萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第82話 誓文 act.5-side story「陽はまた昇る」

2015-02-14 23:00:00 | 陽はまた昇るside story
There’s more of wisdom in it.  鼓動の叡智



第82話 誓文 act.5-side story「陽はまた昇る」

花のような芳香くゆらすテーブル、ティーカップ4つ並ぶ。

白やわらかな陶器に琥珀色が澄む、その一つ手にとり口つける。
ふわり湯気あまく滑りこんだ熱が優しい、ほっと息ついて英二は笑った。

「中森さん、相変らず淹れるの巧いね?佳い香だよ、」
「ありがとうございます、」

ロマンスグレー微笑んで黒いニットの背まっすぐ会釈する。
ネクタイ端正な衿元から律儀で優雅、そんな家宰が皿を並べた。

「白のフォンダンオショコラを焼きました、熱いうちにどうぞ?」

あまやかな香に白い焼菓子が温かい。
さくりフォーク入れて、濃やかに溶ける甘さに笑った。

「うまいよ、久しぶりに食べたけどやっぱり美味いな。ラズベリーが効いてる、」
「ありがとうございます、英理様はいかがですか?」

穏やかな笑顔を姉に向けてくれる。
その先で色白の貌あげて、睫の華やかな瞳が微笑んだ。

「おいしいわ、中森さんが焼いてくれるの一番好きよ?ホワイトチョコのは普通ないもの、」
「はい、私のオリジナルですから、」

応えてくれる声すこし誇らしい。
この名料理人でもある家宰へ姉はほっとするよう笑いかけた。

「中森さん、私が大好きなお菓子だから今日は焼いてくれたのでしょう?ありがとう、」
「喜んでくだされば嬉しいです、お土産にも焼いてありますよ?」
「嬉しいわ、これお母さんも大好きだもの、きっと喜ぶわ、」

ふたりの会話を聴きながら添えられた生クリーム指にすくう。
膝元へ指先さしだして、行儀よく座る愛犬に笑いかけた。

「ヴァイゼもほしいだろ?甘くないからいいよ、」
「くんっ、」

嬉しそうに黒い鼻づら寄せて、ぺろり桃色の舌なめとってくれる。
ふれる温もりの感触やわらかい、そのテーブル越し綺麗なアルトが微笑んだ。

「ヴァイゼは相変わらず英二のこと大好きね、ずっとくっついて離れないもの、」
「くん、」

応えるよう大きな黒犬が頷いてくれる。
ゆるやかに寛ぎだす応接間、雪の明るい窓辺で家宰はティーポット携え微笑んだ。

「関根様はいかがですか?甘いものが苦手なら別の物をお出しします、ご遠慮なくどうぞ?」

手を動かしながら深い声やわらかく尋ねてくれる。
こんなふう居心地ひとりずつ配慮する、その篤実に友達は笑ってくれた。

「本当に美味いです。甘いものは得意ではありませんが今、美味くてびっくりしています、」

得意じゃない、でもこれは好きだ。
こんなふう偽らない答えがらしくて良い、そんな友達に笑いかけた。

「関根って確かに甘いもの食べないよな、」
「おう、こっち来るまでは滅多に食わなかったな、」

笑って答えてくれる言葉遣いがモード切り替わっている。
こんなところ要するに「偽れない」性質なのだろう?その明朗な瞳が訊いた。

「宮田、お祖父さんは大丈夫か?階段は降りてきたみたいだけど、具合が悪いのか?」

それ指摘されると一番困るんだけどな?
そんな本音から可笑しくて笑ってしまった。

「確かに具合悪いだろな、でも気にしなくて良いよ、」
「気にしなくて良いって、具合悪いのに気にしねえワケいかねえだろ?」

訊き返してくれる話し方は粗雑、けれど温かい。
この率直に優しい友達へ本音を笑った。

「関根と姉ちゃんに会うのが具合悪いんだよ、仕方ないだろ?」

さっき階下へは降りてくれた、けれど応接間に入ってこない。
たぶん廊下で聴いているだろう?そんな気配も可笑しくて正直に言った。

「書斎から出て階段は降りたんだ、そのままトイレに行ったから俺だけ先に座ったんだよ。もう来ると思うけど、中森さんどうかな?」

本当に往生際が悪いよな?
そう視線で笑いかけた先、ロマンスグレー端正な笑顔は肯いた。

「はい、お茶もお菓子も冷めないうちにいらっしゃると思います、」

この言い方は幾らか恫喝でもあるな?
そんな家宰に目配せ笑って、ティーカップ越し微笑んだ。

「そうだね、だから関根も姉ちゃんも気にしないで良いよ、」

本当に気にする必要なんて無い、だってどうせ来るだろう?
それくらい幾らか脅かしてある通り、かたん、扉開いて深く低い声が言った。

「英二、私の席はどこだ?」

おまえが仕切るんだろう?
そんなトーンに微笑んで振向いた。

「俺の隣へどうぞ、」

笑いかけて端正なニット姿が歩いてくる。
優雅な仕草は齢を見せない、そのプライド見つめながら友人が立った。

「…ぅし、」

小さな声、けれど気合は小さくない。
そこには虚栄はる無様もなにも無くて、そういう男の前に祖父は座った。

「…ふ、」

吐息そっと端正な口元くゆらす、これは嘲笑だろうか満足だろうか?
どちらとも見える横顔は優雅に脚を組み、白皙の両手ゆるやかに組ませ言った。

「おまえは誰だ?」

いきなり「おまえ」呼びなんだ?

こんな傲慢は昔から変わらない、けれど本当は意図がある。
そう解るからティーカップ口つけた前、浅黒い貌はまっすぐ名乗った。

「関根尚光です、英理さんに惚れて今日こちらへ伺いました、」

いきなりそれ言うんだ?

「ふっ」

つい吹きだして紅茶ごくり呑みこます。
こういうストレートはきっと利くだろう?そのターゲットは眉かすかに顰め言った。

「座れ、」
「失礼します、」

端正に礼して長身が腰下ろす。
そして真直ぐ向きあった大きな目は覚悟と緊張あざやかで、聞えそうな鼓動が明るい。

―関根すごく緊張してるんだろうな、姉ちゃんも、それにこの人もさ?

応接セット向きあうスーツ姿は緊張も明るい、その隣も上品なワンピースに緊張くるむ。
そんな二人は緊張すら共にする喜びが瑞々しい、だからこそ鼓動が軋みそうな隣へ英二は笑いかけた。

「マルコポーロとダージリン、どちらを飲みますか?」

姉の好みと祖父の日常茶、今どちらを選んでも良い。
そう笑いかけた真中で白皙の横顔ゆっくりこちら向き、すこし笑った。

「英二がそんなことを訊くのは珍しいな?」

何か意味があるのだろう?
そう訊いてくる貌に小さな同情とかすかな温もり微笑んだ。

「紅茶一杯でも後悔したくないでしょう?お互いに、」

これだけ言えば解るでしょう、あなたなら?
そんな返しに祖父は端正な口許すこし解いて言った。

「中森、いつもで、」
「はい、」

穏やかな声が応えて、すぐ一杯が運ばれる。
もう話しながら支度していた、そんなティーカップに祖父は微笑んだ。

「ふ、出来すぎた家宰だな?」
「おそれいります、」

さらり返す笑顔はいつもどおり穏やかに涼しい。
この有能で優しい家族へと英二は笑いかけた。

「中森さんも同席してください、姉ちゃんもその方がいいだろ?」

家宰は屋敷の使用人かもしれない、けれど自分には家族だ。
それは姉も祖父も同じだろう、そのままに色白美しい笑顔は肯いた。

「ええ、私も中森さんに尚光さんを紹介したいもの。お祖父さまも良いでしょう?」

華やかな笑顔はすこし心配そうで、けれど信頼ひとつ尋ねてくれる。
こんな貌されたら断るなんて無い、そう見たまま端正な横顔は言った。

「中森、ジャッジのために座っていろ、」

またこんな言い方しか出来ないんだな?

―ジャッジなんて関根に牽制かよ、それくらい警戒したいのか、

信頼する家宰を傍に座らす、それをジャッジ「審判」のためと明言する。
明言で牽制したいほど本音いくらか途惑っているだろう、そのままに穏やかな家宰は微笑んだ。

「関根様、ご同席してもよろしいですか?」
「はい、」

短く肯いて大きな目まっすぐ向ける。
なにも隠さない眼差しはストレートに明るい、そんな客人に家宰は微笑んだ。

「綺麗な眼をされていますね、まっすぐ明るくて。英二さんの御友人らしい、」

さっそくジャッジひとつ裁可してくれる。
その相手は大きな目ほころばせシンプルに笑った。

「宮田君の友人って言われると、なんか照れます、」
「おや、どうして照れるんですか?」

問いかけてくれる微笑は穏やかに温かい。
その眼差しも優しくて、けれど本当は鋭い聡明の眼に青年は応えた。

「宮田君と私は育ちが正反対に違います、もし警察学校の同期として出会えなければ話しかけていません。だから照れるんです、」

またストレートな答だな?
そんな感心しながらティーカップ口つけて、もう次の展開が解かる気がする。
きっと「正反対に違います」が口火切らせるだろう?そんな予想どおり深い徹る声が言った。

「英二と正反対なら英理とも正反対だ、なのになぜ話しかけた?」

さあ、本題が始まる。



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「The tables Turned」】

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山岳点景:雪の花家

2015-02-13 23:00:04 | 写真:山岳点景
古家×早春



山岳点景:雪の花家

古民家にふる雪と蝋梅です。

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚335

2015-02-13 09:03:04 | 雑談寓話
終電当り前シーズン2月週末、花サンと出掛けた山中湖にて、

「自分は良いけどさ、御曹司クンは拗ねるんじゃない?彼氏の俺と旅行しないのにナンデあいつはイインダよーってさ、笑」
「拗ねると思うよ、でも結婚するまで彼とは絶対一緒に行きたくないの。だから直前まで言わないでおくよ、あのひとにずっと付合ってたら私が保たない、」

ずっと付合ってたら私が保たない、
なんて思う相手となんでワザワザ彼氏彼女になりたいのか?疑問だった、
で、湖畔もう寒くなってきて車に戻ってエンジンかけて、走りながら訊いてみた、

「ずっと付き合うの疲れちゃう相手と恋人関係するのって楽しい?笑」

訊いて助手席すぐ首かしげて、で、訊き返してきた、

「私が楽しくなさそうにみえるってこと?」
「率直に言っちゃってイイ?笑」

ちょっとキツイこと言っちゃうな?
そう思ったけど率直に訊いた、

「御曹司クンの・た・め・に付き合ってやるって考えてる感じするよ、そういう同情が欲しいって御曹司クンから頼まれて付き合ってるワケ?」

私がいないとダメなのよ、

なんて想いたがる女性はワリとよくいる。
そしてその大半は結果的に破局マニア化するワケで、そんな心配対象は言った、

「そこまでは言われてないよ、独りぼっちツラいとかは言うけど、」
「ふうん?」

つい相槌も疑問形になりながら本音ちょっと困った、
こういう展開は痛いカンジだ?だから訊いてみた、

「依存と恋愛感情は別物だよ、承認欲求がくっついてるアタリ似てるけど相手を尊敬して認めているかって違いはデカイよ?そこどうかな?」

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山岳点景:三頭大滝@奥多摩氷瀑

2015-02-11 22:00:00 | 写真:山岳点景
冬の水



三頭山@東京都奥多摩の滝、凍結60%くらいの様子です。
降雪ここんとこ多かった今はもっと白いかと思います。

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚334

2015-02-11 15:24:10 | 雑談寓話
で、正月休みも明けて新職場は忙しくなってきた。
年度末決算+監査報告あれこれ繁忙期、定時あがりなんか難しくなってくるわけで、
それでも休憩合間や移動時間+週末に睡眠かつ勉強その他やりたいことやって、そんな終電当り前シーズン2月になり、

From:花サン
本文:この時期また忙しいよー(顔文字困顔)トモさんも新しい職場どうですか??
   そろそろご飯呑み一緒して喋りたいです。グチその他聴いてほしい(顔文字泣顔)

Re :忙殺中、でも土曜夕方なら良いよ?

Re2:わーいありがとう(顔文字笑顔)悪戯坊主くんに癒されたい

Re3:ウチ来るのは良いけど彼氏は大丈夫?笑

Re4:その件でご相談グチもろもろです(顔文字怒顔)

ってワケで花サンと週末に会うことになり、
土曜日は洗濯掃除して同居猫と昼寝して、夕方に待合せ場所まで迎えに行った、

「夕飯ウチでも良いけど遠出しても良いよ?笑」

きっと「相談グチもろもろ」なら気晴らししたいんだろうな?
そう想ったまま花サンは嬉しそうに言った、

「じゃあ最高峰を見たいな、湖もう凍ってるかも?」
「チェーン積んでるからイイよ、笑」

ってことでいきなり富士山麓に行き、
道中は他愛ない近況報告して、守秘義務ひっかからないレベルで仕事の話しながら着いて、
黄昏に冠雪した富士のシルエットは綺麗でこんなことデジャブだなって思ってたら花サンが笑った、

「前もこうやって雪の富士山と山中湖に来たね?御曹司サンのことで私が煮詰まってトモさんに吐きだして、」

同じコト想ってたんだな?
そんな発言に懐かしくて笑った、

「だね、今日はその再現ビデオなカンジ?笑」
「そうなっちゃいそうだね、ごめんね?」

ごめんね?って笑って言ってくれる、
だから気になってコートの手すぐ掴んで見た両手首、新しい傷は無かった。

「よかった、ちゃんと約束守ってくれてるんだ?」

笑いかけながら本音は笑えないって思ってた、
ホントにもし今も同じことをしていたら?そんな心配に彼女は言った、

「もうリスカはしないよ、しても何も変わらないの解かったし大事に想ってくれる人もいるって解かったから、」
「そっか、ホントもうしないでよ?」

言いながら笑った夕暮の湖畔は雪に蒼かった。
晴れていれば白銀の雪原、だけど夜暮れる光には蒼くなる。
こういう色彩の変化は不思議で面白い、そんなまま見ていたら花サンが隣で笑った。

「きれいだねー富士も空も凍った湖もみんな綺麗、こういうの知っちゃったら手首もう切れないよ?もっと綺麗なとこ見たくなるから、」

ほんとに人ってそんなもんかもしれない。
なんで生き続けようとするのか、その花サンなり回答に笑った、

「もしして旅行のお誘い?雪山散歩とか氷瀑とか、笑」
「当たり、雪の山ちょっと歩きたいなあって、」

ねだってくれる笑顔は前より少し痩せた気がした、
そういう綺麗になる年頃でもあるんだろう、そんな友達に笑って釘刺した、

「自分は良いけどさ、御曹司クンは拗ねるんじゃない?彼氏の俺と旅行しないのにナンデあいつはイインダよーってさ、笑」

そう考えるのが普通だろう?
だけど花サンとその家族にしたら理由と信頼問題がある、そのままに彼女は言った。

「拗ねると思うよ、でも結婚するまで彼とは絶対一緒に行きたくないの。だから直前まで言わないでおくよ、あのひとにずっと付合ってたら私が保たない、」

ずっと付合ってたら私が保たない、

こんなこと言う相手となんでワザワザ彼氏彼女になりたいんだろう?
そんな疑問を想いながら湖畔もう寒くなってきて、とりあえず車に戻った。

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第82話 誓文 act.4-side story「陽はまた昇る」

2015-02-10 22:00:13 | 陽はまた昇るside story
How sweet his music, on my life, 率直の聲



第82話 誓文 act.4-side story「陽はまた昇る」

陽が射して青空まばゆい。

また雪雲は翳るだろう、けれど舞う小雪に陽が映える。
銀色の庭も陽光まばゆい、その陽ざしに赤いボールを黒犬が捕えた。

「うまいなヴァイゼ、」

笑いかけてジャーマンシェパード真直ぐ駆けて来る。
大きな体さらり白銀へ座って、ふっさり尾を振りながら赤い玉そっと前に置く。
いま嬉しくて仕方ない、そんな茶色の瞳に英二は笑った。

「ヴァイゼ、また投げろって言ってる?」
「おんっ、」

一声ほがらかに吠えて明るい瞳が見あげてくれる。
年明けはすこし衰えて見えた、けれど今は元気いっぱいな愛犬に微笑んだ。

「じゃあ投げてやるよ、もうじき客が来るけど吠えかかったりするなよ?」
「おんっ、」

了解です、そんな貌で頷く大きな背は真直ぐ行儀いい。
相変らず賢い愛犬に笑ってニットの腕を振りかぶった。

「おんっ、」

大らかに一声、赤い放物線を追いかけてゆく。
そのまま塀を越えたボールに声ひとつ上がった。

「おわっ、ボールっ?」

この声は懐かしいな?
すぐ聴きとった親しさに笑って愛犬に笑いかけた。

「場外してごめんなヴァイゼ、ちょうど客も来たみたいだ?」

笑いかけた銀色の庭、大きな黒犬が困ったよう首傾げて見つめる。
もっと遊んでいたいのにな?そう告げる茶色の瞳に微笑んだ。

「もうじきボール持って来るだろうからさ、そしたら遊んでもらえよ?」
「くん、」

残念、そんな貌に頷いて大きな黒犬ゆるやかに駆けて来る。
もう少しあなたと遊びたいよ?そう見あげる茶色い瞳に笑いかけた。

「そんなに残念がらなくて大丈夫だよ、すごく良いヤツだからヴァイゼも気に入ると思う、」

話しかけて大きな耳そっと撫でてやる。
黒い艶やか被毛ふさふさ指に温かい、そんな雪の庭に正門が開いた。

「ほらヴァイゼ?おまえのボール持ってきてくれたよ、」

笑いかけ並んだ白銀の先、コート姿ふたり石畳を歩いてくる。
チャコールグレーとボルドーは寄りそい歩く、その緊張した笑顔たちは似合う。

―思った以上にお似合いだよな?

こうして並んで歩く二人は初めて見る。
この初見は微笑ましいけど何か寂しい、そして願いたい幸せに笑いかけた。

「せきねーっ、ボール投げてやって!」

えっ、なんだろう?
そんな貌こちら振向いて大きな目ひとつ瞬く。
今なにを見ているんだろう?驚いた顔そのまま笑いだした。

「みやたー、ひさしぶりだなっ、」
「おう、ボール投げてやってくれー、」

小雪に笑いあって浅黒い貌が赤いボールを見る。
その眼差しが愛犬を見、大きな手は真直ぐ投げてくれた。

「返すぞー、」

きれいな放物線に赤色が飛ぶ。
戻ってくる宝物へジャーマンシェパードは雪蹴って跳んだ。

「うまいぞヴァイゼ、」

大きな口に捕えて茶色の瞳が笑う。
ふっさり尻尾ふりながら見あげてくれる、その眼差しに笑いかけた。

「これから姉ちゃんたちと話さないといけないんだ、ヴァイゼも立ち会う?」
「くんっ、」

赤いボール銜えたまま茶色の瞳が肯く。
ずっと傍にいる、そんな愛犬の貌に笑って石畳へ行った。

「姉ちゃん、関根、今日はおつかれさま?」

舞いふる小雪に笑いかけて姉が長い睫ゆっくり瞬かす。
色白やさしい貌は前より綺麗になった、この再会に華やかな笑顔ほころんだ。

「英二がいるなんて驚いたわ、何年ぶりに来たの?」
「先月もきたばかりだよ、」

正直に笑いかけて歩きだす道、姉の眼差しが不思議がる。
物言いたげな貌、けれどその向こうへ笑いかけた。

「よく来たな関根、ちょっとビビってる?」
「そりゃビビるだろ、こんなデカい家に入るの仕事以外じゃ初めてだぞ?」

闊達な声が笑って答える、その真直ぐな言葉に懐かしい。
この率直な同期を姉が選んだことは正しいだろう?そんな想いに姉が訊いた。

「ねえ英二、あんたが今日ここにいるのってもしかして、」

気づかれたかな?そんな言葉にただ笑いかけた。

「また後で話すよ、寒いから入ろ?中森さん待たせてる、」

もう玄関の扉は開かれている。
その真中に立たずんだネクタイ端正なニット姿に姉は微笑んだ。

「こんにちは中森さん、今日はお願いします、」
「ようこそ英理様、寒かったでしょう?」

洗練の所作に頭下げて穏やかな笑顔ほころばす。
ロマンスグレイ美しいニット姿は変わらず優しい、この優秀な家宰に笑いかけた。

「中森さん、俺の同期の関根だよ。警察学校では世話になったんだ、迷惑もいっぱいかけたよ?」

本当に初任科教養では迷惑たくさん掛けている。
だからこそ本音で話せるようになった友達はマフラー外し、端正な礼をした。

「関根尚光です、私こそ宮田君にはお世話になっています、」

モードが切り替わったな?
そんな横顔は凛々しくて職業柄が表れる、その姿勢に家宰は微笑んだ。

「中森脩也と申します、ここで家宰を務めております。どうぞお入りください、」
「おじゃまします、」

端正な礼をして快活な笑顔ほころばす。
浅黒い貌は前よりも精悍になった、そう見ながらスリッパ履きかえると家宰が微笑んだ。

「英二さん、コートも着ないで雪のなかにいたんですか?」
「マフラーはしたよ、」

笑って外したマフラーを美しい所作が受けとってくれる。
その困ったような笑顔が言いたいことに笑いかけた。

「雪の三千峰は零下20度だよ、だから渋い貌しないでよ中森さん?」

もう昔の自分とは違う、そんな現実に家宰は言った。

「マッターホルンは標高4,000メートルを超えるそうですね、」

ちゃんと解って言っていますよ?
そう告げながら客のコート受けとってゆく、その相変らずな博識に訊いた。

「中森さん、山に詳しかった?」
「昨年から詳しくなりました、冬富士の風はシャッターを壊すそうですね?」

涼やかな貌の回答に笑いたくなる。
どうせ祖父が調べさせてはチェックしているのだろう。
こんなふう相変わらずだ?そこにある温もりへ素直に詫びた。

「いつも心配かけてごめん、ありがとう、」

ずっと連絡すらしなかった、それでも心を懸けてくれている。
そんな誠実を見ないフリしてきた幼稚が恥ずかしい、その詫びに家宰は微笑んだ。

「私も登っている気持になっています、楽しいですよ?」
「うん、来月の北岳も楽しみにしてて?」
「天候次第では中止にして下さいね、」

話しながらコートたち片付けてくれる。
すぐ済んで、緊張と佇んだ二人に穏やかな笑顔むけてくれた。

「応接間にご案内します、どうぞ?」
「ありがとう、」

やわらかに微笑んで姉が姿見もう一度見る。
ローズベージュ上品なワンピースに白いカーディガン、その姿に笑いかけた。

「今日の姉ちゃん上品でいいね、よく似合ってる、」

どう見えるのか気になっているだろうな?
そんな仕草に笑いかけた先、色白やさしい笑顔が華やいだ。

「ありがとう、英二もカジュアルなのにフォーマルで似合ってるわ、シャツがシックね?」
「前に周太と選んだやつなんだ、」

笑って答えながら鼓動そっと絞められる。
こんなふう名前を声にするだけで心切られてしまう、こんな相手ほかに誰もいない。

―だから今日このシャツを着たかったんだよ、周太?

他に誰もいない唯ひとり、その名残を身に着けたかった。
そうして記憶ごと気配を感じられたら無意味な嫉妬もしないで済む、そんな本音に深い声が微笑んだ。

「佳い方ですね、古風で優しい、」

ほら、ちゃんと解ってくれる。
言わなくても見て読みとってしまう、その眼差しに尋ねた。

「祖父は書斎?」
「はい、お願い致します、」

肯いてくれる瞳は静かなままで、けれど笑い堪えている。
それは自分も同じだ、この同意と笑いかけた。

「姉ちゃん、関根、ちょっと呼んでくるから寛いでて?」
「うん、ありがとう英二、」

優しいアルト微笑んでくれる隣、長身の貌は緊張かすかに硬い。
その広やかなスーツの背中一発、ぱんっ、敲いて笑った。

「いてっ、なんだよ宮田?」
「緊張しすぎてるから喝入れてみた、ちょっと解れたろ?」

笑いかけた目線は同じくらい背が高い。
浅黒い貌ほっと和んで快活に笑ってくれた。

「ありがとな、俺なりに頑張んよ、」

俺なりに、

自分なりに等身大で、そう言えるなら大丈夫だろう。
この全く育ちが違う友人は頼もしい、その信頼に言った。

「関根なら大丈夫だよ、そのまんまで良い、」

笑いかけ踵返して石造りの階段を昇りだす。
絨毯を踏んでゆく脚に艶やかな黒い毛並よりそう、ふっさり尻尾なびかす愛犬に笑いかけた。

「ヴァイゼ、立籠り犯の確保よろしくな?」
「くんっ、」

茶色やわらかな瞳が見あげてくれる。
ちゃんと解っていますよ?そんな眼差しに微笑んで重厚な扉ノックした。

かたん、

ドアノブ回して押し開いた先、ゴブラン織り艶やかな安楽椅子に銀髪が座っている。
昼食と同じシャツにセーター重ねた普段着姿、けれど衿元のアスコットタイに意志を見て笑いかけた。

「監視塔からの印象は悪くなかったようですね?」

また庭から眺めていたのだろう、だからレースのカーテンも少し開いている。
こんな痕跡を残すなど周到ないつもと違う、その本音くすぶらす横顔は立ちあがった。

「ヴァイゼが初対面からボールを受けるなど珍しかろう、」
「そうですね、」

微笑んで応えながら傍らのジャーマンシェパードそっと撫でる。
大きな耳やわらかに掻いて茶色の瞳細めさす、そんな愛犬に祖父はため息吐いた。

「あの男、ヴァイゼを全く恐れておらんな。猛獣好きなのか?」

ジャーマンシェパードは大型犬、そのなかでも大柄で真黒な姿は威圧感がある。
けれど来客には関係ない、その理由を笑った。

「関根は空気で相手を見るところがあります、姉のこともそうでしょう、」
「なぜ英理のこともだと解かる?」

切り返してくる語調は往生際まだゆらぐ。
なんとか反対したくて堪らない、そんな困惑が可笑しいまま答えた。

「関根からすると姉と俺は全く似ていないそうですよ?姉弟と知った時は本気で驚いていました、」

姉と自分の顔立ちは似ていると幼い頃から言われる。
肌や髪の色も似ているから尚更だろう、けれど違う中身に祖父は言った。

「英二と英理は真逆だ、根暗と根明だからな、」
「その通りです、」

微笑んで肯定して愛犬の頭そっと押す。
その合図に巨犬は立ちあがり祖父の後ろへ回ると一声啼いた。

「おん、」

早くしてくれますか?
そんな促す声に端正な銀髪かしげ老人はため息吐いた。

「ヴァイゼまで会えと言うのか、あれはそんなに佳い男か?」
「ご自分で確かめて下さい、」

応えながら踵返して歩きだす、けれど動かない祖父に振向き告げた。

「敵前逃亡も遅刻も姉に嫌われますよ?それで良いなら俺だけで全て決めます、沈黙は委任の了解でよろしいですね?」

ここまで往生際ためらう祖父は初めて見る。
こんな姿を見られただけで自分は感謝しないといけないだろう?
つい可笑しくて笑い堪えて、けれど切ない真中で端正な老人は肖像画を見、そしてゆっくり歩きだした。



(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「The tables Turned」】

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山岳点景:光景一目

2015-02-10 21:00:07 | 写真:山岳点景
凍夜の光



山岳点景:光景一目

丹沢山系のヤビツ峠あたり、菜の花台から夜景です。
車で行けるポイントで標高は低いですけど寒かった、笑
夜の冬山はホント低体温症なり凍死なり起こしうるなと改めて。

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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚333

2015-02-10 01:25:04 | 雑談寓話
「本当に職場がらみは困るよね、でもあなたと彼の場合は嫌いな相手じゃないのが違うなって思うけど。恋愛だけの意味じゃなく彼のこと好きだろ?」

なんて歯医者に訊かれた年賀挨拶親戚まわりついでの三人飲み会@歯医者+大学時代の友達、
この回答は気をつけないと誤解トンデモナイだろなーなんて時に携帯電話がメール受信に振動して、

「おまえの携帯メール着たろ、話題の御曹司クンじゃないか?とりあえず返事してやれば?」
「読んでから考えるよ、笑」

ナンテ応えながらトリアエズ開封したら案の定、御曹司クンだった、

From:御曹司クン
本文:>新年あらたに大事にすべきモン大事にしな? 
   これどういう意味だよ、おまえのこと忘れろってこと?

この返事って何を求めているのか?
なんて解かるからそのまま返信しないで閉じたら、友達に訊かれた、

「返信しないのかよ?おまえって割とすぐ返信くれるのに、そんなメンドクサイ相手なワケ?」
「おまえならメンドクサクナイって想える?笑」

そのまま訊き返して、そしたら友達は首傾げこんだ。
こういう切りかえしは困るだろう、で、真面目な友達は困り顔になった、

「あーたしかにメンドクサイよなあ…俺も返事とかしなかったもんな、」

返事とかしなかっ「た」もんな、
なんて言っちゃって大丈夫かよ?って想ってたら歯医者が訊いた、

「しなかった、ってそういう経験がなんかあるってこと?」

ほら訊かれた、笑
こんな案の定に友達は凹んだ、

「それは心の傷だから訊かないでもらえる?凹」
「あ、ごめん、」

悪いことしたなって顔に歯医者はなって、で、こっちに振った、

「でも、あなたは本当にメンドクサイって思ってる?今のメールってバイセクシャルの彼だろうけど、」

またその話に戻るんだ?笑
こんな追及になんだか可笑しくて軽くツッコミ返した、

「未成年妄想ちゃんよりはメンドクサクないと思うよ?笑」

これでこいつも黙るだろ?
って思ったけどドッチかいうとイケメンな歯医者は言った、

「あれよりメンドクサイ人は少ないと思うよ?彼は勝手に話作って悲劇ぶったりはしないんだろ、」
「そこまで馬鹿なヤツではないね、笑」

笑って答えながらコイツも大変だなって思った、
で、ちょっと心配になって訊いてみた、

「まだ付きまとわれてんの?笑」
「年末年始でこっち来てるかもしれないけど、はっきり拒絶するだけだよ、」

答える貌はトリアエズ笑ってる感じで、だけど前よりスッキリしている。
ソレナリ肚が定まったのだろう、そんな貌に思いついて言った、

「もしツキマトイ行為があったら記録しておくと良いよ?メールや電話の履歴や内容とか、言われた事とか、一方的なプレゼントの事とか。ストーカー行為に困ってた証拠はあるほうがいいと思う、アッチがR18うんぬん騒いで責任とって結婚しろとか言いださないとも限らないしさ?」

ガキンチョの妄想恋愛ターゲットにされてしまった、
そんな顛末はされる方も阿呆だろう、で、こいつもナルシスト勘違い阿呆だってことは否めない。
だけどコイツには病院やらそこで働く人間やらを養っていく義務もある、その大多数を路頭に迷わすことは防いでやりたい。

なんて思いながらも内心やっぱりハリボテイケメン内面不細工に呆れてもいた。
だってコイツが最初からしっかりしていればガキンチョも早期改善できた可能性がある、そんな現実に歯医者は言った、

「前にも教えてくれたから対処はしてあるよ、ベテランさんも次またなんか言いだしたら妙な噂は病院を潰すからイイカゲンにしろって言うつもり、」

お、ちょっと経営者の自覚シッカリしだしたのかな?
とか思いながら、もう一人の経営者後継ぎクンをちょっと思いだしていた。

ホント御曹司クンこそ「妙な噂」が実家会社を潰しかねないよな?


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雑談寓話:或るフィクション&ノンフィクション@御曹司譚332

2015-02-09 13:20:10 | 雑談寓話
「あのバイセクシャルだって彼とはどうなった?転職したから毎日は会えないだろうけど、」

なんて言われた年賀挨拶親戚まわりついでの三人飲み会、
やっぱりその話題になるのかと感心しながらも訊き返した、

「そんなに御曹司クンが気になるとかって、もしかしてバイに目覚めたとか?笑」

ほんと御曹司クンの話は皆が気にするところだな?
そんな現状に歯医者が言った、

「男に恋愛感情は無いけど、あなたをすごく好きな彼の気持ちは解かるなって思うから、」

なんだか微妙な言葉だな?
って思ったら大学からの友達葭田(仮名)が言った、

「確かにものすごく好かれたりするとこあるな?一過性だと恋の熱病ってヤツみたいにさ、笑顔」

コイツほんとたまに言い回しが微妙だ?
そう思ったまま軽くSってやった、

「おまえコソものすごーく好かれたことあったよね、ゼミの先輩だったっけ?笑」

これは弱点で黒歴史だろう?笑
たぶん一番痛いトコ突いてやったら友達は慌て凹んだ、

「だからそれ言うなよマジで、ほんとせっかく忘れかけてたのに、凹」
「忘れかけるくらいなら大丈夫だろ、ねえ?笑」

笑顔で言いながらジントニックかナンカ呑んで、その向かいで歯医者が言った。

「ものすごーく好かれるって普通は嬉しく聞こえるだろうけど、現実的には相手によったら本当に困るよね?」
「だろ?だから俺もホントに困ったから凹むんだって、」

救い手だーみたいな貌で友達が頷いて、その貌が可笑しくて笑って言った、

「ソンナにおまえも困ったんなら自分も困ってるって考えろよ?職場がらみとかホント困るよ、笑」

ほんとアレコレ困った、だから歯医者が「相手によったら」体験の困惑×嫌悪も解かるし友達の凹も解かる。
けれど自分と二人には1つだけでも大きな差があるだろう?
その違いに歯医者が尋ねた。

「本当に職場がらみは困るよね、でもあなたと彼の場合は嫌いな相手じゃないのが違うなって思うけど。恋愛だけの意味じゃなく彼のこと好きだろ?」

この回答、気をつけないと誤解トンデモナイだろな?笑

なんて考えているハシから携帯電話がメール受信に振動して、
タイミングが良いんだか悪いんだかって笑ったら友達が言った、

「おまえの携帯メール着たろ、話題の御曹司クンじゃないか?とりあえず返事してやれば?」
「読んでから考えるよ、笑」

ナンテ応えながらメールトリアエズ開封しながら思った、
こういうときLINEだと既読やらなんやらきっとメンドクサイだろう?

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第82話 誓文 act.3-side story「陽はまた昇る」

2015-02-08 22:30:00 | 陽はまた昇るside story
Our meddling intellect 識見の葛藤



第82話 誓文 act.3-side story「陽はまた昇る」

箸を動かしながら、左手は書類を繰る。

ぱちり暖炉の爆ぜて足許の黒犬すこし顔を上げさす、その大きな耳そっと撫でてやる。
また視線ダイニングテーブルに活字を追いながら八寸皿は空いて、英二は家宰に笑いかけた。

「里芋のやつ旨かったよ、中森さん、また腕上げたね?」
「お好みなら良かったです、次お持ちしますね、」

微笑んで皿を下げてくれる、その姿勢が端正で美しい。
変わらないロマンスグレーの背を見送り、テーブル越し祖父が訊いた。

「それが私の把握している全てだ、英二の補足と見解を聴きたい、」

こんな訊き方ってどうなんだ?
けれど祖父には無理ないのかもしれない、いつにない貌へ微笑んだ。

「部下に報告を求めるような訊き方ですね、大事な孫娘のことに事務的すぎますよ?」

大事な最愛の孫娘、だからこそ事務的になってしまう。
そういう祖父なのだと今はすこし解る、そんな理解に端整な老人はため息吐いた。

「どんな顔して良いのか解らんのだ、美貴子の時と違い過ぎて、」
「でしょうね、」

相槌しながら笑いたくなる。
この男がこんなに狼狽えるなんて意外だ、だから解る。

―ほんと姉ちゃんが弱点だな、それだけ後悔があるってことか、

後悔の分だけ孫娘を大事にしたい、嫌われたくない。
そんな想いの原点を口にした。

「さっき肖像画を見ましたけど姉ちゃん、お祖母さんとまた似てきましたよ?母さんより似ています、」

これが祖父の後悔で弱点で、そして唯一の愛だろう?
その確認に笑いかけた真中で白皙の貌は顰めた。

「英二、私に心構えしろと言っておるのか?」
「この束を見れば言いたくなりますよ、」

言いながら書類の束を手に呆れてしまう。
これだけ調べるなんて余程だろう?そんな本音つい笑った。

「落ち度を見つけて姉ちゃんが嫌うよう仕向けたかったんでしょう?ご満足の欠点は見つけられたんですか、」

見つけていたら先ず言うだろうな?
そう推測どおり祖父はため息吐いた。

「その言い方、英理が嫌う欠点は無いということか?」
「あなたは受容れ難いですか?」

訊き返したテーブル、次の料理が供される。
ふわり出汁の香やわらかな膳に有能なロマンスグレーへ笑いかけた。

「良い香だね、昆布と椎茸の出汁に柚子?」
「はい、」

肯いてくれる微笑は変わらず温かい。
けれど今すこし悪戯っ子に見える、その眼差しに尋ねた。

「中森さんもこの調査書、読んだ?」
「拝見しました、チェックを仰せつかったので、」

答えてくれる声はいつもどおり落着いている。
でも本当は笑いたいだろう?そんな相手に訊いてみた。

「中森さんはどう思う?率直なとこ聴かせてよ、」
「はい、」

頷きながらロマンスグレー少し傾ける。
その仕草に気がついて箸とりながら笑いかけた。

「祖父に遠慮はいらないよ、それで良いですよね?」

投げかけたテーブルに祖父が両手を組む。
長い指しなやかな手は齢より若い、けれど珍しく困惑した貌は言った。

「中森、忌憚なく話せ。英理を想うなら正直に言ってくれ、」

こんなふうに祖父も言えるんだな?
意外で、意外な分だけ幼稚だった自分を気づかされながら家宰は口開いた。

「では率直に申し上げます、入り婿されるなら此方のご親戚づきあいは苦労されるでしょう。また町工場のご次男ならお兄さんを手伝うかもしれません、和歌山に行かれる覚悟も必要だと思います。でも英理さんが今のような贅沢をされないなら、良いお相手ではないでしょうか?」

苦労、覚悟、そして条件。
どれも率直に納得させてくれる、この聡い家宰に微笑んだ。

「俺も中森さんと同じこと思ってるよ?あいつ良いヤツだけど堅苦しいのは苦手なんだ、元ヤンキーだしさ、」
「はい、それをご親戚に突かれた時どう対応できるかでしょう、」

落着いた声は明確に言ってくれる、その意味をストレートに笑いかけた。

「生活レベルとグレてたことを攻撃ネタにされるってことだろ?」
「それを熟せる方なら問題ないかと、」

応える微笑は落着いている。
この家宰も同じ意見なら大丈夫だろう、けれどテーブル越し声が徹った。

「文句を言わせる男など面倒だ、会う必要もない。英理ならもっと良い相手いくらでもいる、」

やっぱり反対したくて仕方ない。
こんな往生際に言いたい事まっすぐ笑った。

「あなたが選んだ相手で母はどうなりましたか?」

これは殺し文句だろう?
解って言った先、白皙端整な老人は眉を上げた。

「美貴子と英理は違う、賢い娘だからな、」
「賢いなら本人の判断に任せても大丈夫でしょう?違いますか、」

言い返しながら膳に箸つける。
出汁の香ゆたかな惣菜は温かい、その作り手に笑いかけた。

「旨いよ、蕪が甘いね?」
「生でも甘いですよ、漬物でもお出しします、」

微笑んで応える瞳が笑い堪えている。
それくらい今めずらしい貌した祖父はため息と言った。

「会わなければ英理の判断を信じないと示すことになるか、だが元から期待も信頼もされていないだろう、」

信頼など元からない、確かにそうだろう。
けれど今日次第である可能性に微笑んだ。

「会えば信頼を得ると思います、あなたが家柄や財産で人を判断しないと解ればね?」
「英理に媚びろと言っているのか、」

言い返す言葉は祖父らしいだろう。
けれど今日はらしくない溜息ひとつ、深い声は言った。

「英理が選んだ男をフラットに見てやろう、それで気に入らなければ私は賛成しない。あとは英二がなんとかしろ、」

とりあえず面会の承諾は得られたな?
この顛末に家宰は微笑んでロマンスグレーの髪傾けた。

「英二さん、お部屋は応接間でよろしいですか?」
「いいよ、紅茶でお願いします、」

こう言えば解ってくれるだろう、その信頼に穏やかな笑顔は肯いた。

「英理さんがお好きな銘柄でよろしいですね?」

もう解って支度している。
そんな返事に温もり感謝しながら笑いかけた。

「それでお願いします、姉ちゃんが好きな菓子も焼けるかな?」
「14時ちょうどに焼きあがります、」

やわらかな笑顔の支度は落ちが無い。
この優しい心遣いに微笑んで食卓の向こうへ告げた。

「腕組みを解いて食事して下さい、腹が減っては戦も出来ないでしょう?」

これが心配で中森は自分を昼食から呼んだ。
そんなハンガーストライキしそうな男が溜息まじり訊いた。

「戦と言うほど手強い相手なのか?町工場の次男坊でありきたりの警察官が、」

こういう言い方するから避けられるのにな?
この言動も祖父自身に悪意は無い、それくらい異世界の対面予定に笑った。

「あなたには手強い男ですよ、知らないタイプでしょうから、」

あの真直ぐな眼に祖父は何を想うのだろう?
その出会いは心配も多くて、それ以上に愉しみな本音つい考えている。

―周太を連れて来たらどうなるんだろな、男同士だけど?

女だったら文句は無い、

きっとそう言われるだろう、その唯一点に拒むだろうか?
そう考えれば姉とその相手はハードルが低い、そして望めるだろう幸福を祈りたい。


(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「The tables Turned」】

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