映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ジヌよさらば かむろば村へ

2015年04月08日 | 映画(さ行)
なにも買わない。なにも売らない。



* * * * * * * * * *

一見して意味不明のこの題名。
「ジヌ」とはすなわち「銭」のことで、
東北弁でナマって「ジヌ」なんですね。



元銀行員の高見武晴(松田龍平)は、
お金に困って悲惨な運命をたどった人を多く見過ぎたために、
お金アレルギーになってしまい、
お金を1円も使わないで暮らす決心をして、
東北のさびれた村、かむろば村へ移住して来ました。
しかし、農村ならお金がかからない、というのはあまりにも考えが甘い。
まず光熱水費がどうしてもかかりますが、
彼は始めから電気も水道も使うつもりはなく、
あえて「囲炉裏」のある家を買ったという。
それにしても薪くらいはないと・・・、
しかも当面作物はできないので食べるものもありません・・・。
ところがこの村の村長天野(阿部サダヲ)が異常なくらい人が良くて、
彼のことを心配し、何かと世話を焼きます。
その村長には似合わぬ(?)美人妻(松たか子)や、
妙に馴れ馴れしい少女・青葉(二階堂ふみ)、
村人から「神様」と呼ばれるふしぎな老人“なかぬっさん”(西田敏行)など、
いろいろな人に出会い助けてもらいながら、彼は村に馴染んでいきます。



村長は言う。
自分は「自分を捨てた」から人のために生きるんだ・・・と。
しかし、彼が自分を捨てたのには何か危険な経緯があったらしい・・・。
折しも村長選挙の時期。
さて、次期村長に選ばれるのは誰・・・?



「なにも買わない。なにも売らない。ただ生きていく。」を
人生の目標としたタケ(武晴の村での通称)。
いくら何でもそれは難しい・・・と思ったのですが、
いい方法があったのですね。
「村」というのは、排他的なこともあるけれど、
一旦入り込んでしまえば、実に世話好きな人々も多いのです。
働いた対価をお金でなく現物でいただくというのは、
都会でもできなくはないでしょうけれど、
やはりこのような農村部でこそいきるやり方のような気がします。
人と人がつながり合って生きているということを実感させられます。
彼のそういう信念を見守り応援しようとする周りの人々がまたいいんだなあ・・・。
現実離れしていますが、
まあ、これはファンタジーなんですよね。
なんたって、神様まで出てくるのだし。



阿部サダヲさんと松たか子さんが夫婦役というのにちょっと驚きますが、
そう言えば「夢売るふたり」でも夫婦役なのでした。
ちょっと見ではヘタレのタケさんが、
でも実は強い信念の持ち主・・・ということで、松田龍平さんがピッタリでしたし、
いかにも二階堂ふみさん的少女もユニーク。
監督・脚本が松尾スズキさんで、また重要な役どころも務めています。
三谷幸喜さんをダシにしたネタも有り。
楽しめました~!



本作は福島県奥会津の柳津町でのオールロケだそうです。
見ていてもわかりましたが、主要人物のほかはみな地元の皆様方。
会津びいきの私にはまたうれしい舞台なのでした。

ジヌよさらば ~かむろば村へ~ [DVD]
松田龍平,阿部サダヲ,松たか子,二階堂ふみ,西田敏行
Happinet(SB)(D)


「ジヌよさらば かむろば村へ」
2015年/日本/121分
監督・脚本:松尾スズキ
原作:いがらしみきお
出演:松田龍平、阿部サダヲ、松たか子、二階堂ふみ、片桐はいり、西田敏行、松尾スズキ
田舎度★★★★☆
満足度★★★★☆


ドン・ジョン

2015年04月07日 | 映画(た行)
結局はオーソドックスなラブ・ストーリー



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伝説のプレイ・ボーイ、ドン・ファンにちなんで
友人たちから「ドン・ジョン」と呼ばれるジョン(ジョセフ・ゴードン=レビット)。
その名の通りナンパはお手の物で、女はよりどりみどりなのですが、
実は、生身の女性よりポルノビデオで自慰するほうがイイと思っているのです。

ある時、極め付きのセクシー美女・バーバラ(スカーレット・ヨハンソン)と付き合い始めますが、
それでもまだネットのポルノビデオをやめられない。
それでもジョンは、彼にとって理想の美女・バーバラに言われるままに、
家族に彼女を紹介し、大学の講座にまで通い始めるのですが・・・。



本作、題材はきわどく扇情的ですが、
結局はオーソドックスなラブ・ストーリーなのでした。
大学の講座でジョンは、年上の女性・エスター(ジュリアン・ムーア)と知り合います。

初めてあった時は、何故か一人で泣いていた彼女。
でも、馴れ馴れしく話しかけてくる彼女を煙たくも思っていましたが・・・。
自分勝手なセックスではなく、
互いをいたわり心を通わせる愛の行為こそが、本当の満足をもたらす・・・
という、そのことに気づいていくストーリー。
はじめの方は男性目線。
終盤は女性目線のストーリーなんですね。
だから、女性ははじめの方だけで嫌にならないで、
ちゃんとおしまいまで見ることをオススメします。



いつもむっつり黙り込んでいるジョンの妹が、
終盤に語る一言が、いかにも効いています。
これで、全てがご破算になって、また動き始める。



それにしてもスカーレット・ヨハンソン、
実に色っぽいです・・・。
これにくらっと来ないほうがおかしい。
バーバラの男性操縦術はなかなかのものですが、やり過ぎなんですよね。
やはりすべてを自分の思うままに、ではなくて、適当な頃合いを見つけるべきです。
それに気づくまでには、まだ多くの男性遍歴が必要そうだ・・・。 
ジョセフ・ゴードン=レビットの監督兼主演作品、
今後もまた期待しています。

ドン・ジョン [DVD]
ジョセフ・ゴードン・レヴィット,スカーレット・ヨハンソン,ジュリアン・ムーア
KADOKAWA / 角川書店


「ドン・ジョン」
2013年/アメリカ/90分
監督:ジョセフ・ゴードン=レビット
出演:ジョセフ・ゴードン=レビット、スカーレット・ヨハンソン、ジュリアン・ムーア、トニー・ダンザ、ロブ・ブラウン、

ヒステリア

2015年04月06日 | 映画(は行)
ヒステリーは病気・・・?



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“「大人のおもちゃ」として愛用されている電動バイブレーターの知られざる誕生秘話”
と聞くと、ちょっと引いてしまうのですが、
このたび見てみたら、いやらしさはなく、ちょっとしたコメディになっています。


舞台は英国、ヴィクトリア期、
すなわち産業革命まっただ中の19世紀ロンドン。
若き美男子医師モーティマー(ヒュー・ダンシー)が、
女性たちのヒステリー治療のための医療用電気器具として
世界初の電動バイブレーターを開発したのです。


その当時女性のヒステリーは、子宮が痙攣する病(!)と捉えられており、
彼の勤務する治療院では、男性医師が女性の陰部をマッサージし、
治療としてあえて子宮を痙攣させていた・・・という、
いやそれこそ赤面モノではありますが・・・。
しかし、人気が出て指を使いすぎたモーティマーは、
指が痛くて動かせなくなってしまいます。



彼の友人が、当時まだ出始めだった「電気」を利用したモノ作りオタクであったために、
この器具を思いついた。
なるほど、この時代だからこそ成り立つストーリーで、
非常に興味深く拝見しました。



そしてまた本作はラブストーリーでもあります。
モーティマーはこの治療院の院長の娘エミリー(フェリシティ・ジョーンズ)と結婚し、
跡継ぎに収まろうと思ったのです。
娘のほうも乗り気で、話はトントン拍子に進んでいたのに、
彼の指が使えなくなって、話がご破算になってしまった。



さて、そのエミリーには姉・シャーロット(マギー・ギレンホール)がいて、
彼女は家を出て自立して生活をしていました。
自由奔放な彼女は、モーティマーとは早くから顔を合わせていたのですが、
言いたいことをズバズバ言う彼女を
モーティマーは、苦手だと思っていたのですね。
けれども・・・、とその先はお定まりではありますが、楽しめます。



彼女は父の治療院を
「夫に満足に奉仕されていない有閑マダムたちの、性的満足を得る場」
と正確に認識していました。
そして貧しい人たちのための施設を運営し、
女性参政権を勝ち取ろうとする運動家でもあります。
このイキイキとした女性が
このストーリーをしっかり引き締め、魅力あるものにしているわけです。
ユニークな題材を、ユーモアにくるんで
決して危なくなく仕上げた良作。



ヒステリア [DVD]
ヒュー・ダンシー,マギー・ギレンホール,ジョナサン・プライス,フェリシティ・ジョーンズ,ルパート・エヴェレット
アミューズソフトエンタテインメント


「ヒステリア」
2011年/イギリス・フランス・ドイツ/100分
監督:ターニャ・ウェクスラー
出演:マギー・ギレンホール、ヒュー・ダンシー、ジョナサン・プライス、フェリシティ・ジョーンズ
歴史発掘度★★★★★
ユニークな題材★★★★☆
満足度★★★★☆

オー!ファーザー

2015年04月04日 | 映画(あ行)
フォー・ファーザーズ



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伊坂幸太郎さんの原作が大好きで、
だからこちらも見てみました。
母親と4人の父親と同居している高校生、由紀夫(岡田将生)。
母親が由紀夫を妊娠した時、この4人の男性と付き合っていた、
と言うのです。
別れるくらいなら同居した方がマシ!と決心した男四人が、
話し合いの末、みな父親として同居することに・・・。



その四人とは・・・

鷹 賭け事大好き、裏社会のことも訳知り(河原雅彦)


葵 女好き。 女性に声をかけるのが礼儀だと思っている(村上淳)


悟 知的冷静な頭脳派(佐野史郎)


勲 体育会系熱血教師(宮川大輔)


この4人がせっせと由紀夫を育て、教育したものだから、
由紀夫はそれぞれの分野に秀でるカッコイイ男子に成長している!
しかし4人の父親の愛情に、若干煩わしさも感じている・・・と。
このストーリー中は、母親は出張でずっといなくて、
由紀夫と4人の父親中心に話が進みます。



ある日、ゲーセンで鞄の盗難事件を目撃したことから
事件に巻き込まれていく由紀夫と父親たち。
どうやらこの街の選挙戦に関係することのようですが・・・。


いつもながら、伊坂作品の伏線の妙と、
登場人物たちの豊かな個性、
そしてちょっととぼけてシャレた会話。
原作の良さそのままで、楽しみました。
父親たちの配役がまた、ぴったし!でしたね。
最後まで母親が登場しなかったところも、よし。
忽那汐里さんの多恵子も可愛らしかった。

好奇心たっぷりのおせっかいな押しかけ友人ですが、
つまりは何事にもあまり積極的に関わろうとしない由紀夫の後押し役ですね。
つい彼女に感化されて、由紀夫が不登校の友人を訪ねてしまうというのも、
始めから彼が前向きに自身でこのような行動に出たりすれば
鼻についてしまうところです。
改めて、人物配置の大事さを感じます。

オー!ファーザー [DVD]
岡田将生,忽那汐里,佐野史郎,河原雅彦,宮川大輔
よしもとアール・アンド・シー


「オー!ファーザー」
2013年/日本/102分
監督:藤井道人
原作:伊坂幸太郎
出演:岡田将生、忽那汐里、佐野史郎、川原雅彦、宮川大輔、村上淳
原作復元度★★★★☆
満足度★★★★☆

トレヴィの泉で二度目の恋を

2015年04月03日 | 映画(た行)
老いればなおさらに、人との心のつながりが大切



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人生の黄昏時を迎えた男女の恋の物語。
本作は若い方が見てもあまりぴんとこないのではないかと思います。
それなりの年齢に達した方なら、まあ、こういうのもいいかなあ・・・と。
でもやはり、ラブストーリーは美男美女が演じるからこそ美しい。
イヤもちろん主役のお二人も、
お若いころはそれはそれは魅力的だったことは知っていますが、
ラブストーリーには自分の年も忘れて
『ロマン』に浸るという効用を求める部分もありますので、
微妙なところです。



妻を失い、生きる気力を失くしたフレッド(クリストファー・プラマー)が、
娘の勧めるアパートに越してくるのですが、
やはり何をする意欲もなく、引き籠もり生活をしています。
そこへ現れたのがアパートの隣人・エルサ(シャーリー・マクレーン)。
彼女はフレッドを何かと気遣い、外へ連れ出すなどおせっかいを焼きます。
始めは嫌がっていたフレッドも次第に彼女に心惹かれ始め・・・。



さてさて、このエルサがなかなか一筋縄ではいかない人物なんですね。
多分若い頃は“コケティッシュ”とでも言えるような雰囲気であったことでしょう。
自分の願望を事実として言葉にしてしまうような、
ちょっと嘘つき。
それに“オバサン”が入っておせっかい焼き。
エルサはフェデリコ・フェリーニの「甘い生活」の一シーンに憧れているのです。
主人公の美女がトレヴィの泉で戯れて水に打たれるシーン。
いつかローマへ行って、同じようにするのが夢・・・。



う~ん、実のところ私、身の回りにこんな女性がいたら、
きっと嫌いだと思います。
男に媚びを売るような感じがどうも苦手で・・・。
いい年して、夢見がち過ぎ・・・。
本作中もエルサには同性の友人が訪ねてきたりはしていませんでした。
フレッドには友人が訪ねてきていましたが。

包容力のある男性は、多分女のウソを認めつつも
「可愛い、守ってやりたい」と思えるのでしょうね・・・?
始めは彼女の話をすべて本当と思い込んでいたフレッドは、
それがウソとわかると怒りもし、失望もするのですが、
次第にそのウソもまた愛しいと思えてくる。
あ、イヤ、その気持が分からないとはいいません。
たぶん、男性は自立した女性よりそういうほうが好きなんでしょうから。



が、いい加減なことはペラペラ喋るくせに、
彼女は一つだけフレッドに言っていないことがあって・・・。
と、ここのところがなければ、
本作はとんでもない駄作で終わる所でしたが、
まあ、晩年にこのように人と心の交流があって、安らぎを得られるのはいいなあ・・・と、
そのへんで納得できた次第です。


お年寄りは子供や孫にお金を残すのではなく、
自分のために使うべきです。
振り込め詐欺にだましとられる前に。


こちらが「甘い生活」のアニタ・エクバーグ

トレヴィの泉で二度目の恋を [DVD]
マイケル・マクドノー,マイケル・ラドフォード,ピーター・ボイル,ニコラス・ヴァンバーグ,アンナ・パヴィニャーノ
アルバトロス


「トレヴィの泉で二度目の恋を」
2014年/アメリカ/97分
監督:マイケル・ラドフォード
出演:シャーリー・マクレーン、クリストファー・プラマー、マーシャ・ゲイ・ハーデン、ジャレッド・ギルマン、クリス・ノース

老いらくの恋度★★★★☆
ロマンス度★★☆☆☆
満足度★★★☆☆

「ロスト・ケア」 葉真中 顕

2015年04月02日 | 本(ミステリ)
人にしてもらいたいと思うことを、あなたも人にしなさい。

ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中 顕
光文社


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戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。
その報を知ったとき、
正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び
―悔い改めろ! 
介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味…。
現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、
圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!
全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


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一人が四十数人を殺害しながらも、
殺人事件として認識されていなかった・・・という
恐るべき犯罪の物語ですが、
これはミステリというよりもむしろ、
老人介護のあらゆる問題点をついた社会派の小説と言ったほうがいいような気がします。


マスコミ等でもいつも問題にされる老人介護問題ですが、
なにが問題なのか、
現実を踏まえてしっかりとした説明を聞いたことがないような・・・。
一番の問題は介護されるべき老人の人口が
恐ろしい勢いで増えているということではありますが・・・、
作中にもありますが、それは始めからわかっていたことなんですよね。
かつては介護は家族がするのが当たり前でしたが、
今や核家族、介護に当たる人は固定化し、重い負担がのしかかる。
しかも医療が進んでいるので
寝付いてからもまた、さらに長く介護の状態は続きます。
お金がある人はいい。
介護施設はピンからキリまでありますが、結局はお金次第。
介護保険は本当に最低限のところしか支えてくれません。


本作の"犯人"は、サイコパスなどでは決してなく、
今の日本の介護保険制度に立ち向かうかのように
要介護度の高い老人たちを手にかけていきます・・・。
それを犯罪者として声高に非難もできないけれど、
かといって、よくやったと称えることもできない。
どうにもモヤモヤとしたやり場のない気持ちを持て余すばかりです・・・。


本作中には、本格ミステリの常套手段であるところのダマシが隠されていますが、
私はその小賢しいダマシがむしろ邪魔に思えてしまいました。
直球の社会派ミステリでも十分行けたのではないかと思います。


私はやはり、ピンピンコロリが理想ですが、
そうでなければガンで死にたいなあ・・・。
長患いせず、結構死の間際まで意識も保って・・・。
しかし思うようにならないのが、世の常ではあります・・・。

「ロスト・ケア」葉真中顕 光文社文庫
満足度★★★★☆