映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

悪童日記

2015年04月23日 | 映画(あ行)
森の獣たちが成長し、自立のときを迎えるかのように・・・



* * * * * * * * * *

舞台はドイツ統治下のハンガリー。
第二次世界大戦下、
田舎町の祖母のもとへ双子の男の子が疎開してきます。
しかし初めて会った祖母は、村人たちからは「魔女」と呼ばれる意地悪な老女。

双子は否応なく彼女に働かせられ、暴力を受けるのですが、
他の村の人々からもやはり同じような扱いを受けてしまいます。
理不尽に繰り返される暴力や飢え。
これまで両親のもと、不自由なく暮らしてきた彼らですが、
いつまでたっても母は迎えにも来ず、
ここでは生き抜くために強くならなくては、と決心するのです。



この二人、最後まで名前が出てきません。
兄とか弟の区別もなく、いつもただの「双子」。
イヤ、ただの双子じゃないですよね。
見てください、美少年なのにこのふてぶてしい眼差し。
(彼らは全くの俳優未経験者だそうです!!)

痛みに耐えられるように互いに殴り合いをしたり、
何日も絶食をして空腹に耐えられる訓練をしたり・・・。
残虐さを身につけるために虫などを殺し続けたりも・・・。
こうなると子供は可愛いものだなどという観念は消え失せていきます。
「悪童日記」といえば単に『いたずらっこ』のようなイメージを持つかもしれませんが、
とんでもない!!
自分が生きるためには、善悪など関係ない、
そうした図太さを身につけていく。
そんな彼らはすでにもう「子供」ではありません。


そんな毎日の中で、何故かあの意地悪な祖母に
彼らが親しみを持つようになっていくというところがまた、深いのです。
人からどう思われようと構わない、
利用できるものは利用する。
暴力だってお構いなし。
つまりは双子の生き方の見本がその祖母自身になっていたのです。
子供の人権など毛ほどもなかった時代の事・・・
だからこそ子供は否応なく強く逞しくならねばならなかった。



本作が一人の少年では成り立たない作品であるということが最後にわかってきます。
二人だからこそあの辛い訓練を耐えられたし、
しかし、互いを牽制し合う意味もあって
途中でやめることもできなかった。
そんな二人が最後に決めた行動というのがまた衝撃的なのです。
大人になるための試練。
それが何であるかを彼らが一番良く知っていた・・・。
まるで狐や熊のような森の獣の子供が
親や兄弟たちと別れて自立して生きていくような・・・


なんというか、ひたすら衝撃作でした。
薄っぺらなヒューマニズムなんか吹っ飛んでしまうような。
けれども、やはり人間の生きていこうとする「強さ」を言っているようでもある。
反戦の映画かと思えば、全くそうではなく。
世界は戦争に限らず、自分の命を脅かそうとするものに満ちている。
そんな中で生きていくためには・・・。
ガツンとやられた感じです。

悪童日記 [DVD]
ヤーノシュ・サース,アゴタ・クリストフ,アンドラーシュ・セーケル
アルバトロス


「悪童日記」
2013年/ドイツ・ハンガリー/111分
監督:ヤーノシュ・サース
原作:アゴタ・クリストフ
出演:アンドラーシュ・ジェーマント、ラースロー・ジェーマント、ピロシュカ・モルナール、ウルリッヒ・トムセン、ウルリッヒ・マテス

生きる力度★★★★★
満足度★★★★★