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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ノー・エスケープ 自由への国境

2017年05月10日 | 映画(な行)
自由への国境?



* * * * * * * * * *

舞台はアメリカ・メキシコの国境。
壁を作ると明言するトランプ大統領のこともあり、いかにも不穏です。



メキシコからアメリカへ不法入国しようとする15人の男女。
その国境地帯をトラックに乗って進んでいたのですが、
車の故障で徒歩を余儀なくされてしまいます。
砂漠や岩山の道をひたすら歩み続ける彼ら。
しかしそこへ一人のアメリカ人ハンター、サム(ジェフリー・ディーン・モーガン)がやってきます。

彼は何の躊躇もなくメキシコ人の列に銃弾を撃ち込む。
瞬く間に半数以上のものが撃ち殺されてしまいます。
メキシコ人側の要となるがモイセス(ガエル・ガルシア・ベルナル)です。

彼は皆の様子を気遣いながら、弱いものをかばいつつ歩きます。
本作は、追う者と追われる者、
ひたすらこの2者の動向をスリルたっぷりに描いていきます。
サムの飼い犬の存在が結構怖いのです。
とても優秀で主人に忠実な犬は、“獲物”をすぐに嗅ぎつけ、
瞬く間に追いついてしまうのです。
しかも人の喉元に食いつき、殺すことすらする・・・。
相手が人間だけなら、ここまでの苦戦にはならなかったと思うのですが・・・。




さて、このサムの人物像なのですが、ぜんぜん殺人鬼には見えません。
一見どこにでもいそうなおじさん風。
犬を可愛がり、その犬の死には涙する彼が、
平然と人にライフルを向けて狙い打ちます。
ウサギを狩るのと何も変わりません。
どうして彼がそんなことをするようになったのか、
そういうことには全く触れていません。
しかしつまりこれは、ごく普通の善良そうな顔をしたアメリカの市民が、
平気で移住者に銃を突きつけるにも等しい、憎悪をぶつけている・・・
そういうことに思えてしまうのです。
そうした奥底にある感情を、うまくすくい取ったのがトランプ氏だったと言ってもいい。
なんとも、インパクトの大きい、しかしまた救いがたい作品です。


ところで、この「自由への国境」という副題は、おかしくないでしょうか?
いま、アメリカが何びとにとっても「自由の国」というのは、
もはや幻想に思えてなりません。


「ノー・エスケープ」
2015年/メキシコ・フランス/88分
監督:ホナス・キュアロン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ジェフリー・ディーン・モーガン、アロンドラ・イダルゴ
サバイバル度★★★★★
満足度★★★.5