テロリストと人質たちの穏やかな日々
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南米某国の副大統領邸。
実業家ホソカワ(渡辺謙)が経営する会社の工場誘致をもくろむ主催者が
企画したサロン・コンサートが行われようとしています。
招かれたのは世界的ソプラノ歌手ロクサーヌ・コス(ジュリアン・ムーア)。
ホソカワ、通訳のゲン(加瀬亮)、現地の名士や各国の大使らが集まる中、
コンサートが開始されます。
ところが、突如テロリストたちがなだれ込んできて、副大統領邸は占拠されてしまうのです。
そしてそのまま事態は進展を見せず、日々がすぎて、
貧困のために教育を受けていない若いテロリストたちと、
教養ある人質たちとの間に、静かな交流が生まれ始める・・・。
本作はいわゆる「ストックホルム症候群」、
つまり、被害者である人質が加害者である犯人に好意を抱くという事象を描いたドラマなのです。
でも、そうしたことの説明的なものではなく、
とても納得できる人と人の心の交流の物語。
あるものは英語を覚えるために、ゲンに教えを請います。
そしてあるものは、今までオペラなどろくに聞いたこともなかったのに、
ロクサーヌの歌声に魅せられ、自分も歌ってみたいと思い、学び始めます。
仕事ぶりが丁寧でしっかりしていると見える若者を、
この事態が終わったらぜひうちで働いてほしいという者も。
この事件がなければ決して交わることのなかった人々。
言語や生まれ育った国、環境が違っても、同じ人間には違いない・・・。
作中のテロリストの指導者は、実は以前教師だったというインテリで、
元々乱暴なことは好まない人物ということになっています。
貧しくろくな教育も受けられない民衆を顧みようともしない政府に、
反感を憶えての行動であるということ・・・。
残念ながら突発的な出来事で死者は出てしまったのですが、
平和的な日々が過ぎて行くのはこうしたことも大きい。
しかし、いつまでもそんな日々が続くわけもありません。
ついに政府軍が乗り込んでくる。
ここを占拠したテロリストよりも、政府軍の方がはるかに野蛮・・・
という、皮肉な状況になってしまいます。
何が正義なのか。
本当に考えさせられてしまいますね。
渡辺謙さんと加瀬亮さん、申し訳程度の出演かと思いきや、
しっかりと重要な役でした。
素晴らしい!!
<WOWOW視聴にて>
「ベル・カント とらわれのアリア」
2018年/アメリカ/101分
監督:ポール・ワイツ
原作:アン・パチェット
出演:ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮、クリストファー・ランバート、セバスチャン・コッホ
説得力★★★★☆
満足度★★★★☆