が描いたと押し通して、賞賛を浴びることが楽しくて仕方がない。
そしてまた、時代性もあるのです。
ウォルターは妻に威圧的に迫り、事実を明かすことを許さない。
子連れで結婚したマーガレットは
シングルマザーとなることの不安から、夫に従うことを選んだ。
来る日も来る日も、部外者立入禁止のアトリエにこもって
ひたすら絵を量産する。



あくまでもポップ・アート、芸術性なんかないと言い張る人もいたようですが・・・。
それにしてもマーガレットにとって、この絵は自分自身の心の現れなのです。
ある時ついに夫の作とすることに耐えられなくなり、反旗を翻します。
そしてついには裁判の場にもつれ込む・・・。
ここが異様な迫力で迫ります。
ウォルターは、確かに商才があり、人を引きつける何かも持っているのです。
しかし、この裁判の場で図らずも彼の本性がさらけ出されてしまう。
目立ちたくて、お金が欲しくて、調子が良くて、
そして大嘘つきだ・・・。
ほとんど人格が壊れていると言ってもいいほどに。


これだ・・・この、人物の
異様にグロテスクで、ブラックユーモアを込めたデフォルメ。
ここがやはりティム・バートンなのです。
・・・そういえばビッグ・アイズの絵自体もそうなんですね。



裁判の決着にはちょっと胸がすきます。
監督の、これまでのどちらかと言えば子供向けめいた作風からの新境地。
なんだかこの先も楽しみになってきました。
そんなわけで、予想に反して、
何やら変に胸に迫ってしまう作品なのでした。


「ビッグ・アイズ」
2014年/アメリカ/106分
監督:ティム・バートン
出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジョン・ポリト、クリステン・リッター

ブラックユーモア度★★★★☆
満足度★★★★☆