人はなぜ学問をするのか
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東京帝大叡古教授 (小学館文庫) |
門井 慶喜 | |
小学館 |
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物語の主人公・宇野辺叡古(うのべえーこ)は、東京帝国大学法科大学の教授である。
大著『日本政治史之研究』で知られる彼は、法律・政治などの社会科学にとどまらず、
語学・文学・史学など人文科学にも通じる"知の巨人"である。
その知の巨人が、連続殺人事件に遭遇する。
時代は明治。
殺されたのは帝大の教授たち。
容疑者は夏目漱石!?
事件の背景には、生まれたばかりの近代国家「日本」が抱えた悩ましい政治の火種が。
日本初! 文系の天才博士が事件を解決。
事件の真相は、まさに予測不能。
ラストは鳥肌モノの衝撃。
第一五三回直木賞候補作、待望の文庫化!
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門井慶喜さんは本作で直木賞候補となり、「銀河鉄道の父」で直木賞受賞となりました。
その肝心の「銀河鉄道の父」はまだ読めずにいるのですが、
先にすぐに借りられたこちらを・・・。
本作は明治38年、熊本から東京へやってきた高等学校生"阿蘇藤太"が、
東京帝国大学法科教授・宇野辺叡古(うのべえーこ)と出会い、
様々な事件に出会いながら、当時の揺れ動く日本を
その中心から見聞する機会を得るという物語です。
熊本の五高で、以前校長をしていた嘉納治五郎の教えを受け継ぐ柔道を身につけた藤太が、
単身新橋の駅へ降り立ち、そこから電車に乗ろうとする。
・・・というのが冒頭のシーン。
おお、既視感ありまくり。
NHK大河ドラマ「いだてん」の金栗四三ですな。
時期が近い!!
彼が東京へ着いた翌日に早速殺人事件に遭遇し、
その謎を解くのが叡古教授というミステリ仕立てのストーリーではありますが、
本作の面白いのはそんなことよりも、この時代背景の緻密さ。
日露戦争の終結に向かっての為政者の考え、学者の考え、そして一般庶民の考え、
それぞれの軋轢が藤太の視点から語られていきます。
そもそも、"阿蘇藤太"というのは、本名ではありません。
叡古教授が殺人事件に巻き込まれそうになった藤太を、
後に困らないようにと、とっさにこの名前をつけたのです。
そしてその後も一向に本名が明かされません。
それで、多分彼は実在の著名な人物で、最後の最後に正体が明かされるに違いない、
という予想は立ちました。
それで、実際そのとおりだったのですが、
残念ながら歴史には疎い私、知らない人物でした・・・。
でも、調べてみるとなるほど、日本近代史の中でもひとかどの人物。
何よりも、劇的な人生!
この方が、帝大入学前のひととき、こんな夏を過ごしたかもしれない・・・
というストーリーを紡いだ著者の力量に拍手!!
また、叡古教授のいかにも信念の教育者たる風格が素敵でした。
「人はなぜ学問をするのか」という問いに教授は言うのです。
「自分でものを考えるためだ」と。
「誰もがノーという日にイエスという。
誰もが感情に身をまかせる日に冷静になる。
それは口で言うは易いが、おこなうは絶望的にむつかしいことなのだ。
勇気がいるし、闘志がいるし、何よりも高い見識がいる。」
自分の間違った行いに深く恥じ入った藤太には、
この言葉が骨の髄まで染み込んでいきます。
素晴らしい物語でした。
こうなるとやはり、「銀河鉄道の父」もぜひ読まなくては!!
図書館蔵書にて(単行本)
「東京帝大叡古教授」門井慶喜 小学館
満足度★★★★★