ニールの“転”機
高く孤独な道を行け (創元推理文庫) | |
Don Winslow,東江 一紀 | |
東京創元社 |
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中国の僧坊で伏虎拳の修得に余念がなかったニールに、
父親にさらわれた二歳の赤ん坊を無事連れ帰れ、という指令がくだった。
捜索の道のりは、ニールを開拓者精神の気風をとどめるネヴァダの片隅へと連れ出す。
不穏なカルト教団の影が見え隠れするなか、決死の潜入工作は成功するのか?
悲嘆に暮れる母親の姿を心に刻んで、
探偵ニール、みたびの奮闘の幕が上がる。
好評第三弾。
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ドン・ウィンズロウの探偵ニールのシリーズ、第3作。
私、前作でドン・ウィンズロウ色が出てきたなどと書きましたが、
いやはや、本作はますますその気配濃厚。
心底ゾッとさせられるシーンがあったりします。
前作までの流れから、中国山奥の僧坊で伏虎拳の修得など試みつつ暮らしていたニールに、
次なる仕事が舞い込みます。
父親にさらわれた二歳の赤ん坊を連れ帰れ、と、
例によって実に簡単そうな話ですよね。
しかし、実はこれが命がけの大変な仕事であるというのがこれまでのパターンです。
敵はあのナチスの白人至上主義の流れを汲むカルト教団で、
しかも武力によって世を支配しようという物騒な集団。
そこへ、ニールが潜入。
ニールが父と慕うジョー・グレアムやエド・レヴァインをも巻き込み、
超危険な任務となっていきます。
ズキーンとくるのが、ニールがこの見知らぬネヴァダの地で、
親切にしてくれたスティーブ・ミルズの一家や、
親しくなったカレンを裏切る事になってしまうこと。
ニールは彼らが敵対する組織の一員であることが知られてしまうからです。
もちろんそれは「潜入捜査のため」だと口にはできません。
前作で、ニールは「本当の愛を得られない、どこかで女性に裏切られることを期待している」
という話がありました。
巻末の解説で穂井田直美さんが言っています。
このシリーズ全5巻は「起承転結・句読点」の関係になっている、と。
本作は3巻目なので「転」に当たるのです。
だから最後はフラれるのが定番のニールが、
ここでは命をかけた苦難を乗り越えたことでマザコンから脱却。
一人前の男となる。
それが西部劇風のこの舞台で行われるというのがなんとも象徴的。
ということで、ここでニールは愛を失うことはないのです。
・・・スバラシイ!!
ニールが雪の中を馬に乗り敵から逃げるシーンが、またすごい緊迫感と疾走感。
彼を乗せたミッドナイト号は死力を尽くして走り続け、
その人馬一体の姿に胸を熱くし、その終焉のシーンでは思わず泣いてしまいました・・・。
まさか本作で泣かされるとは。
そして実際目を背けたくなるような描写のシーンもあるのですが、
映画なら目をそらせても、本は目をそらすと前へ進めない・・・。
どーしてくれるのよ、ドン・ウィンズロウ。
一作読むたびにドキドキ・ハラハラ、涙して、そして最後は笑顔にさせてくれる、
このシリーズ、大好きです。
日本では1999年に刊行されたもので、もとよりのファンの方なら何を今更、
とおっしゃると思いますが、でも私は出会えてよかった~と思っております。
「高く孤独な道を行け」ドン・ウィンズロウ 東江一紀訳 創元推理文庫
満足度★★★★★