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「屋上の道化たち」島田荘司

2017年05月23日 | 本(ミステリ)
ミタライファンの楽しみ

屋上の道化たち
島田 荘司
講談社


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自殺するはずのない男女が、必ず飛びおりて死に至る―。
行ってはいけない屋上とは?
強烈な謎と鮮烈な解決!
これぞ本格ミステリー!
御手洗潔シリーズ50作目!
最新書き下ろし長編。


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御手洗潔シリーズ、50作目にもなるのですね。
本作は、ミタライと石岡くんがまだ横浜の馬車道に一緒に住んでいた頃を舞台としているので、
どこかノスタルジックな雰囲気が漂います。
とは言え作品の半分以上を過ぎたところでないと、
ミタライたちは登場してこないので、ヤキモキさせられます。


とある、銀行の屋上。
ある事情で預かった植木鉢がびっしりと並んでいます。
その植木鉢に水をやりに上がっていた銀行員が
何故か理由もなく飛び降り自殺してしまうのです。
全く同じ出来事が3度・・・いや、4度。
これは自殺と見せかけた殺人なのか。
それとも何かの呪い・・・?
全くわけの分からない不思議な事件を、
例によってミタライが、スルスルと解き明かしていきます。


この物語に出てくる象徴的なものは、
"プルコ"の巨大な看板。
走ってきた男性が両手を上げてゴールする瞬間をとらえた、あの看板。
そうです、名前は変えてありますが「グリコ」がモデルなんですね。
その、かつて大ヒットしたおまけ付きキャラメルのことにも言及してあって、
私にもひどく懐かしい。
私も、小さい頃よく親に買ってもらったものです。
おまけ欲しさで。
実のところちゃちなものだったと思うのですが、
今もとってあれば「お宝探偵団」で、
ある程度の値段がついたのかもしれない・・・。


それにしてもこんな奇想天外のできごとを解いといてしまう、
ミタライの凄さ・・・というより、
こんな謎を考え出す著者の凄さというべきでしょうか。
やっぱり島田荘司作品、止められません。


本作中の登場人物の会話がまた、楽しい。
銀行員の女性が、トム・クルーズ似の男性と婚約していたと聞いた人たちは
皆、「その人は目が悪かったのか?」と聞く。
つまりその女性が全然イケていなかったということなのですが・・・、
全く、失礼ですよね。
また、小鳥遊(タカナシ)という刑事と記者の兄弟が出てきますが、
この二人の本音トークがまためちゃくちゃ面白い。
漫才師になったほうがいいと思う。
(二人は仕事をクビになったらコンビニでも始めるかと言っていましたが)
ビートルズオタクのラーメン店主も面白いし、
その店主とミタライがいきなりギターを弾きビートルズを歌い出す
なんていうサービスも満点。
そのラーメン店の俺流ラーメンは、
塩バターで餅とキムチが入っている。
誰もが敬遠してそれを避けるのですが、
ミタライは平気でそれを食べます。
後でこっそり石岡くんがミタライに「味はどうだった?」と聞くと、
ミタライはキョトンとして
「考え事をしていたから味はわからなかった」
という。
うん、鋭いところはすごく鋭いのに、無頓着なところは全く無頓着。
これこそが御手洗潔なのです。


本筋に関係ない話ばかりで申し訳ない。
けれど、これこそがミタライファンの楽しみなわけで・・・。

「屋上の道化たち」島田荘司 講談社
満足度★★★★★
図書館蔵書にて