映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「また、桜の国で」須賀しのぶ

2019年03月24日 | 本(その他)

戦う大使館員

また、桜の国で
須賀 しのぶ
祥伝社

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1938年10月1日、外務書記生棚倉慎はワルシャワの在ポーランド日本大使館に着任した。
ロシア人の父を持つ彼には、ロシア革命の被害者で、シベリアで保護され来日した
ポーランド人孤児の一人カミルとの思い出があった。
先の大戦から僅か二十年、世界が平和を渇望する中、
ヒトラー率いるナチス・ドイツは周辺国への野心を露わにし始め、緊張が高まっていた。
慎は祖国に帰った孤児たちが作った極東青年会と協力し戦争回避に向け奔走、
やがてアメリカ人記者レイと知り合う。
だが、遂にドイツがポーランドに侵攻、戦争が勃発すると、
慎は「一人の人間として」生きる決意を固めてゆくが……

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須賀しのぶさん、私にははじめての作家です。
最近、直木賞ノミネート作品に狙いをつけて、読み始めました。

本作は、1938年、ポーランドの日本大使館に着任した
外務書記生・棚倉慎(たなくらまこと)の物語。


さて、ここでまずポーランドと日本の関係。
1920年(大正9年)、シベリアの地に革命と内乱で親を失ったポーランド人の子どもたちが大勢いました。
その子達56名は日本人の手で保護され、しばらく日本の施設で手厚く療養を受けた後に
故国ポーランドへ送り届けられたという出来事があったのです。
そのため日本とポーランドはかなり友好的な間柄にあった。
なぜシベリアにポーランド人が?と思うわけですが、
それについてもポーランドの悲惨な歴史の一端が伺われるのですが、作中に説明があります。
ぜひ読んで確かめていただきたい。

慎は子供の頃、このポーランドの子供のうちの一人とわずかの間ではありますが
時をともにし、互いの秘密を打ち明け合うほどに親しみを覚えたのです。
そのため、この度のワルシャワ着任は存外の喜び。
どこかであのときの子供、カミルとの再会を期待していました。
ところがこの時期のポーランドは極めて危険な状況に差しかかるところだったのです。
やがてナチス・ドイツの侵攻が始まり、ワルシャワの人々の苦難が始まります。
そしてまた、ポーランドに住むユダヤ人についてはさらなる苦難が・・・。


平和をのぞみ、ポーランドの人々やユダヤの人々をなんとか助けたいと思う慎ですが、
事態は悪化の一方。
ついには、日本とドイツが同盟を結び、自分はポーランドの人々と敵対する立場に置かれてしまいます。
そして、ブルガリアの大使館へ異動となってしまう。
ポーランドの受難をただ外から見ているだけで何もできない慎は、
ついにある決断をしますが・・・。


日本とポーランドとの関係も知らなかったことではありますが、
それよりもポーランドの幾度も他国からの支配を繰り返してきた歴史にも驚きます。
ドイツのポーランド侵攻はよく映画などにも出てくる事柄ではありますが・・・。
このときのドイツ軍の勢いがまた、信じられないほどすごかったようなのですね。
そして期待していたフランスやイギリスの助けは得られず、
ソ連の赤軍は余計にたちが悪そうだ・・・。
島国日本は、こういう驚異をほとんど体験しないまま近代へ突入したわけで、
国家とか民族の考え方がヨーロッパとは異なるのは無理もない事かもしれません。

そうそう、カミルとの思いがけない再開というのがまた驚きでした。
言われてみれば予想はつきそうなものだったのに、油断しました!

ともあれ、人の人間性が問われる戦争というもの。
心震える物語です。
これを読むと、深緑野分さんのストーリーはなんだか子供っぽい気がしてきました・・・。

読書の海は果てしなく広く、そして深い・・・!!

図書館蔵書にて
「また、桜の国で」須賀しのぶ 祥伝社

満足度★★★★★