映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「濱地健三郎の霊なる事件簿」有栖川有栖

2020年04月21日 | 本(ミステリ)

不思議な力で謎を解く

 

 

* * * * * * * * * * * *


探偵・濱地健三郎には鋭い推理力だけでなく、幽霊を視る能力がある。
彼の事務所には、奇妙な現象に悩む依頼人のみならず、
警視庁捜査一課の刑事も秘かに足を運ぶほどだ。
ホラー作家のもとを夜ごと訪れる幽霊の目的とは?
殺人事件の被疑者が同時刻に複数の場所にいたのは、トリックか生霊か?
生者の嘘を見破り、死者の声なき声に耳を傾ける心霊探偵が、驚くべき謎を解き明かす。
ミステリと怪異の融合が絶妙な、新シリーズ!

* * * * * * * * * * * *

有栖川有栖さんの新シリーズ。
異色の探偵はなんと心霊探偵。
つまり幽霊を見ることができるのです。
年齢不詳の渋―いおじさま、濱地健三郎であります。


読む前に思ったのは、霊能者が探偵というのはちょっとズルくはないか、ということです。
もし殺人事件があったとして、その死者の幽霊に聞けば、
犯人はすぐにわかってしまいますものねえ・・・。
これではミステリにもならない。
しかしご安心を。
もちろん著者はそんな単純な話を用意したりはしません。
例えば冒頭「見知らぬ女」では、ある女性が訪ねてきて、
夫に何かがとりついているようで、ひどくやつれている、
調べてはもらえないか、という依頼でした。
夫がうなされていたある夜、その枕元に「女」が立っていた、というのです。
後に夫に問いただしても、そんな女は知らないという。
そこで濱地がその夫の身辺を調べ始めると・・・、
というところで、およその顛末は想像がついてしまうのですが、
どのようにそれを暴くか、というところがミソ。


濱地は警察に協力もしているのですが、例えば幽霊が犯人を指し示しているとしても、
実際のところそれは犯人を指摘する証拠にはなりませんよね。
結局、誰もが納得する具体的な証拠をつかまなければならないのです。
それこそが、この探偵小説の面白み。


主人公の渋いおじさまだけでは地味すぎるので、
その若き助手ユリエも登場するのでご安心を。
新シリーズとして今後も楽しみではありますが、
でもやはり私は、火村英生シリーズの方が好きです♡


「濱地健三郎の霊なる事件簿」有栖川有栖 角川文庫
満足度★★★.5