江戸のお仕事小説
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嫁ぎ先を離縁され、「介抱人」として稼ぐお咲。
百人百様のしたたかな年寄りたちに日々、人生の多くを教えられる。
一方、妾奉公を繰り返し身勝手に生きてきた自分の母親を許すことが出来ない。
そんな時「誰もが楽になれる介抱指南書」作りに協力を求められ
―長寿の町・江戸に生きる人間を描ききる傑作小説。
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時代物、お仕事小説。
ここでユニークなのは、主人公お咲の仕事というのが「介抱人」。
今で言えば「介護士」というところで、今必要不可欠な職業ではありますが、
江戸時代でこれはなかったでしょうね、多分。
そこを著者はあえて「女中」業の特殊部門的に、
体の動かなくなった病人や老人の「介抱」の
手助けをする仕事を考え出したわけです。
江戸時代を舞台としながら現代にも通じる介護問題を考えてもいるわけです。
でもまあ、当時は点滴も胃瘻もないわけですから、
食べ物を食べられなくなればあとは自然に衰えて、衰弱死・・・。
そう長い期間の療養はなかっただろうと推測します。
けれども、寝たきりの人がないわけではありませんよね。
それと、庶民はどうかわかりませんが、
武家では儒教の教えである「親孝行」が重んじられたので、
一家の当主、つまり男性が親の介護をするのが通例であったとのこと。
表向きはそうであっても、実際には下働きの者が働いていたのかもしれませんけれど。
まあ、そういうことだけならば単なるお仕事小説。
本作ではお咲が自身の母親とどうにもソリが合わず、憎んでさえいるというところから、
いろいろな人との出会いや出来事を通して次第に変容していくところが表されていて、
なかなか読み応えがありました。
けれどやはり、現代的テーマを意識しすぎた嫌いがあるのかな・・・と。
「銀の猫」朝井まかて 文春文庫
満足度★★★.5