Thanks to its tenderness, its joys, and fears 感情の層

第75話 懐古act.3―another,side story「陽はまた昇る」
白い、この視野は何だろう?
解らなくて瞳ゆっくり瞬かす、そして理解する。
いま見あげているのは天井だ、そう認識した全身やわらかに温かい。
その温もりに首すこし動かして白いシーツとブランケットが映る、それから着衣が青い。
「…え、」
いま11月の制服は白と紺、だから青い服の筈がない。
それが不思議で瞳また瞬いた着衣は3月の記憶、英二の看病で見た。
これは、病院で着せられる服だ?
―僕なんで病院にいるの?どうして、
途惑いに身を起こそうとして胸ぐっと迫り上げる。
喉ふるえる感覚こみあげて咳こんで、その向こう扉がらり開いた。
「湯原、大丈夫か?」
呼んでくれる低い声に記憶が戻される。
なぜ今ここに自分が居るのか?思い出すまま咳も鎮って周太は微笑んだ。
「大丈夫です。伊達さん、ご迷惑をすみません、」
「いや、構わない、」
答えながらベッドサイドに来てくれる。
その手に携えたスーツ一式を示しながら先輩は告げた。
「湯原の制服は今クリーニングに出されている、明日の午後には戻ってくるはずだ。今日は落着いたら帰宅して良いと言われているが、調子はどうだ?」
なぜクリーニングに制服が出されているのか?
その理由が現実なのだと改めて解かって、そして鼓動が揺すぶられる。
―血塗れだからクリーニングされてる、僕の制服は…あれは現実なんだ、ね、
銃声、それから赤。
嗅覚を刺す硝煙の匂い、斃れる制服姿、あふれる赤。
金属と似た香は白いタイルを零れた、そして膝まづいた自分の制服が染まる。
呼びかけて蒼白の横顔まだ息していた、その首あふれる赤色を自分は止めたくて必死で、それから、
『お願い死なないでお父さんっ』
斃れた青年の横顔に父を見た。
あのひとは父じゃない、そう解っているのに9歳の自分が叫んだ。
あのとき指先ふれた血液は父の血じゃない、そして鼓動まだ生きて温かかった。
あれから時間はどれほど経ったのだろう?それを知りたくて見た左手首に声が叫んだ。
「…っ、僕の時計っ、」
時計が無い、あのクライマーウォッチが無い。
「ぁ、僕の時計は?…えい」
言いかけて呑みこんだ名前に視界が霞みだす。
あの時計を贈ってくれたひと、あの笑顔が籠めた時間が腕から消えた。
あのひとの夢を時刻んだ腕時計、あれを失くしてしまったら自分はどうしたら良いのだろう?
「大丈夫だ湯原、時計ならここだ、」
呼んでくれた声から掌さし出される。
繊細だけれど逞しい、そんな掌から腕時計ひとつ受けとり握りしめた。
「よかった…あの、どうして、」
どうして腕時計が外されていたのだろう?
そう訊きかけて、けれど直ぐ理由に気が付いて周太は掌を開いた。
「あ、」
クライマーウォッチのベルトが変色している。
もう一年近く見慣れてきた紺青色が微かに薄い、その理由を低い声が教えてくれた。
「血が染みこんでいた、それで染みぬきされている、」
「…はい、」
頷きながら見つめる文字盤は無事に時を刻みゆく。
大切な時間は刻々と動く、その安堵に微笑んだ視界に赤い痣ひとつ映りこむ。
いつもなら袖に見えない、けれど青い半袖は隠せない赤色に時計の俤を見てしまう。
英二、今どこで何をしているの?
「湯原、もう咳は治まったようだな、着替えられそうか?」
呼ばれた言葉に戻されて相手を見る。
その意味に状況すべて思いだし問いかけた。
「あの、ここはどこの病院なんですか?僕、どうやってここに来たんですか?」
執務室の近くの洗面所に自分はいた。
喘息発作の予兆をうがいで治めようとして洗面所の扉を開いて、そして銃声を聞いた。
そのまま斃れこんだ制服姿の青年を手当てした、救急隊員に引き継いで、それから発作が起きた。
このあとの記憶が無い、その欠落にベッドサイドの静かな微笑は口を開いた。
「ここは庁舎の医務室だ、トイレで湯原は咳きこんで呼吸困難になったんだ、それで俺が運び込んだ、」
ああ、きっとばれてしまった。
呼吸困難を起こすほど咳きこむなんて異常、気管支系の疾患だと医者なら解かるだろう。
きっと喘息だと診断された、これで知られてしまった、もう「不適格」だと烙印押されて除隊になる。
―まだお父さんのこと何も見つけられていない、それなのに、
まだ「警察の狙撃手」である父のパズルピースは掴んでいない、けれどもう終わる?
警察官である父は幾つか見つけているだろう、学者の父はこれから幾つも見つかるだろう。
だけど父が死んだ一番の原因かもしれない「警察の狙撃手である父」の実像は何も探し出せていない。
何もまだ見つけられない父を拾えていない、それなのに今ここで除隊になったら自分の14年間は何だったのだろう?
「伊達さん、僕の咳のこと他は誰が知っていますか?」
問いかけて見つめた真中で精悍な瞳が自分を映す。
自分が咳きこんだとき伊達しか洗面所には居なかった、だから口止めも出来るかもしれない?
どうか今もう少し時間がほしい、そんな希望の向こう鋭利な瞳は真直ぐ見つめてくれるまま答えた。
「俺と診てくれた先生は知っている、先生から上に報告はあるだろうが、」
やはり報告はされる、それが当然だろう。
そう確認して背骨から崩れそうになる、けれど、これも道なのかもしれない?
『僕は1年後には辞めます、樹医になりたいんです、』
そんなふうに家族と約束したのは9月の終わり、ここに来る直前だった。
あの約束の期限が思った以上に早くなる、ただそれだけの事かもしれない、けれど悔しくないなんて思えない。
「…っ、」
嗚咽こらえて飲み下す、その涙ごと瞳瞑って閉じこめる。
ここで今を泣いてしまったら不甲斐無い、そんな想いごと掌ふたつ組み合わす。
たなごころに時計ひとつ握りしめて、刻まれる時の鼓動を見つめるまま扉ノック響き、がらり開いた。
「失礼、湯原君はこちらですか?」
呼ばれて瞳ゆっくり開いて、医務室にスーツ姿ふたつ入ってくる。
その空気どこか堅い、なにか重要な任務を抱えながら笑顔に隠しこんでいる。
そんな顔ふたつ視界の端に見ながら掌そっと解きクライマーウォッチを見つめた。
今日ここで終わるかもしれない?
それが自分の道だとしたら悔しいだろう、だって14年間ずっと父を追いかけ生きてきた。
ただ父を知りたくて、その想いひとつに全てを懸けて警視庁に入り警察官になりSAT隊員にまでなった。
そんな14年間すら「操られていた」その可能性に今は気づいて、それでも父を知りたいのは自分の意志だ。
『お父さんが喜ぶと思いますよ、同じ道を君が歩いたら、』
この言葉は観碕征治が言った、祖父の知人だったかもしれない男が言った。
この言葉に自分の14年間は支配されたのかもしれない、それでも、父の遺志を探したい想いだけは自分の真実だ。
―だから僕は残ってみせる、今ここで辞めたくない、だけど、
今はまだ辞められない、それでも今スーツ姿ふたり目の前に立っている。
この男たちは自分に何を告げに来たのだろう?何を訊きに何の目的で来たのだろう?
そんな思案を見つめるままクライマーウォッチ左手首に当て、かちり嵌めると周太は微笑んだ。
「湯原です、こんな恰好ですみません、」
「いや、こちらこそ休んでいる所を失礼するよ、」
笑いかけスーツ姿がベッドサイドに立つ。
見下ろされる、その位置関係にも真直ぐ見あげた傍から低い声が透った。
「湯原は少し過労気味です、手短にお願い出来ますか?」
いま庇ってくれた?
そんな発言に振り向いた真中で伊達は続けた。
「先程の聴取ならまず私から先に話させて頂きます、第2発見者は私ですから。その前に勝山さんの容体を聴かせて下さい、」
スーツ姿二人は事情聴取に来た、
そう現状を理解して肩の力そっと解かれる。
この男たちが来た目的は何なのか?それを伊達は知らせてくれた。
―僕を庇ってくれてるんだ、体調も気遣ってくれながら、新入りの僕が疑われないようにしてくれてる、
この男たちの目的は「事情聴取」まだ喘息のことは問題になっていない。
この体にある懸案事項は助かるだろう、けれど疑惑も掛けられている現状が見えてくる。
洗面所の真中で拳銃に撃ちぬかれた男が倒れていた、その傍に血塗れの男がいたら疑惑も仕方ない。
狙撃または幇助、
どちらかの嫌疑が自分に掛けられている?
そんな空気を見つめるままスーツ姿たち頷きあい、ベテランらしき方が口を開いた。
「では現状から説明します、勝山君は現在まだ意識は戻ってはいません、でも命は取り留めたそうです。応急処置が速かったお蔭だと医師から伝言です、」
彼は助かった、
そう告げられて鼓動ことり緩められる。
自分は彼を援けられた、それなら自分が今ここに居ることも正しい?
だって命ひとつでも繋ぎとめることが出来たのなら、喪った命ひとつに少し償えるかもしれない。
―もう僕の前では誰も死なせい、お父さんを援けられなかった分だけ少しでも援けられたら、僕は、
9歳の春のまま自分は無力だ、それでも命ひとつ繋ぎとめられた。
あのとき彼が何を想って拳銃の引き金ひいたのか解らない、自分は彼に恨まれるかもしれない。
それでも誰かが生きた彼を必ず待っている、そう信じているからこそ今この命ひとつ嬉しくて、ただ嬉しい。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】
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第75話 懐古act.3―another,side story「陽はまた昇る」
白い、この視野は何だろう?
解らなくて瞳ゆっくり瞬かす、そして理解する。
いま見あげているのは天井だ、そう認識した全身やわらかに温かい。
その温もりに首すこし動かして白いシーツとブランケットが映る、それから着衣が青い。
「…え、」
いま11月の制服は白と紺、だから青い服の筈がない。
それが不思議で瞳また瞬いた着衣は3月の記憶、英二の看病で見た。
これは、病院で着せられる服だ?
―僕なんで病院にいるの?どうして、
途惑いに身を起こそうとして胸ぐっと迫り上げる。
喉ふるえる感覚こみあげて咳こんで、その向こう扉がらり開いた。
「湯原、大丈夫か?」
呼んでくれる低い声に記憶が戻される。
なぜ今ここに自分が居るのか?思い出すまま咳も鎮って周太は微笑んだ。
「大丈夫です。伊達さん、ご迷惑をすみません、」
「いや、構わない、」
答えながらベッドサイドに来てくれる。
その手に携えたスーツ一式を示しながら先輩は告げた。
「湯原の制服は今クリーニングに出されている、明日の午後には戻ってくるはずだ。今日は落着いたら帰宅して良いと言われているが、調子はどうだ?」
なぜクリーニングに制服が出されているのか?
その理由が現実なのだと改めて解かって、そして鼓動が揺すぶられる。
―血塗れだからクリーニングされてる、僕の制服は…あれは現実なんだ、ね、
銃声、それから赤。
嗅覚を刺す硝煙の匂い、斃れる制服姿、あふれる赤。
金属と似た香は白いタイルを零れた、そして膝まづいた自分の制服が染まる。
呼びかけて蒼白の横顔まだ息していた、その首あふれる赤色を自分は止めたくて必死で、それから、
『お願い死なないでお父さんっ』
斃れた青年の横顔に父を見た。
あのひとは父じゃない、そう解っているのに9歳の自分が叫んだ。
あのとき指先ふれた血液は父の血じゃない、そして鼓動まだ生きて温かかった。
あれから時間はどれほど経ったのだろう?それを知りたくて見た左手首に声が叫んだ。
「…っ、僕の時計っ、」
時計が無い、あのクライマーウォッチが無い。
「ぁ、僕の時計は?…えい」
言いかけて呑みこんだ名前に視界が霞みだす。
あの時計を贈ってくれたひと、あの笑顔が籠めた時間が腕から消えた。
あのひとの夢を時刻んだ腕時計、あれを失くしてしまったら自分はどうしたら良いのだろう?
「大丈夫だ湯原、時計ならここだ、」
呼んでくれた声から掌さし出される。
繊細だけれど逞しい、そんな掌から腕時計ひとつ受けとり握りしめた。
「よかった…あの、どうして、」
どうして腕時計が外されていたのだろう?
そう訊きかけて、けれど直ぐ理由に気が付いて周太は掌を開いた。
「あ、」
クライマーウォッチのベルトが変色している。
もう一年近く見慣れてきた紺青色が微かに薄い、その理由を低い声が教えてくれた。
「血が染みこんでいた、それで染みぬきされている、」
「…はい、」
頷きながら見つめる文字盤は無事に時を刻みゆく。
大切な時間は刻々と動く、その安堵に微笑んだ視界に赤い痣ひとつ映りこむ。
いつもなら袖に見えない、けれど青い半袖は隠せない赤色に時計の俤を見てしまう。
英二、今どこで何をしているの?
「湯原、もう咳は治まったようだな、着替えられそうか?」
呼ばれた言葉に戻されて相手を見る。
その意味に状況すべて思いだし問いかけた。
「あの、ここはどこの病院なんですか?僕、どうやってここに来たんですか?」
執務室の近くの洗面所に自分はいた。
喘息発作の予兆をうがいで治めようとして洗面所の扉を開いて、そして銃声を聞いた。
そのまま斃れこんだ制服姿の青年を手当てした、救急隊員に引き継いで、それから発作が起きた。
このあとの記憶が無い、その欠落にベッドサイドの静かな微笑は口を開いた。
「ここは庁舎の医務室だ、トイレで湯原は咳きこんで呼吸困難になったんだ、それで俺が運び込んだ、」
ああ、きっとばれてしまった。
呼吸困難を起こすほど咳きこむなんて異常、気管支系の疾患だと医者なら解かるだろう。
きっと喘息だと診断された、これで知られてしまった、もう「不適格」だと烙印押されて除隊になる。
―まだお父さんのこと何も見つけられていない、それなのに、
まだ「警察の狙撃手」である父のパズルピースは掴んでいない、けれどもう終わる?
警察官である父は幾つか見つけているだろう、学者の父はこれから幾つも見つかるだろう。
だけど父が死んだ一番の原因かもしれない「警察の狙撃手である父」の実像は何も探し出せていない。
何もまだ見つけられない父を拾えていない、それなのに今ここで除隊になったら自分の14年間は何だったのだろう?
「伊達さん、僕の咳のこと他は誰が知っていますか?」
問いかけて見つめた真中で精悍な瞳が自分を映す。
自分が咳きこんだとき伊達しか洗面所には居なかった、だから口止めも出来るかもしれない?
どうか今もう少し時間がほしい、そんな希望の向こう鋭利な瞳は真直ぐ見つめてくれるまま答えた。
「俺と診てくれた先生は知っている、先生から上に報告はあるだろうが、」
やはり報告はされる、それが当然だろう。
そう確認して背骨から崩れそうになる、けれど、これも道なのかもしれない?
『僕は1年後には辞めます、樹医になりたいんです、』
そんなふうに家族と約束したのは9月の終わり、ここに来る直前だった。
あの約束の期限が思った以上に早くなる、ただそれだけの事かもしれない、けれど悔しくないなんて思えない。
「…っ、」
嗚咽こらえて飲み下す、その涙ごと瞳瞑って閉じこめる。
ここで今を泣いてしまったら不甲斐無い、そんな想いごと掌ふたつ組み合わす。
たなごころに時計ひとつ握りしめて、刻まれる時の鼓動を見つめるまま扉ノック響き、がらり開いた。
「失礼、湯原君はこちらですか?」
呼ばれて瞳ゆっくり開いて、医務室にスーツ姿ふたつ入ってくる。
その空気どこか堅い、なにか重要な任務を抱えながら笑顔に隠しこんでいる。
そんな顔ふたつ視界の端に見ながら掌そっと解きクライマーウォッチを見つめた。
今日ここで終わるかもしれない?
それが自分の道だとしたら悔しいだろう、だって14年間ずっと父を追いかけ生きてきた。
ただ父を知りたくて、その想いひとつに全てを懸けて警視庁に入り警察官になりSAT隊員にまでなった。
そんな14年間すら「操られていた」その可能性に今は気づいて、それでも父を知りたいのは自分の意志だ。
『お父さんが喜ぶと思いますよ、同じ道を君が歩いたら、』
この言葉は観碕征治が言った、祖父の知人だったかもしれない男が言った。
この言葉に自分の14年間は支配されたのかもしれない、それでも、父の遺志を探したい想いだけは自分の真実だ。
―だから僕は残ってみせる、今ここで辞めたくない、だけど、
今はまだ辞められない、それでも今スーツ姿ふたり目の前に立っている。
この男たちは自分に何を告げに来たのだろう?何を訊きに何の目的で来たのだろう?
そんな思案を見つめるままクライマーウォッチ左手首に当て、かちり嵌めると周太は微笑んだ。
「湯原です、こんな恰好ですみません、」
「いや、こちらこそ休んでいる所を失礼するよ、」
笑いかけスーツ姿がベッドサイドに立つ。
見下ろされる、その位置関係にも真直ぐ見あげた傍から低い声が透った。
「湯原は少し過労気味です、手短にお願い出来ますか?」
いま庇ってくれた?
そんな発言に振り向いた真中で伊達は続けた。
「先程の聴取ならまず私から先に話させて頂きます、第2発見者は私ですから。その前に勝山さんの容体を聴かせて下さい、」
スーツ姿二人は事情聴取に来た、
そう現状を理解して肩の力そっと解かれる。
この男たちが来た目的は何なのか?それを伊達は知らせてくれた。
―僕を庇ってくれてるんだ、体調も気遣ってくれながら、新入りの僕が疑われないようにしてくれてる、
この男たちの目的は「事情聴取」まだ喘息のことは問題になっていない。
この体にある懸案事項は助かるだろう、けれど疑惑も掛けられている現状が見えてくる。
洗面所の真中で拳銃に撃ちぬかれた男が倒れていた、その傍に血塗れの男がいたら疑惑も仕方ない。
狙撃または幇助、
どちらかの嫌疑が自分に掛けられている?
そんな空気を見つめるままスーツ姿たち頷きあい、ベテランらしき方が口を開いた。
「では現状から説明します、勝山君は現在まだ意識は戻ってはいません、でも命は取り留めたそうです。応急処置が速かったお蔭だと医師から伝言です、」
彼は助かった、
そう告げられて鼓動ことり緩められる。
自分は彼を援けられた、それなら自分が今ここに居ることも正しい?
だって命ひとつでも繋ぎとめることが出来たのなら、喪った命ひとつに少し償えるかもしれない。
―もう僕の前では誰も死なせい、お父さんを援けられなかった分だけ少しでも援けられたら、僕は、
9歳の春のまま自分は無力だ、それでも命ひとつ繋ぎとめられた。
あのとき彼が何を想って拳銃の引き金ひいたのか解らない、自分は彼に恨まれるかもしれない。
それでも誰かが生きた彼を必ず待っている、そう信じているからこそ今この命ひとつ嬉しくて、ただ嬉しい。
(to be continued)
【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】


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