映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

人生タクシー

2017年05月07日 | 映画(さ行)
戦う監督



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イランのジャファル・パナヒ監督が自らタクシー運転手となり、
車のダッシュボードに据え付けたカメラで、
次々に乗ってくる乗客たちの状況を描くという
ドキュメンタリータッチの作品。
・・・と聞くと何やら悲喜こもごもの人情作品のように思えるでしょうか。
本作を理解するには、このジャファル・パナヒ監督が
イランという国の中で置かれている状況を知る必要があります。


監督は、反体制的な活動を理由に、
政府から20年間映画監督としての活動を禁止されているのです。
そんな状況でも、なんとか作品を作り発表しているというのがはすごいことですね。
しかし当然、イラン国内では上映禁止です。
私が以前に見たのは「オフサイド・ガールズ」という作品。
イランでは女性は競技場でサッカーを観戦することは禁止されているのですが、
果敢な少女が男装して競技場に潜り込むというストーリーなのでした。

→ オフサイド・ガールズ

こんな風にイラン社会の理不尽さを語る作品ながら、
そんな社会でありながらもどこか明るく、たくましく生きる人々の姿を描いているのです。
本作も、一見ドキュメンタリー風でありながら、
しかし、これはしっかり監督に練られて演出されている作品のようです。


驚いたことにイランのタクシーは乗り合いなんですね。
先に乗客がいるのに、またどこかで人を拾う。
よほど逆方向だったりしない限りあたり前のことのようです。
この素人運転手のタクシーに乗り込んでくるのは、
強盗、教師、海賊版レンタルビデオ業者、

交通事故にあった夫婦、映画監督志望の学生、
金魚鉢を抱えたご婦人方

政府から停職処分を受けた弁護士・・・

彼らの語る言葉から、様々なこの国の問題点が浮かび上がってきます。



中でも監督の姪役の少女の放つ言葉が鋭い。
彼女は学校の課題で短編映画を作ることになっているのですが、
この国で「上映可能」な映画を作るにはどうしたら良いのかと問います。
その「おかしな」制約の中で・・・。



監督は終始やんわりとした笑みをたたえながら運転し、
人々の話を聞いています。
けれども、心中は怒りでいっぱいなのだろうと想像がつくのです。
特に、少女が「上映可能な映画」の話をしだしたときに現れる表情が・・・。
戦う運転手…じゃなくて、
戦う監督なのですね。


「人生タクシー」
2015年/イラン/82分
監督・製作・脚本・出演:ジャファル・パナヒ
「世界を知る」度★★★★★
満足度★★★★☆