少年の名前
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本作は「映画.com特別オンライン上映会vol.6」で視聴しました。
以前地元のミニシアターでやっていたのを知っていたのですが、
とても長くて残酷シーンがある・・・ということで怖じ気づいて、
見ないで過ごしてしまいました。
せっかくのこの機会に、見てみましょうかと・・・。
全編モノクロ映像です。
東欧のどこか、一人の少年が人里離れた田舎家に預けられているのですが、
ある日突然そこの叔母さんが病死してしまいます。
行き場をなくした少年は、何故か人々に冷たい仕打ちを受けながら放浪の旅を始める・・・。
私、ほとんど予習なしで本作を見ました。
はじめ、この作品はかなり古い時代のストーリーかと思いながら見ていたのです。
家にはまだ電気も通っていないようだし、
最初に少年が拾われたのは、村の呪い師のような老婆のところ。
まともな医療もなさそう・・・。
というふうに見ていって、ほとんど半分近くまでいったところでしょうか、
少年はど田舎から町の方へ向かっていくのですが、
いきなりドイツ軍登場!
それでようやく、少年はユダヤ人だったことに気がつきます。
つまり少年はホロコーストの難を逃れるために
両親から叔母のところに預けられていたのでしょう。
そして、多くの人はキリスト教徒ではないユダヤ人を忌み嫌うが故に、
少年につらく当たっていたのです。
こんな時代でも辺境の地では電気もまともな医療もなく、
人々は中世さながらの生活をしていたというのも納得できるのです。
転々と様々な人に助けられたりひどい目に遭ったりしながら
少年はさすらっていくのですが、
概ね彼を救おうとしてくれたのは、
自身も周囲の人々になじまず変人扱いされていたであろう人々だったような気がします。
でも、少年を救おうとした人々はもちろん純粋な好意からの人もいますが、
自分のために利用しようという人も・・・。
彼を虐待するのは何もドイツ軍ばかりではありません。
むしろ彼を助けてくれたドイツ兵もいました。
ごく善人の顔をしたひどい人物も・・・。
善も悪も、世の中は混沌として計り知れません。
そんな中で少年は繰り返し悲惨な体験を積んでいきます。
そして無垢だった少年が、生き抜くためには
罪さえをも犯すようになっていく。
この悲惨な旅は一体いつになったら終わるのかと思い始めた頃、
ようやく変化の時が来ます・・・。
作品中、少年の名前が明かされません。
少年と関わる人々が彼を名前で呼ぶシーンもなければ、
人から名前を問われても少年は口を閉ざして答えません。
それが最後の最後、密かに明かされるのです。
私はこのことで、少年が自らのアイデンティティ、
それは善も悪も取り混ぜたものではありますが、
たとえ身体はどんなに蹂躙されようとも
自分自身の核となるものを最後まで守り抜いたように思えるのです。
この後一体彼がどのような人生を歩むことになるのか、
それも気になるところではありますが、物語はそこまでは語りません。
165分の長さを感じさせない、目の離せない物語でした。
※ポスターに使われている少年が首だけ出して埋められているシーンは、
少なくとも悪意をもって少年を懲らしめるという意味のシーンではないことを申し添えます。
「映画.com特別オンライン上映会vol.6」にて
「異端の鳥」
2019年/チェコスロバキア、ウクライナ/165分
監督・脚本:バーツラフ・マルホウル
原作:イェジー・コシンスキ
出演:ペトル・コラール、ウド・キア、レフ・ディブリク、
ステラン・スカルスガルド、ハーベイ・カイテル
残酷度★★★★☆
満足度★★★★★
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