映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「海うそ」 梨木香歩

2015年02月08日 | 本(その他)
決定的な何かが過ぎ去ったあとの、沈黙する光景

海うそ
梨木 香歩
岩波書店


* * * * * * * * * *

ただただ無心に漏れ来る光の林よ

昭和の初め、人文地理学の研究者、
秋野がやって来た南九州のとある島。
山がちなその島の自然に魅せられた彼は、踏査に打ち込む――。
歩き続けること、見つめ続けることによってしか、
姿を現さない真実がある。
著者渾身の書き下ろし小説。


* * * * * * * * * *


本作の主人公が研究しているのは人文地理学。
聞いただけでは何やらよくわからない学問ですが、
実は私、すごく好きかもしれません。
作中にある説明はこうです。

「遺跡も調べれば歴史も調べる、
統計も取れば植生も調べる、
場合によっては民話も採集する、
というよろずやのような学問」


人と自然の生業というか・・・。
切っても切れないモノの関係性。
人生が二度あるならば、私もこういう分野の研究をしてみたい・・・。
本作、考えてみれば、
カヤックで水辺を行き、渡り鳥たちに思いを馳せる
梨木香歩さんならではの学問であり、この、ストーリーでした。


南九州のとある島・・・と聞けば
風光明媚で穏やかそうな島を想像するのですが、
この島はなかなかどうして、険しい山がちの島なのです。
かつては修験僧が修行をしたという。
点在する村も、あまりにも道が険しく互いに行き来するのが大変なので、
交流が少なく、その村々で異なった方言があったりするほど。
秋野は、このような険しい山道を、
地元の梶井という青年とともに何日もかけて歩きます。
秋野は両親と許嫁を亡くしたばかり。
その沈みがちの心が、
圧倒されるような自然の有り様と、共鳴していくとでも言うのでしょうか。
その自然というのは、全くの手付かずの原生林ではなく、
かつて信仰の対象として社があったり、修業の場があったりしたのです。
しかし今はもうない"うつろ"の場所。
そのうつろが、彼の心のうつろと重なりあったように思われます。
そんな中で、彼は人の営みの本質を見るような気がするのです・・・。
うだるような真夏の日々のことなのですが、
どこかヒンヤリと怖いくらいの気持ちにもさせられました。


さて、最後に戦争をまたいで一気に50年後。
秋野は再びこの島を訪れます。
彼は結婚をし、子を持ち、孫もいる身。
このように充足した彼はこの島に何を見るのか。


このような田舎の小島でもやはり時代は移り変わっていた。
そんな中で、ただひとつ変わらないものを彼は見つけます。
「海うそ」。
現実ではないそれが、変わらないものだった・・・というのが、
当然ではありながら、なんともふしぎな気がします。

「海うそ」ってなんだ?って?
・・・ふふふ。
それはぜひ読んでたしかめてください。

「海うそ」 梨木香歩 岩波書店
満足度★★★★★

サード・パーソン

2015年02月07日 | 映画(さ行)
行き詰まり、錯綜する、それそれの人生



* * * * * * * * * *

パリ・ローマ・ニューヨーク、
それぞれの場所の3組の男女のストーリー。

★パリのホテルにこもり最新作を執筆していた
ピューリッツア賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)。
しかし彼はその後満足の行く作品を書けていません。
作家デビューを目指す野心的女性と不倫関係にあります。



★アメリカのビジネスマンスコット(エイドリアン・ブロディ)は、
ローマのバーでエキゾチックな女性に心奪われます。
彼女は密輸業者から娘を取り戻そうとしています。



★ニューヨークの元売れない女優ジュリア(ミラ・クニス)は、
息子の親権をめぐり元夫と係争中。
ホテルの客室担当をしています。



彼・彼女らはそれぞれ道に迷い行き詰まり煮詰まっていきます。
ちょっと、息苦しいほどに。
でもどんなに行き詰まっても、やがてそれは溢れて流れだす・・・。
が、それはハッピー・エンドではなく、苦い後味を残します。
それぞれ全く関わりのない人生ではありながら、
ほんの少しずつ、散りばめられたピースからパズルを完成するように
何かしらのつながりが見えてくる。
そんなところも見どころ。


本作のキーワード、「サード・パーソン」は
「第三者」ですね。
直接的には、マイケルが自分の日記なのに
自分をHeと書き表していたところから来ています。
三人称。


彼らは結婚し正式なパートナーがいる(いた)にも関わらず、
本作中では別の相手といたりするわけです。
それが第三者。
この第三者の存在が、彼らの人生に大きな変化を与えていくというわけですね。


そして、もう一つのキーワードが「子供」。
結婚した相手とは「別れ」ることはできても、子供は別。
いってみれば自らの分身のようなもの。
この愛だけは不変なのです。
そこでまた軋轢が生じる・・・。



この地球上、いつでもどこでも繰り広げられている
永遠なるテーマを封じ込めた作品と言ってもいいかもしれません。
本作で強烈だったのは、マイケルの愛人アンナ(オリビア・ワイルド)ですね。
自由で勝ち気で気まぐれ。
個性的ではあるのですが、彼女には重大な秘密が・・・。
結局マイケルは彼女を愛したというよりも
彼女の秘密を愛していたように思います。
あくまでも自分の作品のために彼女を愛した・・・。
うわ~、96時間の無敵な父親像を打ち砕く、
人の心の痛みをわかろうとしない、すんごく嫌な男性像でした、リーアム・ニーソン。
でも、こういう役もやっておかないと、
アクション俳優にされちゃいますからね・・・。



「サード・パーソン」
2013年/イギリス/137分
監督・脚本:ポール・ハギス
出演:リーアム・ニーソン、オリビア・ワイルド、エイドリアン・ブロディ、モラン・アティアス、ミラ・クニス、ジェームズ・フランコ
人生の迷い道度★★★★★
満足度★★★☆☆


エクソダス 神と王

2015年02月06日 | 映画(あ行)
悩める人間としてのモーゼ



* * * * * * * * * *

リドリー・スコット監督の歴史スペクタクル作品。
…実のところ私はさほどの期待感はなく、
見ないつもりだったくらいなのですが、
スケジュール的にちょうど良いのが見当たらず、
まあ、これでもいいか、くらいの気持ちで見ました。


旧約聖書の「出エジプト記」です。
となれば、往年の名作「十戒」の、
あの海がま二つに割れるシーンはあまりにも有名。
それを踏まえての焼き直しで、お手並み拝見ということになります。
紀元前1300年。
栄華を誇るエジプト王家で養子として育てられたモーゼ。
しかし、兄弟同様に育ったエジプト王ラムセスに反旗を翻し、
一人で40万人ものヘブライの民を率い、エジプトを出て約束の地を目指すことになります。



「王を救ったものが民衆を率いるものになる」という予言。
そのために、それまで何の問題もなくうまく行っていたモーゼとラムセスの間にヒビが入るわけです。
もしこの予言がなければ、この物語はなかったかも・・・。
予言というのは時として、こんな不思議な未来を自ら呼び起こします。





はじめの方の戦闘のシーンは迫力がありました。
また、ヘブライ人たちのモブシーン、
奴隷として働くシーンや、旅立つシーン、海をわたるシーンなど、
迫力満点。
映像としても楽しめます。


そして、十の災い、
鰐やカエル、イナゴ、アブが襲いかかる・・・。
ワニの大群はちょっと怖かったですね。
ジョーズも真っ青。
これらは、水の汚染で魚が死んで、ウジが発生して、
アブやブヨが大発生、
そして疫病が蔓延・・・というふうに
実際にあり得る連鎖の説明があったことが興味深かったのです。
そして例の海をわたるシーンは、
海は真っ二つに割れたりはしなかったのですが、
大きく潮が引くのですね。
もしかしたらどこかで大きな地殻変動があって、
引き波のあとに大津波が来て・・・。
神のなせる技であったにしても、
どこかきっかけを説明できそうなのが、新解釈なのかなあ・・・と。



そしてまた、モーゼは決して神を盲信しているわけではないのです。
それは彼が幼い時からヘブライの民として育ったわけではないからなのかもしれません。
しかし、神はそれをも見越して、
神に頼るだけでなく、自ら考え行動する人物を育てようとしたのだ
・・・という風にも考えられますね。
これもまた、現代的解釈なのかもしれません。



しかし実は、この海を超えてもなお、モーゼとヘブライの民の苦難は続くのです。
なんのための神の奇跡だったのか・・・
神のみ心は、凡人には計り知れません・・・。


「エクソダス 神と王」
2014年/アメリカ/150分
監督:リドリー・スコット
出演:クリスチャン・ベール、ジョエル・エドガートン、ジョン・タトゥーロ、アーロン・ポール、ベン・キングスレー

スペクタクル度★★★★☆
満足度★★★☆☆

コーヒーをめぐる冒険

2015年02月05日 | 映画(か行)
人生のツケが回ってきたついてない一日



* * * * * * * * * *

舞台はベルリン。
しっかり現代の話ですが、モノクロ。
でもこれがすごくいい味になっています。


ニコ(トム・シリング)は、2年前に大学を中退し、
自堕落な毎日を送っています。
その日の朝、彼女が入れるコーヒーを飲み損ねてから、
調子が狂いっぱなし。
様々な人、様々な出来事に遭遇します。
車の免許が停止され、
同じアパートの住人に絡まれ、
父に退学がバレて送金を絶たれ・・・。
そして、面白いのは何故かこの日、
ずっと彼はコーヒーを飲むことができないのです。
決してコーヒーを飲むためにあちこち駆けずり回ったりはしないのですよ。
でも、ちょっと一息入れてコーヒーでも・・・という時はあります。
そんな時に何故かお金を持っていなかったり、
店のコーヒーが切れていたり、
自販機が故障していたり、
ポットがたまたま空だったり・・・。
水やお酒はあるのに、
何故かコーヒーだけは飲むことができない。
ニコにとって踏んだり蹴ったりのことばかりが起こるこの日は、
けれども彼のこれまでの人生のツケが
一気に回ってきただけのようにも思えるのです。
コーヒーにありつけないのがその象徴とでも言うように。



この構成には唸らされてしまいますね。
このコーヒーのくだりがなければ、
どこにでもある青春ドラマになってしまうところです。
けれど本作、ニコの困った状況を描写するだけではありません。
そこにはまた、出会ったいろいろの人たちの人生ドラマがあるのです。
時にはある友人のおばあちゃんに、ほんの束の間、癒やされたりもして。



この一日の結末というか仕上げもまた、普通ではありません。
決してハッピー・エンドではない。
けれども、きっと次の日からニコは変わっていくだろうなあ・・・と思わせますね。
本作、2013年ドイツアカデミー賞主要6冠を制覇。
それも納得でした!!



トム・シリング、いいですねえ・・・。
すっかりファンになってしまいました。

コーヒーをめぐる冒険 [DVD]
トム・シリング,フリデリーケ・ケンプター,マルク・ホーゼマン,カタリーナ・シュットラー,ミヒャエル・グヴィスデク
ポニーキャニオン


「コーヒーをめぐる冒険」
2012年/ドイツ/85分
監督・脚本:ヤン・オーレ・ゲルスター
出演:トム・シリング、マルク・ホーゼマン、フリーデリッケ・ケンプター、ユストゥス・フォン・ドーナニー、ウルリッヒ・ノエテン

不運度★★★★☆
満足度★★★★★

プレミアム・ラッシュ

2015年02月04日 | 映画(は行)
下手なカーチェイスよりスリルたっぷり



* * * * * * * * * *

本作は劇場公開がなかったようですが、もったいない。
大きなスクリーンで見たら、きっと、
もっとスピード感が楽しめたのに、と思います。



舞台はニューヨーク、マンハッタン。
いつも渋滞している道路の車の列を分け入って
ハイスピードで走り抜ける、バイクメッセンジャーのストーリー。
ワイリー(ジョセフ・ゴードン=レビット)は、
知り合いの女性ニマから一通の封筒を預かり、
相手先まで届けることになるのですが、
封筒を預かった直後から、怪しい男に付け狙われます。
彼はこの封筒を奪い取ろうとしているのですが、実は刑事。
いえ、刑事とは名ばかりのヤクザ顔負けの悪徳警官。
この封筒の中身はある取引の証書のようなものが入っているのですが、
もしや麻薬?と思われたのが、実はそうではなく、
ニマの大切な身内に関わるものだったのです。
それを知るとますますワイリーの闘争心が燃え上がる。



いやいや、それにしても、
道路を行く車は止まっていたりはしてくれません。
ワイリーの自転車はブレーキも外してあって、
赤信号もなんのそので、車の間隙を縫って疾走するのです。
下手なカーチェイスよりもずっとスリルがあります。
もろに生身ですしねえ。
しかも自分の足で漕ぐわけですから、そりゃー疲れます。
時々は走行中の車につかまって走ったりもします。
ジョセフ・ゴードン=レビットは、この撮影で31針縫う怪我をしたそうです。
そりゃあもう、怪我をしないほうが不思議。
・・・というかスタントマンではなかったんですね!
エンドロールでその時の映像がチョッピリ紹介されています。
「良い子は決して真似をしないように」とのメッセージ付き。



本作、一番初めに、事故って路面に叩きつけられるワイリーのシーンがあって、
そこから少しずつ時間をさかのぼり、
こうなってしまったイキサツの説明に入る、
という作りなのもちょっと面白い。
で、その事故のシーンまでたどり着いて一巻の終わり・・・ではなくて、
そこからまた山場があったりするので、油断なりません。
結構楽しめました。オススメです。



プレミアム・ラッシュ [DVD]
ジョセフ・ゴードン=レヴィット,マイケル・シャノン,ダニア・ラミレス,ジェイミー・チャン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


「プレミアム・ラッシュ」
2012年/アメリカ/91分
監督:デビッド・コープ
脚本:デビッド・コープ、ジョン・カンプス
出演:ジョセフ・ゴードン=レビット、マイケル・シャノン、ダニア・ラミレス、ジェイミー・チャン
スピード感★★★★☆
満足度★★★★☆


ビッグ・アイズ

2015年02月03日 | 映画(は行)
ブラックユーモアを込めたデフォルメ



* * * * * * * * * *

1960年代、アメリカポップアート界で人気を博した
「ビッグ・アイズ」シリーズをめぐり、
実在の画家マーガレット&ウォルター・キーン夫妻にあった実話を元にしています。
確かに、この大きな目の絵は、インパクトがありますが
実話を元にしているということで、
地味で辛気臭い話なのでは・・・と、実は思っていたのですね。
でもまてよ、なんと監督がティム・バートン。
「アリス・イン・ワンダーランド」とか、「ナイトメア」とかの。
一体どんな作品なんだ?と俄然興味がわきました。



このビッグ・アイズの絵は当時大ブームとなり、
その作者ウォルター(クリストフ・ヴァルツ)も
美術界の寵児として脚光を浴びたのですが、
実はこれは妻マーガレット(エイミー・アダムス)が描いていたのものだったのです。
つまりはウォルターはゴースト・ペインター。





マーガレットは絵のサインを自分の名前ではなくて
苗字「キーン」として入れていたのです。
ウォルターも一応「画家」ではあったので、
周囲の人が始めウォルターが描いたのだと思った。
それを修正しそこねただけなのですが・・・。
すぐに訂正すればすむことです。
しかし、このウォルターというのが異常に自己顕示欲が強かった。
自分が描いたと押し通して、賞賛を浴びることが楽しくて仕方がない。
そしてまた、時代性もあるのです。
ウォルターは妻に威圧的に迫り、事実を明かすことを許さない。
子連れで結婚したマーガレットは
シングルマザーとなることの不安から、夫に従うことを選んだ。
来る日も来る日も、部外者立入禁止のアトリエにこもって
ひたすら絵を量産する。



あくまでもポップ・アート、芸術性なんかないと言い張る人もいたようですが・・・。
それにしてもマーガレットにとって、この絵は自分自身の心の現れなのです。
ある時ついに夫の作とすることに耐えられなくなり、反旗を翻します。
そしてついには裁判の場にもつれ込む・・・。
ここが異様な迫力で迫ります。
ウォルターは、確かに商才があり、人を引きつける何かも持っているのです。
しかし、この裁判の場で図らずも彼の本性がさらけ出されてしまう。
目立ちたくて、お金が欲しくて、調子が良くて、
そして大嘘つきだ・・・。
ほとんど人格が壊れていると言ってもいいほどに。


これだ・・・この、人物の
異様にグロテスクで、ブラックユーモアを込めたデフォルメ。
ここがやはりティム・バートンなのです。
・・・そういえばビッグ・アイズの絵自体もそうなんですね。



裁判の決着にはちょっと胸がすきます。
監督の、これまでのどちらかと言えば子供向けめいた作風からの新境地。
なんだかこの先も楽しみになってきました。
そんなわけで、予想に反して、
何やら変に胸に迫ってしまう作品なのでした。


「ビッグ・アイズ」
2014年/アメリカ/106分
監督:ティム・バートン
出演:エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジョン・ポリト、クリステン・リッター

ブラックユーモア度★★★★☆
満足度★★★★☆

「最後のおでん ああ無情の泥酔日記」 北大路公子

2015年02月02日 | 本(エッセイ)
ダラダラのようで、実は鋭いキミコさん

最後のおでん: ああ無情の泥酔日記 (新潮文庫)
北大路 公子
新潮社


* * * * * * * * * *

おでんを食べ続けているうちに三日もたっていた。
理由はわからない。
それは、二〇人前も作ったからや!
見通しが甘く、意志は弱く、やすやすと酒に溺れる独身フリーライターが、
サボりながらも継続してきた日記。
だが、ここにはきっとあなたの人生にとって
大切なことが書かれている(かもしれない)。
全国の酔っ払い女子たちの圧倒的共感を期待して堂々刊行。
キミコの扉は夜開く。

* * * * * * * * * *


「枕もとに靴」に次ぐ北大路公子さんの泥酔日記。
約10年ほど前にネットに公開された日記なのだそうですが、
その頃これを目にしていたら、私もきっとファンになっていたと思います。
本巻解説の大矢博子さんは
「最近のキミコさんは発信場所をツイッターに移しているが、
ここに書かれている10年前の日々と、
ツイッターで語られる最近の日々が、もう何の変化もない」とおっしゃっています。
いや、その変わらなさがいいんですよね・・・。
酔って財布をなくしても、
どこでどうなってそうなったものやら何も記憶がないという・・・、
そこまでの酔い方を私はしたことがないのですが、
そこまでの自己開放、ちょっと気持ちがよさそう。
でも翌日の具合の悪さもかなりなのではないかと思うと、
やはりマネはできません・・・。


前巻「枕もとに靴」にあったような、
幻想的かつ情緒的な掌編のようなもの・・・は、
かなり鳴りを潜めていいます。
それでも、キミコさんの文章は、
ただだらだらと思いついたことを書き連ねているわけではなくて、
読ませるようにしっかり計算されているなあ・・・と
いまさらですが気づきました。


例えば、「なんで」というところでは、
5月というのに車にまだ冬用のワイパーを付けたままのキミコさん、
「夏用のワイパーを買わなくちゃ」とヤギ氏に言えば
「なんで」と彼は怒ったように言う。
どうしてそんな風に言われるのかわからないキミコさん。
そのココロは最後の最後に明かされる。


酔って財布をなくして友人たちにさんざん迷惑をかけたキミコさん。
ある日その友人の家に招かれ、そのためのビールなどを一緒に買うことに。
普段迷惑をかけているのでここはキミコさんが支払いをしようと思ったのですが、
その時の友人のひとこと。
これが面白いのですが、
なんとその先の彼女のおまけのひとことがまた効いている。
しっかり起承転結になっていて、ひねりもあり、
だからついやめられずにどんどん読んでしまうのですよね。
ライターとして、確かに優秀な方です。
そこのところは、尊敬します。

「最後のおでん ああ無情の泥酔日記」北大路公子 新潮文庫
満足度★★★★☆

ウェディング・バンケット

2015年02月01日 | 映画(あ行)
これぞ、東洋の父親



* * * * * * * * * *

「ブロークバック・マウンテン」や「ライフ・オブ・パイ」の
アン・リー監督の出世作ということになっています。
いや、確かになかなか良かったのですよ。


アメリカに帰化した台湾出身のウェイトン。
彼は仕事も成功し、恋人と一緒に幸せに暮らしています。
ただ問題は、その恋人というのがサイモンという男性。
はい、つまりウェイトンはゲイなのでした。
しかしそんなこととは知らない祖国台湾の両親が、
早く結婚しろ、孫が見たいと矢の催促。
そこで、サイモンの提案で、
グリーンカードが欲しい中国人女性と
偽装結婚をすることになりました。
はるばる台湾からやってきた両親は、
市役所での味気ない結婚式では到底満足できず、
本国並みのド派手な披露宴を行うことになってしまいます。
偽装結婚なのに、なんとも豪華でどんちゃん騒ぎの披露宴。
心苦しくて仕方のないニセ新郎新婦とサイモン。
しかしその夜、酔った勢いで
つい関係を持ってしまうニセ新郎新婦・・・。



移民の問題、ゲイの問題、
愛と友情、親と子。
いろいろなものが実にバランスよく、
深刻過ぎず、またバカバカしすぎず、
ほろりと来る作品でした。
特に、ウェイトンの父親が、実に味があります。
威厳があるけれど威張っているわけではない。
もう歳なので、家族から庇われているように見えて、
実はすべてを見通している。
けれどそれをも、表に出さない。
こういうの、やはり東洋的ですね。
欧米の父親ならもっと威圧的で、どこかで爆発していたかもしれません。
カッコイイぞ、お父さん!

ウェディング・バンケット [DVD]
アン・リー,ニール・ペン,ジェームズ・シェイマス
ジェネオン エンタテインメント


(WOWOW 発掘良品企画)
「ウェディング・バンケット」
1993年/台湾・アメリカ/109分
監督:アン・リー
出演:ウィンストン・チャオ、ミッチェル・リキテンシュタイン、メイ・チン、ラン・シャン、グア・アーレイ
三角関係度★★★★☆
満足度★★★★★