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「十二人の死にたい子どもたち」冲方丁

2019年03月12日 | 本(ミステリ)

それぞれの事情を口にすることで・・・

十二人の死にたい子どもたち
冲方 丁
文藝春秋

* * * * * * * * * *


廃病院に集まった十二人の少年少女。
彼らの目的は「安楽死」をすること。
決を取り、全員一致で、それは実行されるはずだった。
だが、病院のベッドには"十三人目"の少年の死体が。
彼は何者で、なぜここにいるのか?
「実行」を阻む問題に、十二人は議論を重ねていく。
互いの思いの交錯する中で出された結論とは。

* * * * * * * * * *

本作は映画化されていたのは知っていたのですが、
私にはぜひみたいと思うほどのものはありませんでした。
でも、原作は冲方丁さんなので、とりあえずは原作の方を読んでみましょう、ということで。
本作は直木賞候補にもなっていたんですね。
私の心配は12人もの登場人物をちゃんと読み分けられるのかどうか・・・ということだったのですが、
そこが著者の力量、さすがに大丈夫でした。

ある廃病院に12人の少年少女が集まります。
彼らはネットの集団自殺を呼びかけるサイトに応募してここに来たのです。
ところが、実際にここに来たメンバーは13人。
いるはずのない13人目は何者で、何のためにここにいるのか?


安楽死実行のためには、すべてを全員一致で決定しなければならないというルールに従い、
彼らは「話し合い」を始めます。
すると次第に浮かび上がるそれぞれの個性、そして死にたいと思う事情。
常に冷静沈着なもの、粗暴さが目立つもの、
ひたすらぼーっとしているもの、全くの天然系おバカ・・・。
死にたい理由も「わかるわー」と思えるものもあれば、
高尚すぎて理解しがたいもの、
そしてただの思いこみもあったりする。
みなは驚いたり呆れたりするうちに、始めの「悲壮感」のようなものが次第に薄れていくようです。
大きく皆の気もちが揺れ動くきっかけもあるものの、
私が思うに、一人ずつ死にたい理由を口に出して人に告げる
ということに意義があったのではないかと思うのです。
自分だけで思いつめると煮詰まってしまうものですよね。
人の気持ちがどのようにして変わっていくのか、
そういうことが丁寧に描かれていて、非情に興味深い作品でした。


この場所に来た順番というパズルを解くようなミステリ性は正直私にはめんどくさかったですが、
それをさておいても楽しめると思います。

ちなみに、この度購入した文庫本は、カバーが二重になっていました!


「十二人の死にたい子どもたち」冲方丁 文春文庫
満足度★★★☆☆