映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

半世界

2020年04月27日 | 映画(は行)

もう半分の世界とは、混乱か、希望か

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山中の炭焼き小屋で備長炭を焼き、生計を立てている紘(稲垣吾郎)。
ある日、幼なじみで親友の瑛介(長谷川博己)が、突然自衛官を辞めて帰ってきます。
地元で中古車販売店を営む同じく幼なじみで親友の光彦(渋川清彦)も含め、
3人で旧交を温めますが、瑛介は戻ってきた事情を話そうとしません。



ひたすら炭焼きに励んでも、さして儲けは無く、取引先も先細りの紘。
息子は中学生ですが学校でいじめに遭っているようです。
しかし、自分の仕事に精一杯で、さして息子に関心も持てない紘。
そんな紘の炭焼きを瑛介が手伝うようになります。
互いに語り合えない胸の内ですが、次第に打ち解けていき・・・。



瑛介は、自衛官として海外の紛争地域に派遣され、
そこで悲惨な光景を見てしまうのです。
平和な日本では考えられないようなこと・・・。
そして彼の部下の身にも何かしらのことが起こったようでもある。
それで彼自身もPTSDに見舞われているのです。

彼は紘に言う。「おまえは、世界を知らない」と。
平和な日本のこの片田舎、炭を焼くだけの生活は「半世界」だと言うのでしょう。
だけれども紘は、ただ好きで炭を焼いているのではない。
亡き父の後を継いで・・・といえば簡単だけれども、
実は父との確執の末にこの仕事をしている。
なかなか一言では言いがたい複雑な心中なのです。
そして又、そんなことのせいか、息子との関係をうまく作れないようでもある。
だから紘は瑛介に言う。
「こっちだって、大変なんだ」。
あちら側の世界だけが大変なのではない。
一件平和なこちらの世界でもみな「闘って」いるのです。

 

さてそれとは別に、彼ら3人が並んで海を見るシーンがありますね。
それは少年時代の思い出でもあり、今また再会した彼らの姿でもある。
海の向こうに彼らは何を見たのか。
かすかな希望、未知の未来・・・、
それもまた、この世界とは別の「半世界」なのかもしれません。



冒頭のシーンでは、瑛介と光彦の二人が神社の裏で何かを掘り出そうとしています。
なぜか、紘がいない。
そのことでずっと何か引っかかりを感じていたのですが・・・。
的中してほしくない伏線でした。

 

稲垣吾郎さんはいい役者ですよねえ。
本作は今までのイメージからはちょっとちがう気がするのですが、
今後の可能性も感じられ、良かったと思います。

<WOWOW視聴にて>
「半世界」
2019年/日本/120分
監督・脚本:阪本順治
出演:稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴、石橋蓮司
人生を考える度★★★★☆
満足度★★★★.5