映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「夏の災厄」 篠田節子

2015年04月11日 | 本(その他)
負のメカニズムのリアルさ

夏の災厄 (角川文庫)
篠田 節子
KADOKAWA/角川書店


* * * * * * * * * *

平凡な郊外の町に、災いは舞い降りた。
熱に浮かされ、痙攣を起こしながら倒れる住民が続出、
日本脳炎と診断された。
撲滅されたはずの伝染病がなぜ今頃蔓延するのか?
保健センターの職員による感染防止と原因究明は、
後手にまわる行政の対応や大学病院の圧力に難航。
その間にもウイルスは住人の肉体と精神を蝕み続け―。
20年も前から現代生活の脆さに警鐘を鳴らしていた
戦慄のパンデミック・ミステリ!


* * * * * * * * * *

昨年夏、蚊が媒介するデング熱が日本で発生し、騒ぎになりました。
これまでに聞いたことがないような、日本の夏の災厄。
ところがです、本作1998年の作品なのですが、
同じく蚊が媒介する伝染病のストーリー。
もうすっかり撲滅されたと思っていた伝染病が、
現代社会であるがゆえの巻き返しをして、またおそろしい猛威をふるう。
著者の先見の明に、今さらながら驚かされます。


本作で登場するのは、「日本脳炎」ではあるのですが、
それよりもウイルスがパワーアップした「新型日本脳炎」とでも言うべきもの。
何しろ致死率が異常なほど高く、
かろうじて生命を取り留めても、
厄介な障害が後遺症として残るという超危険な伝染病なのです。


埼玉県の昭川市で発生したこの病に、
市の保健センター職員、小市民的で事なかれ主義の小西
腹の据わった肝っ玉母さん的年配看護師、堂元
窓口業務の、いい加減で女にだらしのない青柳
学生運動の闘士でもある診療所の鵜川医師
等々の登場人物が、悪戦苦闘していきます。
それぞれが個性的なので、面白くて、どんどん読み進んでしまいます。
いえ、実際は面白いというよりも怖いですね。
その怖さというのはもちろんこの病の怖さではありますが、
でもそれは架空のモノ。
もっと怖いのは、どのようにして事実が覆い隠されていくのか、
現場の人たちの本当の思いがどうしてもっと直接的に必要な部署まで届かないのか、
そのような負のメカニズムのリアルさなのであります。
・・・確かに、そうなるかもしれない、と、
ものすごく説得力があります。
現実にそうならばマズいのですが・・・。
だからこそ、怖い。


最近、ワクチンの摂取については、
副作用の危険性があるので極力行わないという考え方が広まっているのですが、
でも一度このような流行があれば、ひとたまりもないわけで、
実際、難しい問題だと思います。


さてさて、またまもなく夏がやって来るのですが、
デング熱は昨年で終了したのでしょうか。
蚊の発生とともに、また新たな災厄の夏とならなければいいのですが・・・。


「夏の災厄」 篠田節子 角川文庫
満足度★★★★☆