日々、共生と葛藤を繰り返す、人の体、そして社会
* * * * * * * * * *
強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、
絶望的な戦いを繰り広げた戦士団"独角"。
その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。
ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。
その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てるが―!?
厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、
父と子の物語が、いまはじまる―。(上 生き残ったもの)
不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。
何者かに攫われたユナを追うヴァンは、
謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。
同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、
医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。
ヴァンとホッサル。
ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、
この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?(下 還って行くもの)
* * * * * * * * * *
2015年本屋大賞受賞作、ということで以前から気になっていたのですが、
経費節約を心がけている昨今、
図書館予約でじ~っと待っていて、ようやく順番が回ってきました。
でも、そのかいあって納得の面白さ。
これはすごい・・・!
主人公はヴァンという中年のおじさん・・・。
若くはつらつとした貴公子などではありません。
しかもなんと彼が岩塩坑に奴隷として捕らわれているところから始まるのが
なんとも意表を突きます。
その岩塩坑に、謎の犬たちが忍び込み、次々と人を襲う。
その犬に噛まれた人々は皆、病で死んでしまうのですが、
何故かヴァンとユナという女の子だけが助かります。
ヴァンはユナを連れて岩塩坑を離れ、逃亡の旅が始まります。
さて一方、ホッサルという医師が登場。
この世界ではまだまだ祭司による"祈り"による治療がほとんどなのですが、
ホッサルは科学的根拠に基づく近代的な医療を進めているのです。
彼は犬に噛まれて症状の出る黒狼病の研究に取りかかります。
しばらくは、このヴァンとホッサルの様子が交互に描写されていきますが、
二人はなかなか出会いません。
ついに二人が邂逅し、それまでにわかったことや考えたことを話し合ううちに
その"病"の正体が見えてくるのですが、
このシーンが、ものすごくワクワクする。
ファンタジーだからといって、全く適当というわけではありません。
しっかりとした免疫学に基づいた話になっているのです。
科学するココロを心地よく刺激します。
さて、ではこの題名"鹿の王"とは?
作中こんなことが書かれているのです。
ヴァンの故郷の部族では飛鹿(ピュイカ)と共に生活しているのですが、
「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥った時、
己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。
長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、
危難に逸早く気づき、我が身を賭して群れを助ける鹿が。
・・・ですから、私たちは、過酷な人生を生き抜いてきた心根をもって他者を守り、
他者からしたわれているような人のことを、
心からの敬意を込めて、あの人は<鹿の王>だ、と言うのです。」
つまりこの物語は、
ヴァンこそが"鹿の王"であるということを示すためのストーリーなのですね。
そしてまた、あとがきで著者が触れていますが、
・人は自分の身体の内側で何が起きているのか知ることができない。
・人あるいは生物の身体は、細菌やらウイルスやらが、日々共生したり葛藤したりしている場である。
・このことは「社会」にも似ている。
これらのことから着想したとのこと。
確かに、それがテーマとしてしっかり語られているのでした。
なんて秀逸なファンタジー。
感服しました。
登場人物の中では、マコウカンが好きだなあ・・・。
ホッサルからは「全く従者に向かない」と言われる人物なのですが、
この二人の会話が面白い。
「鹿の王 上・下」上橋菜穂子 角川書店
満足度★★★★★
鹿の王 (上) ‐‐生き残った者‐‐ | |
上橋 菜穂子 | |
KADOKAWA/角川書店 |
鹿の王 (下) ‐‐還って行く者‐‐ | |
上橋 菜穂子 | |
KADOKAWA/角川書店 |
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強大な帝国・東乎瑠にのまれていく故郷を守るため、
絶望的な戦いを繰り広げた戦士団"独角"。
その頭であったヴァンは奴隷に落とされ、岩塩鉱に囚われていた。
ある夜、一群れの不思議な犬たちが岩塩鉱を襲い、謎の病が発生する。
その隙に逃げ出したヴァンは幼子を拾い、ユナと名付け、育てるが―!?
厳しい世界の中で未曾有の危機に立ち向かう、
父と子の物語が、いまはじまる―。(上 生き残ったもの)
不思議な犬たちと出会ってから、その身に異変が起きていたヴァン。
何者かに攫われたユナを追うヴァンは、
謎の病の背後にいた思いがけない存在と向き合うことになる。
同じ頃、移住民だけが罹ると噂される病が広がる王幡領では、
医術師ホッサルが懸命に、その治療法を探していた。
ヴァンとホッサル。
ふたりの男たちが、愛する人々を守るため、
この地に生きる人々を救うために選んだ道は―!?(下 還って行くもの)
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2015年本屋大賞受賞作、ということで以前から気になっていたのですが、
経費節約を心がけている昨今、
図書館予約でじ~っと待っていて、ようやく順番が回ってきました。
でも、そのかいあって納得の面白さ。
これはすごい・・・!
主人公はヴァンという中年のおじさん・・・。
若くはつらつとした貴公子などではありません。
しかもなんと彼が岩塩坑に奴隷として捕らわれているところから始まるのが
なんとも意表を突きます。
その岩塩坑に、謎の犬たちが忍び込み、次々と人を襲う。
その犬に噛まれた人々は皆、病で死んでしまうのですが、
何故かヴァンとユナという女の子だけが助かります。
ヴァンはユナを連れて岩塩坑を離れ、逃亡の旅が始まります。
さて一方、ホッサルという医師が登場。
この世界ではまだまだ祭司による"祈り"による治療がほとんどなのですが、
ホッサルは科学的根拠に基づく近代的な医療を進めているのです。
彼は犬に噛まれて症状の出る黒狼病の研究に取りかかります。
しばらくは、このヴァンとホッサルの様子が交互に描写されていきますが、
二人はなかなか出会いません。
ついに二人が邂逅し、それまでにわかったことや考えたことを話し合ううちに
その"病"の正体が見えてくるのですが、
このシーンが、ものすごくワクワクする。
ファンタジーだからといって、全く適当というわけではありません。
しっかりとした免疫学に基づいた話になっているのです。
科学するココロを心地よく刺激します。
さて、ではこの題名"鹿の王"とは?
作中こんなことが書かれているのです。
ヴァンの故郷の部族では飛鹿(ピュイカ)と共に生活しているのですが、
「飛鹿の群れの中には、群れが危機に陥った時、
己の命を張って群れを逃がす鹿が現れるのです。
長でもなく、仔も持たぬ鹿であっても、
危難に逸早く気づき、我が身を賭して群れを助ける鹿が。
・・・ですから、私たちは、過酷な人生を生き抜いてきた心根をもって他者を守り、
他者からしたわれているような人のことを、
心からの敬意を込めて、あの人は<鹿の王>だ、と言うのです。」
つまりこの物語は、
ヴァンこそが"鹿の王"であるということを示すためのストーリーなのですね。
そしてまた、あとがきで著者が触れていますが、
・人は自分の身体の内側で何が起きているのか知ることができない。
・人あるいは生物の身体は、細菌やらウイルスやらが、日々共生したり葛藤したりしている場である。
・このことは「社会」にも似ている。
これらのことから着想したとのこと。
確かに、それがテーマとしてしっかり語られているのでした。
なんて秀逸なファンタジー。
感服しました。
登場人物の中では、マコウカンが好きだなあ・・・。
ホッサルからは「全く従者に向かない」と言われる人物なのですが、
この二人の会話が面白い。
「鹿の王 上・下」上橋菜穂子 角川書店
満足度★★★★★