映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

少女ファニーと運命の旅

2020年04月14日 | 映画(さ行)

子どもたちだけの逃避行

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実話に基づく物語です。



ナチスドイツ支配下のフランス。
13歳のユダヤ人少女ファニーは、幼い二人の妹や他のユダヤ人の子どもたちともに
児童施設に匿われていましたが、密告者によりそこにはいられなくなり、
急きょ別の施設に移動します。
そしてそこにも長くはいられず、国境を越えスイスへ逃れることに。
ところが、ドイツ兵の取り締まりの中、引率者ともはぐれてしまい、
子どもたちだけで行動せざるを得なくなります。
自分の妹たちのみならず他の子どもたち数人をも引き連れ、
ファニーはリーダーとしての責任を負うことに・・・。



ナチス支配下のフランスは、警察もナチスに恭順しており、油断なりません。
一般の人たちもそれに同調する者もいるけれど、
反発を覚えユダヤ人に同情的な人もいる、というところで実に混沌としています。
この子どもたちの集団にはファニーの他に年長の者や男子もいたのですが、
彼女らを保護していたマダム・フォーマンは
ファニーを見込んでリーダー役を命じます。

それにしても、学級委員とは訳がちがう。
まさに命がけの逃避行で、ずっしりとファニーに責任がのしかかります。
けれど、「つらいときはつらい顔をしてはダメ」というフォーマンの言葉を胸に
目的を果たそうとするファニー。



時には子どもらしく、無邪気なシーンもありながら、
知恵と勇気で運命にあらがおうとする少女を、ハラハラしながら見守る私でした。
こうしたテーマは実に胸に迫ります。
彼女たちに対峙する人々を見ればその人の人間性がよくわかりますね。

<Amazonプライムビデオにて>
「少女ファニーと運命の旅」
2016年/フランス・ベルギー/96分
監督:ローラ・ベン=アミ
出演:レオニー・スーショー、ファンティーヌ・アルドゥアン、
   ジュリアーヌ・ルプロー、セシル・ドゥ・フランス

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


小さな恋のうた

2020年04月12日 | 映画(さ行)

米軍基地のある町で

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沖縄出身バンドMONGOL800の人気楽曲「小さな恋のうた」をモチーフとした青春ドラマ。
・・・と言っても例によってオバサンはそのグループも曲もわからないのでした・・・。
でもまあ、知らないからといって別に差し障りはなく、
気を取り直していきましょう・・・!!



米軍基地のある沖縄の小さな町。
ある高校生バンドが人気を集めていました。

ところが、東京のレーベルにスカウトされ、プロデビューが決まった矢先、ある悲劇が・・・!!
冒頭部分、なかなかトリッキーな描写で、驚かされます。
まあ、それほどにショッキングな出来事。
喪失感がひしひしと伝わり、実に泣かされます・・・。

本作の舞台が米軍基地問題に揺れる沖縄の町、
というところが大きなテーマでもあります。

バンドの面々と米兵家族の少女との交流が描かれるのですが、
町の人々は基地に反対、米軍を目の敵にしています。
そうした軋轢の中、心を通わせる若い彼ら。
切ない現実です。
こうした社会問題を絡めたところが通常の青春音楽物とは一線を画している。
嫌いじゃないです。

森永悠希さん、好きだわあ・・・。

<WOWOW視聴にて>
「小さな恋のうた」
2019年/日本/123分
監督:橋本光二郎
脚本:平田研也
出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、トミコクレア、世良公則

音楽性★★★.5
喪失度★★★★★
満足度★★★★☆

 


「姉・米原万里」井上ユリ

2020年04月11日 | 本(エッセイ)

なんてユニークな姉妹

 

 

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アレルギーを起こすほど卵好き、お便所に三回落ちたなど、
「トットちゃんより変わっていた」伝説のロシア語会議通訳、米原万里。
プラハでの少女時代を共に過ごした三歳年下の妹が、
名エッセイの舞台裏やさまざまな武勇伝の真相を明かす。
「旅行者の朝食」「ハルヴァ」など食をめぐる美味しい話と秘蔵写真満載!

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先日米原万里さんの本を読んで、無性に関連本が読みたくなりました。
札幌市の図書館の予約貸し出しシステムが、コロナ拡大に伴う北海道の緊急事態宣言以来
ずっとストップしていたのですが、ようやく再開したので、まずは本作から。

米原万里さんの妹・井上ユリさんが亡きお姉さんについて描いた本です。
単行本では副題に「思い出は食欲とともに」とあるように、姉妹そろって食いしん坊。
いやいや、米原万里さんも大変ユニークな方ですが、
こちらの井上ユリさんがまた、負けずにユニーク。
井上ユリさんは、小説家井上ひさしさんのご夫人。
小学校時代のほとんどをお姉さんとともにプラハのソビエト学校で過ごしています。
そしてその後のことは私も知らなかったのですが、なんと北海道大学卒業。
そして高校の理科の講師となる。
ところがそこから大きく方針を変えて、なんと料理の修行を始めます。
辻調理師学校で学んだ後、ベニスなど北イタリアのレストランで研修を受け、
帰国後は自宅でイタリア料理教室を開いて今に至る。
・・・食いしん坊が高じて料理家になる。
納得すぎるくらいですが、わざわざ北大を出た後に、というのがやはり凄い。
かように、自分のやりたいことに正直で自由な姉妹というわけです。

米原万里さんのことは彼女の様々なエッセイで読んではいたのですが、
本作、その裏話的なことも書いてあって、実に楽しい。
「トットちゃんより変わった子」だったという米原万里さんの真実をのぞき見るようでした。
この伸びやかさは、また、ご両親の養育方針のたまものでもあると思います。
特に、共産党のお父様が魅力的で、姉妹がいかにもお父さんを大好きなのもいいなあ・・・。
米原万里さんファンの方なら必読の書です。
そして、きっと井上ユリさんのファンにもなってしまいます。


図書館蔵書にて(単行本)
「姉・米原万里」井上ユリ 文藝春秋
満足度★★★★☆


グッバイ・クリストファー・ロビン

2020年04月10日 | 映画(か行)

「くまのプーさん」誕生秘話

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「くまのプーさん」誕生秘話ということで、実話を元にしています。



作家アラン・ミルン(ドーナル・グリーソン)は、第一次世界大戦の激戦地から辛くも無事帰還。
しかし、PTSDが彼を苦しめています。
そんななか、妻ダフネ(マーゴット・ロビー)との間に息子が誕生。
クリストファー・ロビンと命名します。
アランは静養のためロンドンから田舎町へ移住。
しばらくしても一向に何も書こうとしない夫に愛想を尽かし、妻は家出。
そしてちょうどそのとき、クリストファーがとても慕っているナニー(ケリー・マグドナルド)が
家庭の事情で休暇を取ってしまいます。
残されたのは父と幼い息子、二人きり。
普段まともに口をきいたこともなかったのですが・・・。
しかしアランは美しい森を息子と散歩することで、心が癒やされていくことに気づきます。
豊かな感性で毎日を豊かに過ごす息子を見るうちに、アランは思いつくのです。
ぬいぐるみを使って作り出したキャラクターを元にした物語を・・・。
そして「くまのプーさん」が発表されることになります。



ここまでなら、まさに物語の誕生秘話。
しかしストーリーは非常にシビアな方向に進んでいきます。
物語に登場する男の子を息子と同じ名前にしてしまったのが失敗でした。
「くまのプーさん」は大人気となり、
瞬く間にクリストファー・ロビンは有名人となってマスコミに引っ張り出されます。
忙しすぎて森で遊ぶ時間もないほど・・・。
そして世間では大人気でも、同じ子ども同士では・・・。
思いがけずつらい話になっていきます。

 

元々戦争で傷ついたアランの心を癒やすために作られたストーリーであったのに、
再び戦争が起こり、皮肉にもこのストーリーのために
またクリストファーが戦争に引き込まれてゆく・・・。

奥深い物語でした。
現実は決して夢だけに彩られるものではない・・・と。

<WOWOW視聴にて>
「グッバイ・クリストファー・ロビン」
2017年/イギリス/107分
監督:サイモン・カーティス
出演:ドーナル・グリーソン、マーゴット・ロビー、ケリー・マグドナルド、
   ウィル・ティルストン・アレックス・ロウザー

歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆


居酒屋ゆうれい

2020年04月09日 | 西島秀俊

約束を破られたので、出てきたゆうれい・・・

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本作は西島秀俊さん出演作なので、ぴょこぴょこコンビでお送りしま~す。
えーと、ほら、西島秀俊さん作品を集中してみていた時期があったでしょう。
2014年ころだね。
そのときに西島秀俊さん映画初出演のこの作品も見たかったのだけれど、
 TSUTAYAのレンタルでも見当たらなかったんだよね。
 それがこの度WOWOWで、萩原健一さんの特集の一つとして放映されたので、
 チャンス!!でした。

 

ストーリーは、居酒屋かづさ屋の主人・壮太郎(萩原健一)が妻・しず子(室井滋)を病で亡くします。
 その死の間際、しず子が死んでも決して再婚しないと壮太郎は約束したのです。
 もし約束を破ったら、きっとあの世から舞い戻って出てくると、しず子は言い残す。
 さてそのしず子の死後、壮太郎は兄夫婦に強引にお見合いをさせられます。
 ところが思いのほかその相手・里子(山口智子)を気に入ってしまい、再婚。
 すると、本当に出てきたのです。
 しず子が幽霊となって・・・。

 

と言うところで、これは怪談かと思えばコメディーなんだね。
そうだね、さほど怖さを強調はしていない。
 それでも初めのうち壮太郎と里子は恐怖に震えるのですが、
 しず子があまりにもあけすけに話しかけるし、頻繁に出没するものだから
 次第になじんできてしまう。
幽霊のしず子は恨みを晴らすとか、たたるとか、そういう発想はないのね。
そう、実にあっけらかんとしています。
 本来敵同士のはずの里子とも何やら親しんでしまう。
で、そういう事件と同時進行で、
 ここの居酒屋を訪れる人々の人間模様をも描き出しているわけ。
 常連さんの、博打好きが原因で奥さんに逃げられた男とか、
 家出をしてきた男性とか・・・。
それが、店主のお人柄からか、なんとなく問題が良い方に動いていくというのは、
 「深夜食堂」的でもあるね。
 で、西島秀俊さんは・・・。


1994年作品ですよ! わ~、若いっ!!
 酒屋の息子で、軽―いお兄ちゃんです。
 さすがに近年こんな役はないよなあ。
 こういう若いときならではの役の西島秀俊さんが見られて、なんともシアワセ
もちろん本作のショーケン、萩原健一さんも懐かしく、ステキです。
 なんて言うんだろ、軽すぎず、重すぎず、飄々としているようで、でも愛嬌もある。
 これも彼でしか出せない持ち味ではありました!

それとこの作品、登場人物がやけに豪華なんだよねえ。
これまであげたほかに、三宅裕司さん、橋爪功さん、豊川悦司さん、
 余貴美子さん、尾藤イサオさん、角替和枝さん・・・、
 今、重鎮として活躍されている方ばかり。
だから今見てもなかなか見応えのある作品でした~。

<WOWOW視聴にて>
「居酒屋ゆうれい」
1994年/日本/110分
監督:渡邊孝好
原作:山本昌代
出演:萩原健一、山口智子、室井滋、三宅裕司、西島秀俊

西島秀俊の魅力度★★★★☆
人情度★★★★☆
満足度★★★★☆


坂道のアポロン

2020年04月08日 | 映画(さ行)

ジャズと青春と

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中川大志さんが見たくてミーハー視聴。
あれ、本作は知念侑李さんメインのアイドル作品だったのかな? 
すいません、オバサンは知念侑李さんをよく知らない・・・。
と、思ったら、写真が出てこない、ジャニーズだったですか💦

えーと気を取り直して、本作は小玉マキさんによる同名漫画の実写映画化。


転校先の高校で薫(知念侑李)は、誰もが恐れる不良の千太郎(中川大志)と出会います。
ジャズのドラムをたたく千太郎と幼い頃からピアノを弾いていた薫は音楽でつながり、
千太郎の幼なじみの律子(小松菜奈)を交えた3人で過ごすことが多くなります。
薫は律子に恋心を抱いていきますが、律子は千太郎に惹かれていることに気づきます。
微妙に思いが交差していく3人。
しかしある出来事があり、千太郎は二人の前から突然姿を消してしまい・・・。

薫も千太郎も人にはなじみにくい性格。
けれどもそんな孤独な心が呼び合うかのように、
反発しながらも心を通わせるようになっていく。
気持ちの良い友情の物語です。
こういうところに女が入るとうまくはいかないのが常ではありますが、
でも微妙に成り立っていた3人の友人関係がキラキラとまぶしく描かれています。



中川大志さん演じる千太郎は茶髪でヤンチャ。
ちょっと今まで私が見ていた雰囲気とは全然違うのですが、こういうのもいいなあ・・・。
バイオリンもいいけどドラムはもっといいですね!!
薫は人の心に敏感で、誰が誰のことを好きかなんていうのはすぐにピンときてしまう。
しかるに、千太郎は超鈍感なのですよ・・・。
だからこそ面倒なことが起きてしまうのですが。
しかしこんな鈍感・がさつ男にも実はつらい過去があって・・・。
こうした人物造形がなかなかよくできていて魅力的。
正直やっぱり本作は中川大志さんメインだと思う・・・。

出会い。
ジャズに向けた情熱。
淡い恋。
涙。
そして決別・・・。
青春だなあ・・・!!
ありきたりだけれどやっぱり嫌いじゃないです。

<Amazonプライムビデオにて>
「坂道のアポロン」
2018年/日本/120分
監督:三木孝浩
原作:小玉ユキ
出演:知念侑李、中川大志、小松菜奈、ディーン・フジオカ、中村梅雀

青春度★★★★★
中川大志さんの魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


「残り者」朝井まかて

2020年04月06日 | 本(その他)

プロフェッショナルの矜持

 

 

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時代は幕末、徳川家に江戸城の明け渡しが命じられる。
官軍の襲来を恐れ、女中たちが我先にと脱出を試みるなか、
大奥にとどまった「残り者」がいた。
彼女らはなにを目論んでいるのか。
それぞれ胸のうちを明かした五人が起こした思いがけない行動とは―。
激動の世を生きぬいた女たちの矜持が胸を打つ傑作時代小説。

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時は幕末。
江戸城が官軍に明け渡される前夜の出来事を描きます。
それも、大奥で務めていた5人の女たちの物語。


大奥と言えば将軍の正室と側室のドロドロの抗争劇・・・などを連想してしまいますが、
実のところ大奥にいたのはその下で働く多くの女たち。
例えば本作で登場するのは
呉服之間で着物を仕立てる「りつ」と「もみぢ」。
御前所で調理をする「お蛸」。
御三之間の女中役をする「ちか」。
御中臈として大奥を取り仕切る「ふき」。
他にも実に様々な仕事・役割を受け持つ者たちがいるのです。
しかも代々の将軍の奥方ごとに・・・。
ここでは天璋院(篤姫)に仕える者と、静寛院(和宮)に仕える者たちとなっています。


彼女らは、江戸城を明け渡すに当たり、早々に官軍が乗り込んでくる恐れがあるため
一刻も早くこの場から逃れるようにと言い渡されていたのですが、
なぜか居残ってしまっていたのです。
これまで多少顔を見たことがあるくらいで、互いに話をしたこともない間柄ながら、
図らずも、ともに一夜を明かすことになってしまい、
それぞれここに居残ってしまった胸の内などを打ち明け始めます。


結局ここにいるのは、女でありながら自立したそれぞれのプロフェッショナル。
当時の社会では女として特異な立場にある訳なのです。
なるほど・・・こうした視点はいままでになかった気がする。
女にも意地と誇りはある!! 
多くはここで仕事に就きながら、一生をここで過ごす覚悟のあった者たちなんですね。
江戸時代でありつつ、自立した女性を描く、実にユニークなストーリーなのでした。
最後に、その後の彼女たちの生き方も描かれていたのも嬉しい。
朝井まかてさんの著作2連続でしたが、こちらの方が断然好きです。


「残り者」朝井まかて 双葉文庫
満足度★★★★☆

 


ソローキンの見た桜

2020年04月05日 | 映画(さ行)

“今”につながる心と心

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駆け出しのテレビディレクターの桜子(阿部純子)は、
松山のロシア兵墓地関係の取材でロシアへ行くことになっていたのですが、
興味を持てずにいました。
そんな彼女が、当時の出来事と自らの身の上に関連があると知り、
前向きに歴史を追い始めます。



松山に日本初のロシア兵捕虜収容所ができたのが1904年。
日本は世界から一流国として認められようとして、ハーグ条約遵守を意識し、
日露戦争におけるロシア兵捕虜をかなり優遇しました。
ロシア兵は自由に外出ができ、温泉や観劇、遊郭などにも出入りできたのです。
もしかすると貧しい農村の出の兵士ならば、本国の生活よりも豊かな生活だったかも・・・。
そんな中、看護師として働くゆい(阿部純子・二役)は、
戦争で弟を亡くしており、ロシア兵に対しては複雑な思いを抱いていました。

そんな思いを知るロシア軍少尉ソローキン(ロデオン・ガリュチェンコ)とゆいは、
次第に心惹かれていきます。
しかしゆいには親から結婚を決められた相手がいて・・・。

松山には今も、当時捕虜となりながらついにそのまま亡くなった兵たちの墓があって、
地元の人々に大切に守られているのだとか。
日本の若者も見知らぬ国で命を落とした者もいるわけで、
そうしたことを思えば、たとえ敵国の兵士であっても、
その望郷の念や無念さは人々に厳かな思いを呼び起こすものなのでしょう。

そして又ここに描かれるソローキンとゆい。
100年以上昔の美しくもはかない愛が、桜の花とともに描き出されます。
そうした事実を現代の桜子が探り当てる。
なんともロマンティック!!
そして本作はちょうどそのとき、ロシアが帝政から革命へ突き進んでいくそのさなか、
というのがポイントでもあります。
歴史の大きなうねり。
しかしそのような危ういときだからこそ二人は巡り会えたわけです。
時代を超えても、遠い地を隔てても、人を愛する心は変わらないものですね。

<WOWOW視聴にて>
「ソローキンの見た桜」
2019年/日本/111分
監督:井上雅貴
原作:田中和彦
出演:阿部純子、ロデオン・ガリュチェンコ、山本陽子、イッセー尾形、斎藤工

歴史発掘度★★★★☆
ロマンス度★★★★★
満足度★★★★.5

 


きみの鳥はうたえる

2020年04月04日 | 映画(か行)

早朝の函館の空気感がよく似合う

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佐藤泰志さん原作の映画作品はほとんど見ているつもりだったのですが、
これは見逃してしまっていました。
原作では東京が舞台なのだそうですが、本作では函館に舞台を移しています。
佐藤泰志さんと来れば、やはり函館でなくては・・・!

函館郊外の書店で働く“僕”(柄本佑)は、失業中の友人・静雄(染谷将太)と同居しています。
“僕”は職場の同僚・佐知子(石橋静河)と恋仲になり、
それから3人は夜通しつるんでお酒を飲み、踊り、笑い合うことが多くなっていきます。
一見ただの気の合う友人関係。
けれども、いつしか静雄と佐知子の心も接近していき、
何か微妙なバランスの上に立つ関係となっていきます・・・。

名前の出てこない“僕”は、平気で仕事をさぼり、
店長と関係のある佐知子ともごく気安く付き合い始めます。
一見軽くていい加減でテキトー。
でもつまりこれは実のところ本来のナイーブさを包み隠す殻でもあるようです。
そして又時には暴力性を爆発させたりもする。
本心がわからなくて、ちょっと付き合うにはやっかいなタイプかも。
そんな役柄に、柄本佑さんがまた、ピッタシハマってはおりますが・・・、
やっぱり私は「尾高さん」の柄本さんがいいわ~♡

一方、石橋静河さん演じる佐知子が魅力的。
これ、下手をすると男から男を気ままに渡り歩く尻軽女になってしまいそうですが、そうではない。
しっかりと自分を持って、誰にもこびずに、自分なりの「愛」がある感じ。
これはいい。

夜明けまで遊び歩いて、始発電車の走り始める函館の閑散とした町をよろよろと歩く若者たち。
将来は見えない。
自分の心も人の心も見えない、あえて見ない。
友人たちと遊び歩くことで孤独をなんとか紛らわそうとする・・・
こんな閉塞感でいっぱいなのが、やっぱり佐藤泰志さんワールド!



最後のシーンで佐知子は“僕”に向かって何を言いたかったのか。
いろいろ考えてしまいますね。


ところで本作中の柄本佑さんは松山ケンイチさんの雰囲気にも少し似ていて、
そうすると“僕”と静雄の同居というのはつまり、「聖おにいさん」のキリストと仏陀だ!! 
なはは、それも悪くない。
おにいさんたちが「なんでやきとりなのに豚なんだ」とか言いながら
ハセガワストアのやきとり弁当を食べるシーンなんて想像してしまい・・・
いいわあ~。

<WOWOW視聴にて>
「きみの鳥はうたえる」
監督・脚本:三宅唱
原作:佐藤泰志
出演:柄本佑、石橋静河、染谷将太、萩原聖人

函館密着度★★★★★
閉塞感★★★★☆
満足度★★★★☆

 


フォトグラフ あなたが私を見つけた日

2020年04月03日 | 映画(は行)

リアルな今のインド

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インドが舞台の物語ではありますが、歌も踊りもなし。
けれど、今のインド社会のリアルを見るような気がしました。


ラフィは、ムンバイの路上で観光客相手に記念写真を撮って稼いでいます。
故郷にいて彼の両親代わりに彼を育ててくれた祖母が、
ラフィに早く所帯を持てと責め立てます。
辟易したラフィは、客として出会った娘・ミローニに、
婚約者として祖母と会ってほしいと頼むのです。
すると早速祖母がやってきて・・・。

 

貧しい農村で育ったラフィ。
都会に出てきた今も、住まいは仲間と雑魚寝の部屋で暮らしています。
一方ミローニは都会で生まれ育ち、成績優秀。
今は会計士になるための勉強をしています。
住む世界の異なる二人ですが、次第に二人の絆は深まっていく・・・。

 

私が感じ入ったは、このミローニの心境。
彼女は進路を両親にほとんど決められて、言われるままに学んでいます。
本当は何をしたいのか、自分でもよくわかっていない。
家は特別裕福と言うほどでもなく、まあ、中流家庭というところでしょう。
それでもやはり都会育ちなので、
ラフィやおばあさんに付き合って屋台で売っているアイスを食べるとお腹を壊してしまう。
家では食事もフォークやスプーンを使います。
ラフィたちは家で手で食べているのですが。
おばあさんはいかにも田舎のおばあちゃんそのもので、
言うことはずけずけと厚かましく、価値観も古すぎ。
・・・けれどもミローネは思うのですね。
自分はインド人として生まれ育ったけれども、本当のインドを知らないのではないか・・・。
古来からのインドの文化を失った都会で、自分は一体何者なのか。
しかしまた、生活様式が欧米化はしても、やはり自分は古い価値観の中で、
親の言うことに従って就職し、結婚し子を産むのか・・・? 
自らの寄るべきところを考えてしまう・・・。
そんな風に揺れ動くインドの若い人々の気持ちを綴ったように思います。


インド作品の主人公は饒舌な人が多いけれど、
ここに登場するラフィもミローニも実に言葉少な。
日本人としては、こちらの方がなじみます。

まあ、そんなわけで本作の終わり方も明確なハッピーエンドとはなっていなくて、
これもインドが舞台の作品としては破格。
いずれにしてもこの先ミローニは、しっかりと自分の足で歩み始めるのではないかな?
と思います。

<Amazonプライムビデオにて>
「フォトグラフ あなたが私を見つけた日」
2019年/ドイツ・インド・アメリカ/108分
監督・脚本:リテーシュ・バトラ
出演:ナワーズッディーン・シッディーキー、サニヤー・マルホートラ、
           ファルーク・ジャファル、ギータンジャリ・クルカルニ

インドの“”度★★★★☆
満足度★★★.5

 


「銀の猫」朝井まかて

2020年04月02日 | 本(その他)

江戸のお仕事小説

 

 

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嫁ぎ先を離縁され、「介抱人」として稼ぐお咲。
百人百様のしたたかな年寄りたちに日々、人生の多くを教えられる。
一方、妾奉公を繰り返し身勝手に生きてきた自分の母親を許すことが出来ない。
そんな時「誰もが楽になれる介抱指南書」作りに協力を求められ
―長寿の町・江戸に生きる人間を描ききる傑作小説。

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時代物、お仕事小説。
ここでユニークなのは、主人公お咲の仕事というのが「介抱人」。
今で言えば「介護士」というところで、今必要不可欠な職業ではありますが、
江戸時代でこれはなかったでしょうね、多分。
そこを著者はあえて「女中」業の特殊部門的に、
体の動かなくなった病人や老人の「介抱」の
手助けをする仕事を考え出したわけです。
江戸時代を舞台としながら現代にも通じる介護問題を考えてもいるわけです。


でもまあ、当時は点滴も胃瘻もないわけですから、
食べ物を食べられなくなればあとは自然に衰えて、衰弱死・・・。
そう長い期間の療養はなかっただろうと推測します。
けれども、寝たきりの人がないわけではありませんよね。
それと、庶民はどうかわかりませんが、
武家では儒教の教えである「親孝行」が重んじられたので、
一家の当主、つまり男性が親の介護をするのが通例であったとのこと。
表向きはそうであっても、実際には下働きの者が働いていたのかもしれませんけれど。


まあ、そういうことだけならば単なるお仕事小説。
本作ではお咲が自身の母親とどうにもソリが合わず、憎んでさえいるというところから、
いろいろな人との出会いや出来事を通して次第に変容していくところが表されていて、
なかなか読み応えがありました。

けれどやはり、現代的テーマを意識しすぎた嫌いがあるのかな・・・と。

「銀の猫」朝井まかて 文春文庫
満足度★★★.5