萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

secret talk19 酔月閑話―dead of night

2014-04-08 09:15:02 | dead of night 陽はまた昇る
某日、非常口にて
七機非常口@11月上旬「side story」第74-75話の幕間



secret talk19 酔月閑話―dead of night

かつん、

プルリングひいてアルコール香る。
蛍光灯そっけない仄暗さに啜りこんで、ほろ苦い冷たさ喉を弾く。
苦いけれど芳ばしい、そんな味を旨いと思えるようになった年齢と今この場所に意外になる。

警察官であることも、苦い味を好きになることも、いつの間に当り前になったのだろう?

―ビールは二十歳だけど、この俺が警察官で山をやるなんてな?

第七機動隊舎付属寮の非常階段、その頂から眺める街はるかな稜線が懐かしい。
こんなふう懐かしいと思ってしまう自分も当たり前になった、こんな当り前が可笑しくなる。
いわゆる高級住宅街に閉じこめられるよう育てられて、それなのに山を駆ける警察官の日々が日常になった。

―母さんにとったら皮肉な結果だな?

可笑しくて独り微笑んで缶ビール口つける。
座りこんだベンチに風はゆるく涼しくて、もう寒いような空気に秋が深い。
ここでビール飲むのも何度めだろう?そんな思案に扉がたり開いて常連仲間が笑った。

「宮田いたのか、」

低く響く声笑って隣に腰下す。
その大きな手も缶ビールひとつ提げている、そんな先輩に英二は笑った。

「山の後って呑みたいんです、黒木さんもですか?」
「ああ、」

頷いて、かつん金属音かるく弾ける。
ふわり隣からもアルコールほろ苦く香って、こくり一口呑みこみ尋ねてくれた。

「吸うか?」
「はい、」

素直に笑った隣、シャツの胸ポケットから箱出してくれる。
とん、手慣れた指は角叩いてタバコ一本ライターと渡してくれた。

「ほら、」
「ありがとうございます、」

受けとって咥え火を点ける。
ふっと苦い芳香すべりこんで息を吐く、その火口が薄闇に朱い。
ここに来るとつい吸いたくなる、そんな癖がつきそうで困りながら英二は笑った。

「黒木さんとここに座ると俺、吸う癖がつきそうです、」
「あ、一度は止めたんだったな?」

いまさら気がついた、そんな目がこちら見てすこし笑ってくれる。
浅黒い端正な貌は寡黙で、けれど笑うと優しさ香るよう深く温かい。

―ほんと黒木さんってカッコいいと思うんけどな、三十歳で恋人いないって不思議だ?

だけど黒木は相変わらず浮いた話ひとつない。
やはり不器用なタイプなのだろう?そう推測と眺めた先から訊かれた。

「国村さんは呑まないのか?」
「酒なら大好きですよ、」

ありのまま答えながら少し可笑しくなる。
黒木から光一のことを訊くなんて初めてかもしれない?

―今日の訓練で驚いたのかな、光一のクライミング凄くて、

今日、奥多摩で現場訓練を行った。
小隊長の光一を黒木はサポートして、そのとき起きた事を尋ねてみた。

「黒木さん、国村さんと訓練組んだのは今日が初めてですか?」

尋ねた先、精悍な瞳かすかに揺ぎだす。
こんな反応どこかで見た?その思案しかけたまま黒木は頷いた。

「ああ、今日が初めてだが、」
「俺が異動する前は無かったんですか?」

なにげなく問いかけて、けれど隣かすかに空気が変わる。
なにか失礼な事でも言ったろうか?そんな心配すこし見た先で端正な口許がため息吐いた。

「宮田は平気なのか?」
「はい?」

返事つい訊き返すようになってしまう。
何が「平気なのか?」なのだろう、そう問いかける機先を低い声が言った。

「男だけの世界に籠ってたらダメだな、でも今さら合コンとか無いか…三十だし、」

こんな台詞いま誰が誰のことを言ってるんだろう?

「…は?」

寡黙、堅物、真面目すぎて息詰まる、無言の圧力が怖い、でも面倒見が良い頼れる男

こんな言葉たちを異動から2ヶ月いろんな同僚から何度も聞いている。
とにかく真面目で業務も訓練も卒なく的確にこなす、硬すぎるけれど統率力もある。
誰もが一目置いてしまう、そんな男が「今さら合コンとか無いか」なんて言うのだろうか?

―俺の聴き間違いかな?だったら何を言ったんだろ、

解らないまま缶ビール啜りこんで煙草に口つける。
ふっと紫煙くゆらせながら先輩の言葉に思案して、冗談ひとつ試しに笑った。

「国村さんが女だったらタイプでした?」

空気一瞬で凍りつく、なんて零度下回らなくてもあるんだな?

「…、」

そんな実感させられるベンチの隣、精悍な瞳が凍結している。
いつも通りに冷静沈着な横顔は端正で、けれど眼差し固まって動かない。
こんな異様な態度に今までの言動が納得できるようで、そのまま笑いかけた。

「俺の同期でもいるんですよね、国村さん美人だって言うヤツ。俺も思います、」

笑って冗談のトーンにしながら本当のことを言ってみる。
そんな空気に隣から溜息こぼれて、紫煙の香ごと低い声が言った。

「ファンが多そうだな、」
「そうですね、あの貌であの性格は面白いですから。仕事も山も凄いですし、」

思ったまま答えて笑った先、ゆっくりこちら向いてくれる。
いつも精悍な瞳どこか困ったよう微笑んで、溜息ひとつ訊いてくれた。

「いつも宮田は国村さんと組んでるだろ、搬送訓練とかビバーク平気なのか?」

そういう「平気なのか」なんだ、やっぱり?

こんな質問に純情の不器用がまぶしくなる。
こんなこと自分に聴いた人間は初めてだろう、それが愉快で笑った。

「平気じゃなかったらパートナー続けていません、何が心配で平気か訊くんですか?」

ちょっとだけ虐めてみようかな?
そんな質問に精悍な瞳すぐ困り始めて、それでも答えた。

「国村さん割と気難しいだろ?」
「はい、確かに気難しいところありますね、」

素直に応えながらも可笑しくて笑いたい。
本当は「気難しい」ことが問題じゃないだろう?それでも言えない男は別角度から訊いてきた。

「宮田は恋人いるんだろ、どうやって出逢ったんだ?」

さあ、この質問なんて応えよう?





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雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚56

2014-04-08 01:37:01 | 雑談寓話
こんばんわ、
昨日は雪@三頭山だったんですけど、そのためか今カナリ眠いです、
で、この雑談もバナー押して下さる方いらっしゃるので続きまた載せます。楽しんでもらえたら嬉しいです、笑



雑談寓話:或るフィクション×ノンフィクション@御曹司譚56

12月24日は休日だった、

で、実家にケーキ買ってく約束してたから午前中やることやって昼に帰って、
イヴだしイイだろってことでスパークリングワイン昼から開けて、親子で乾杯した。

「今年もクリスマスカード届いたよ、ほら、」
「シンプルで綺麗なデザインだね、このひと毎年趣味イイけどドコの国だっけ?」
「カナダだよ、秋の紅葉がすごくきれいな街なんだ、君にも落葉をお土産にしたことあったろう?」
「うん、覚えてるよ?メイプルの木だって教えてくれたヤツだよね、笑」
「あのとき買って来てくれたメイプルシロップ美味しかったわー笑」

なんて呑気な会話で食事して、母がケーキを切って紅茶を淹れてくれた。
クリスマスケーキは父チョコor母は生クリームが好きだから毎年ちょっと困るんだけど、
確かこのときはチョコレートで良いの見つけてソレにして、父はもちろん母も喜んでくれた。

「こういうチョコのならお母さんも好きだわー」
「チョコも美味しいだろう?僕はチョコケーキかアップルパイだなあ、やっぱり、」
「それってナンカ想い出があるとかそういう系?ドイツとか、笑」
「ザッハトルテは貧乏学生には高嶺の花だったよ、リンゴの菓子なら食べられたけどね、笑」

甘いもの話ってナンカ平和で良い、笑
こんなカンジで呑気な団欒を楽しんで父が訊いてきた。

「夕食しないで帰るって言ってたけど、このあと誰かと約束なのかい?イヴだし、笑」

まあ普通そこ訊くよね?笑

いわゆるお年頃な子供がいたら普通の質問、
でも別のコトも気にしてるんだろなって思った、月初めに来た時ちょっと話してるから、笑
あんなネタ話されたら気にしない訳にもいかないだろうな?そんなこと納得しながら正直に答えた。

「六浦に行ってくる、」

答えた地名に母がこっち見て、父を見た。
たぶん母には解るんだろうな?そう思った通りに母は言ってくれた。

「あなたの気持ち、お母さん解らなくないけど。でもどうして今日行くの?」
「今日だから行きたいんだよ、笑」

笑って答えながら紅茶飲んで、
まだ訊きたそうな母と黙っているけれど聴きたがっている父を見て、本音を笑った。

「昔は今日か明日は恒例だったなって懐かしくなってさ、久しぶりに同じことしたいだけだよ、笑」

昔と同じことしたいだけ、それだけ。
そう笑った向こうから父が仕方ないなって貌で笑ってくれた、

「僕は君のこと信じてるよ?君はちゃんと天寿を全うする生き方を選べる、そういうふうにお母さんと僕が育てたからね、」

地名しか言っていない、でも両親の言葉たちは理解してくれている。
詳しいこと何も言わないで、それでも解かってくれるのは二人も同じ想い抱いてるんだなって思った。
だからこそ心配もしてくれている、その心配から杞憂の部分は払いたくて予定の後半を言ってみた、笑

「ありがとう、大丈夫だよ。夕飯は御曹司クンと約束してるしさ、笑」
「あら、」

ちょっと意外、そんな貌からすぐ母は笑って言った。

「このあいだ告白してくれた彼でしょ、イヴのお夕飯を一緒するなんてお母さんちょっと心配なんだけど?」

ちょっと事情説明してもらえるわよね?
そんなカンジに目でも要請してくれるから正直に答えた、

「大丈夫だよ、こっちに気が無いの解かっている上での誘いだし、想い通りにならない相手だって思われてるから、笑」
「それなら良いけれど、あまり期待もたせるようなコト気を付けなさいよ?恋は人を狂わすっても言うもの、」

心配してくれながら釘刺してくれる、こういう心配は当然だろなって思った、
で、父は考えながら笑って言ってくれた、

「君は約束は必ず守るからね、彼との約束は保険のようなものでもあると僕は思っておくよ?でも彼とも良い時間を過ごしてほしいよ、人間同士のね、」

確かに保険のようなものかもしれない、今日に限っては。
そんなこと納得しながら両親とイヴの午後を過ごして、また年末に帰ってくる約束して実家を出た。
最寄駅ですこし待って電車に乗って、片耳だけイヤホンして音楽聴きながら文庫本を読んでさ、

クリスマスっぽい人ばかりだなー

とか車内を見ながらの車窓もイルミネーションが目立っていた。
まだ16時前、それでも暮れてゆく冬の空は夜の気配もう始まっていて、
これだと目的地は夜になってるだろな思っていたら携帯電話が振動した、

From:御曹司クン
本文:道路が空いてたから速く着きそう、このままだと横浜駅16時半。
    約束18時半だから時間調整して行くよ、これで遅刻の心配無しです(顔文字笑顔)  

こっちも「このままだと」16時半前には横浜駅に着く、
そんな計算に少しの予定変更を考え始めた、

予定より速く着くこともそうしろって事なのかな?

そう考えながら乗継駅で降りて、
接続線に乗り換えてからも考えて、それから返信した。

Re :16時半なら横浜駅にいるよ、用事1件つきあってくれるなら待合せ時刻の前倒しアリだけど?




とりあえずココで一旦切りますけどまだ続きます、
おもしろかったらコメントorバナー押すなど頂けたら嬉しいです、気が向いたら続篇載せます、笑
Aesculapius「Mouseion19」加筆ほぼ終わりました、読み直し校正またします。
朝になったら100万PVのリクエストを掲載する予定です、
で、小説ほか面白かったらバナーorコメントで急かして下さい、笑

深夜に取り急ぎ、



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