祝・アカデミー作品賞受賞!!
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本作は、アカデミー賞受賞の有無にかかわらず、楽しみにしていました。
何しろビゴ・モーテンセン出演なので。
人種差別の色濃く残る1960年代アメリカ。
ニューヨークで高級クラブの用心棒を務めていたトニー(ビゴ・モーテンセン)。
粗野で無教養ではありますが、周りからは頼りにされています。
ところがクラブ改装のための休業で、トニーはしばらく失業状態に。
そんな彼のもとに、南部でコンサートを計画している黒人ピアニスト、
ドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)から、運転手の依頼が入ります。
トニーは気が進まないながらも仕事を受けることにして、
地図と「グリーンブック」を持って、二人の旅が始まります。
「グリーンブック」というのは黒人が泊まることのできる宿が載っているガイドブック。
当時、ニューヨークはともかく南部では、
通常のホテルに黒人が宿泊することはできなかったのです。
黒人用のホテルというのはオンボロの安ホテル。
ドクターというのは医者ではなくて博士号を持っているということ。
実のところ裕福で教養があり、本当はクラシックが専門というアーティスト。
高級ホテルで当然の身の上なのですが・・・。
さてところで、トニー自身も黒人にはかなりの差別意識を持っていました。
配管修理に来ていた黒人が水を飲んだコップを捨ててしまうくらいに、
「イヤ」だと思っていたのです。
だから、黒人のお抱え運転手という立場に抵抗を感じ、仕事を断ろうとしていたのですね。
しかしかなりの報酬、背に腹は代えられない・・・。
教養ある黒人ピアニストと無教養な白人運転手兼用心棒、
おかしな二人のロードムービー&バディムービーとなりました。
当然はじめは全く気の合わない二人。
でも、南部に入るにつれ、周囲の黒人差別があからさまになっていきます。
そんなことを目の当たりにして、自分のことは棚に上げ、
トニーは義憤にかられていくのです。
元来がまっすぐで正義感の持ち主なんですね。
ドクターをコンサートの主役として歓迎しておきながら、
楽屋の部屋は物置だし、トイレは外の木造ホッタテ小屋。
バーに足を踏み入れただけで犯罪者扱い・・・。
どうにもこうにも理不尽なことばかり。
そんなことを知って、トニーの黒人差別意識がどんどん変わっていきます。
しかし変わっていくのはトニーばかりではありません。
ドクターの方は、肌の色は黒いけれども、教養もお金もあって、
普段はそこらの白人以上に「白人」のような生活。
この黒人でも白人でもない立場で、どちらからも受け入れられず、孤独に陥っていたのです。
また、かなり育ちも良くて、ジャンクフードなんか食べたこともない。
それで、ケンタッキー州に入り、ケンタッキーフライドチキンの店を見つけたトニーが
「本場のフライドチキンをぜひ食おうぜ!!」
といって、どっさりチキンを買い込んできます。
彼は運転しながら手づかみでワシワシそれを食べる。
そして手づかみのチキンをドクターに差し出して「食え」という。
フライドチキンなんか今まで食べたことないというドクターが、
あまりのトニーのしつこさに負けて、仕方なく彼もおそるおそる手づかみで、それを食べてみます。
「・・・うまい!」。
好きだなあ、このシーン。
こんなふうにトニーだけがドクターに寄り添うのではなく、
ドクターの方もトニーに寄り添っていくのです。
素敵な友情の物語。
ビゴ・モーテンセンは、あの“アラゴルン”のかっこよさは薄れてしまいましたが、
それでも、なんとも味のあるこの度の役。
こんなガサツさも、魅力です。
この役のために相当体重を増やしたのではないでしょうか?
60年代といえば東京オリンピックのあった頃。
その頃でも、アメリカの黒人差別事情というのはこんなものだったのですねえ。
公民権法が制定されたのが1964年。
私はそれをリアルタイムでニュースで見ていたに違いないのですが、
何しろまだ小学生だったので、何もわかっていなかったのも無理はないか・・・。
作中、公民権なんて言葉も何も出てこないし、
声高な差別反対などの言葉もありません。
けれど差別の理不尽さをどんな言葉よりも強く訴える作品となっています。
そして何よりもユーモアに溢れ、ラストも嬉しい。
アカデミー作品賞も納得。
ぜひぜひ、ご覧ください!
<シネマフロンティアにて>
「グリーンブック」
2018年/アメリカ/130分
監督:ピーター・ファレリー
出演:ビゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリニ、ディミテル・D・マリノフ、マイク・ハットン
友情度★★★★★
ロード・ムービー度★★★★★
満足度★★★★★