水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

「幕が上がる」

2021年08月01日 | 学年だよりなど
1学年だより「幕が上がる」


 平田オリザ作『幕が上がる』(講談社文庫)は、高校演劇を題材にした小説だ。
 北関東のとある高校に通う高橋さおりは、高校2年の秋大会の後、演劇部の部長になった。
 他の4人の部員と話し合って「地区大会突破、県大会出場」を目標に掲げ、新体制での活動をはじめる。とは言え、顧問は演劇については専門外で、自分たちでなんとかしていかねばならない。
 新体制になってからの寒い季節、みんなで基礎練習などに取り組んでみたものの、運動部のように練習試合があるわけではないし、実力がついているのかどうかの実感がわかない。
 日が経つにつれて、部員のモチベーションも下がっていった。
 新年度を迎えた。
 さしあたり新入部員を確保しなければ……。5人のままでは出来ることがあまりに限られていた。
 三年生になった3人は、自分たちの進路についても考えなければならない状況になっていた。
 そんな彼女たち(男子部員は2年の1名だけ)に転機がおとずれた。
 新任の美術の先生が、大学で演劇をやっていたという情報を耳にする。
「顧問になってほしい」と頼みに行ったさおり達を、吉岡先生はコーヒーをいれて迎えてくれた。 新入生オリエンテーションでの、演劇部のパフォーマンスを、吉岡先生も興味をもって見てくれていたようだった。
 毎日じゃなくてもいいから練習を見てほしいと言うさおり達にこう答える。


~ 「美術部のこともあるし、新人だから、いろいろ研修とかもあるのね。……まず、私も高校演劇 のこと、少し勉強してみるよ」
「ありがとうございます」
「大会があるんでしょう?」
「秋です。秋までに、頑張りたいんです。地区大会で三番以内になって、県大会が目標です」
「何だ、小っちゃいな、目標」
「え?」
「行こうよ、全国大会」     (平田オリザ『幕が上がる』講談社文庫) ~


 美術部も任され、初任者研修もある吉岡先生が演劇部に来られるのは、せいぜい週に一回。しかし、来てくれた時の部員の上達ぶりは目を見張るものがある。
 身体の動かし方、変な顔のアドバイスなど、芝居の本筋とは関係なさそうな一言を口にし、しかし言われた子はそのあと格段に上手くなる。
「上手くなったって言うか、自由になっ」ていくのだった。
 新入部員も含めて12人になった演劇部の面々は、めきめきと成長していく。
 6月の学校公演を成功させたあと、吉岡先生は部員達を集めた。改まった表情で、「今のみんなの実力だったら、県大会どころか、関東大会を狙える」と話し始める。
コメント
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