映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「ロスト・ケア」 葉真中 顕

2015年04月02日 | 本(ミステリ)
人にしてもらいたいと思うことを、あなたも人にしなさい。

ロスト・ケア (光文社文庫)
葉真中 顕
光文社


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戦後犯罪史に残る凶悪犯に降された死刑判決。
その報を知ったとき、
正義を信じる検察官・大友の耳の奥に響く痛ましい叫び
―悔い改めろ! 
介護現場に溢れる悲鳴、社会システムがもたらす歪み、善悪の意味…。
現代を生きる誰しもが逃れられないテーマに、
圧倒的リアリティと緻密な構成力で迫る!
全選考委員絶賛のもと放たれた、日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


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一人が四十数人を殺害しながらも、
殺人事件として認識されていなかった・・・という
恐るべき犯罪の物語ですが、
これはミステリというよりもむしろ、
老人介護のあらゆる問題点をついた社会派の小説と言ったほうがいいような気がします。


マスコミ等でもいつも問題にされる老人介護問題ですが、
なにが問題なのか、
現実を踏まえてしっかりとした説明を聞いたことがないような・・・。
一番の問題は介護されるべき老人の人口が
恐ろしい勢いで増えているということではありますが・・・、
作中にもありますが、それは始めからわかっていたことなんですよね。
かつては介護は家族がするのが当たり前でしたが、
今や核家族、介護に当たる人は固定化し、重い負担がのしかかる。
しかも医療が進んでいるので
寝付いてからもまた、さらに長く介護の状態は続きます。
お金がある人はいい。
介護施設はピンからキリまでありますが、結局はお金次第。
介護保険は本当に最低限のところしか支えてくれません。


本作の"犯人"は、サイコパスなどでは決してなく、
今の日本の介護保険制度に立ち向かうかのように
要介護度の高い老人たちを手にかけていきます・・・。
それを犯罪者として声高に非難もできないけれど、
かといって、よくやったと称えることもできない。
どうにもモヤモヤとしたやり場のない気持ちを持て余すばかりです・・・。


本作中には、本格ミステリの常套手段であるところのダマシが隠されていますが、
私はその小賢しいダマシがむしろ邪魔に思えてしまいました。
直球の社会派ミステリでも十分行けたのではないかと思います。


私はやはり、ピンピンコロリが理想ですが、
そうでなければガンで死にたいなあ・・・。
長患いせず、結構死の間際まで意識も保って・・・。
しかし思うようにならないのが、世の常ではあります・・・。

「ロスト・ケア」葉真中顕 光文社文庫
満足度★★★★☆