映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

はじまりのうた

2015年02月14日 | 映画(は行)
PCと編集ソフトと高性能のマイクさえあれば・・・



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イギリスから来たシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)は、
恋人デイブ(アダム・レビーン)に裏切られ、
失意のその気持のままをライブハウスで歌っていました。
そこにちょうど居合わせた落ち目の音楽プロデューサー、ダン(マーク・ラファロ)が目をつけます。
二人で組んで、いっそ、アルバムを作ってしまおうということになりますが、
全く資金がなく、スタジオを借りることもできません。
そこで、ニューヨークの街角で、ゲリラレコーディングをすることに。



本作、当初わずか5館の上映が口コミパワーで人気上昇、
1300館まで広がったという作品です。
実際見てみるとそれも納得。
グレタの作る曲は、決してうるさ過ぎずに、
ニューヨークの街角にも馴染むし、また私達の耳にも馴染みます。
見終わったあとも、静かな感動が胸の中に残ります。



これは、売れなくてどん底のミュージシャンが、
一念発起してCDをミリオンセラーにするというような根性物語ではないんです。
グレタは「とにかく売りまくりたい、有名になりたい」というよりは、
ただ自分の気持を歌にすることを大事に思っているのです。
そして、仲間と街の空気を楽しみ、音楽を楽しみ・・・
そういう自然体の音楽の楽しみ方が、
するっと私達の中にも入ってきて、実に心地よい。
そんなグレタだから、彼女がした最後の決断もとても納得がいきます。



シンガーとしては素人のキーラ・ナイトレイですが、
このニューヨークの街角で歌うのにはピッタリの歌声でした。
これが朗々としたプロの歌声だとやっぱりちょっと雰囲気が違う。
あのなんとも人のいい、友人の売れないミュージシャンは、
「ワン・チャンス」のジェームズ・コーデンでしたね。

今は落ち目で、ホームレス寸前のダンは、それでもやっぱり音楽が大好きで、
初めてグレタの歌を聞いた時には、
ピアノやヴァイオリン、パーカッション、
彼の頭のなかでどんどんアレンジが出来上がっていく・・・
すごくステキなシーンでした。


それから、一つのiPodで、
互いのプレイリストを聞きながら街を歩くシーンも心に残ります。
iPodで音楽に浸るのも良いけれど、どうしても「自分だけの世界」になりがち。
そうか、でもこんなふうに二股のヘッドホンがあれば、
「二人だけの世界」がそこに登場するわけです。
音楽を楽しみつつ“共感”をも味わう。
親しくなりたい人とこんな風にしてみるのはいいかもしれません。
ただし、音楽の趣味が合わなければ最悪なことになるかも・・・。
「音楽があれば、見慣れた街角の風景もドラマのワンシーンになる」というのは名言でした。
本当にそのとおりでした。



グレタとダンとデイブの、微妙な心のすれ違い。
これが変なハッピー・エンドにならないところもまた良かったなあ。
グレタはきっと今、
恋人と心を交わせるよりも、音楽で皆と通じ合いたい
・・・と思っているのではないかな。

「はじまりのうた」
2013年/アメリカ/104分
監督:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、ヘイリー・スタインフェルド、アダム・レビーン、ジェームズ・コーデン

ニューヨーク度★★★★★
満足度★★★★★